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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
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第二百十六話 ホームレスの説教

 シュウはココナが運転する軽自動車の助手席に乗っていた。異人支援協会JAI(ジャイ)の支部は三葉町(みつばちょう)に位置し、ココナ宅から車で十五分ほどだ。途中でムーンボックスカフェ、通称ムンボに寄りアイスコーヒーをテイクアウトしている。


 ココナは運転が好きらしく上機嫌だ。「音楽なに流そうかな」と聞いてくる。「別になんでもいいです」とシュウは答えた。少し思案した後、こう言った。


「じゃあ、カリスにしようかなー。私、初期からの大ファンなの」


 シュウの表情が硬くなった。シャーロットの死のトラウマが胸を抉る。無意識に呼吸が浅くなる。ココナはシュウの変化に気が付いた。


「あれ? カリス……好きじゃないの? 異人の歌姫なのに?」


「いえ、大丈夫。カリスで良いですよ」


「ふーん、じゃあミチノにしようかなー。この子も異人アーティストだよね、私大好き」


 ミチノもカリス同様、ウェブで活動し、素顔を明かさない歌手だ。マイチューブのチャンネル登録者数は五千万人。因みに先駆者であるカリスは先月に九千万人を超えた。


「どうして異人の支援をしているんですか?」シュウは疑問を口にした。「母が異人の支援をしていたの」ココナは答える。


 母という単語を出したココナの横顔は複雑な表情を帯びた。少なくとも先刻までの楽天的な笑みは消えている。シュウはそれ以上何も聞かず、フロントガラスを流れる街並みを眺めていた。


 ジャイに出社したココナは忙しい。部署は広報で仕事内容は取材の対応や情報発信、イベント企画。席に着いてからはメールチェックやら電話やら手が止まることはない。来客や利用者の受付までこなしている。


 シュウはそれを後ろから眺めていた。今日は護衛のフォローで夏目和彦が同席している。細い目で強面の中年だ。夏目はホームレスだが、最近は奇麗な服を着ており臭いもない。


「頭が下がるね、滝本さんの働きっぷりは。ホームレスの自分が申し訳なく思ってしまうよ。なあ、少年」


「さっき車で聞いたんですが、お母さんが異人の支援をしていたとか。あの情熱はその影響だそうですよ、ナツさん」


 夏目の顔が曇る。「……していた、か。過去形だな、亡くなったのか?」そう問うた。「分かりません、そこまで聞きませんでした」シュウはココナの表情を思い出していた。何となく踏み込まない方がいい話題のような気がしていた。


「ココナさんは顧客ですからね。必要以上に干渉はしません」


 夏目は笑った。


「頑なだな、過去に顧客とトラブルでもあったのかい」


 シュウは無言で返す。


「私は仕事に感情移入することが悪いとは思わんよ。働く彼女を見ていてなおさら思う」


 思わず夏目を睨んだ。夏目はシュウの視線を受け流し、ひょうひょうと説教する。


「若者の強みは怖いもの知らずの情熱だよ、少年。むしろそれくらいしか取り柄がない。感情と仕事を分けられるほど、君は器用じゃないし、大人じゃない。とことんのめり込み、最大限の努力をする。そっちの方が君らしいと思うがね。まあ、無職のホームレスに言われたくはないだろうが、若者に説教できるのは中年の特権だと思ってほしい」


「うるさいなー、どうせ俺は冷めてるよ!」


 シュウは夏目に拳を突き出した。夏目はニヤリと笑い、それを掴む。「そうだ、少年。私のマナ壁を砕いた勢いを思い出すといい」と言い足した。その様子は端から見ると親子のように見えた。

【参照】

シャーロットの死→第四十四話 世界の終わり

ムンボ→第百十五話 雨夜の勘

夏目和彦とジャイ→第百四十二話 夏目和彦

夏目のマナ壁を砕く→第百四十九話 ホームレス村の戦い


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