表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
213/320

第二百十三話 自殺しました

 私には父親がいない。母と二人で生きてきた。母と二人、それが普通ではないと知ったのは小学校に入った頃だ。入学式、授業参観、運動会、他の子には父親がいる。自分には母親しかいない。


 今時、母子家庭は珍しいことではないので苛められることはなかったが、あらゆるシーンで気を遣われた。


「お父さんいないの?」「あれ、お父さん来ないんだ」「あ、ごめん。色々あるよね」「ねえねえ、空気読みなよ!」「ほんと、サイッテー。可哀想じゃん」高学年に上がる頃には慣れた。


 丁度その頃、学校では別の問題が起こっていた。異人と呼ばれる超能力者への差別が社会問題になっていた時だ。特殊能力者協会が設立される前のこと、異人を守る法律もない。クラスには異人児童が何人かいた。皆、苛められていた。教師は見て見ぬ振りをしていた。私は苛めに加担しなかった。


 異人を怖いと思わなかったのは、母の影響が大きい。母は異人に対して友好的だった。子供の頃から支援団体のイベントに参加していた。物を浮かせたり、手が光ったり、力持ちだったり……それだけだ、普通人との違いは。そう思っていたし、今も思っている。


 母は医療系の会社で働きながら、ボランティアで異人の支援をしていた。忙しい人だったが、私に愛情を注いでくれていた。当時、異人支援には賛否両論あった。どちらかと言うと否の方が多かった。近所から嫌がらせを受けることもあった。遠い親戚とは絶縁していた。


 この頃は、ある精神疾患が問題となっていた。異人病だ。病名のとおり、異人が原因だという専門家がいた。異人差別が加速した。異人病は普通人も罹患する。悪化すると自殺、あるいは脳死に至る。特効薬はない。企業がこぞって薬の開発を始めた。噂では臨床試験で多数の死者が出たそうだが、ニュースにはなっていない。日本だけでなく世界に見られた傾向だった。


 中学生の頃、一度だけ聞いたことがある。「お父さんってどんな人だったの?」母は答えた。「優しい人だったよ」ありきたりの回答。何の変哲もない言葉。それ以上聞かなかった。ただ、日頃の母の生き方で薄々と気付いていた。


――お父さんは異人だったんでしょう?


 大学に行くつもりはなかった。高卒でいい。早く働いて家に金を入れたかった。母に感謝していた。一生懸命勉強し、ボランティアにも参加した。幼少期、愛情はあったがお金はなかった。裕福な生活ではなかった。日頃から異人の差別を目の当たりにしていた。自然と社会的弱者を支援する業界に興味を持った。


 就活をしていた頃のことだ。インターネットの世界で革新的なことが起きた。異人の歌姫カリスの誕生だ。国籍や年齢は不詳だが、自分が異人であると公表していた。私はカリスがマイチューブに姿を現した、本当の初期から彼女の音楽を聴いていた。瞬く間に人気が出て遠い存在になってしまったが、彼女がまだまだ駆け出しの頃からのファンだった。彼女は私の人生に影響を与えた。


 高校三年生の頃、内定をもらった。異人の就労をサポートする会社だ。異人業界ではそこそこの大手。既に協会(トクノー)が設立、特能法が施行されていて、異人ブームが沸き起こっていた頃だ。景気がよく、充実した福利厚生、給与も新卒にしては高い。応援してくれていた母を喜ばせられる。絶縁していた親戚を見返せる。私の人生はこれから始まる。たくさんの困っている人を救うんだ。


 私は浮き足立っていた。母に内定の連絡をしようとスマートフォンを手にした時、一本の電話がかかってきた。知らない番号だ。数コール後、私は出た。


「……はい?」


「お忙しいところ恐れ入ります。滝本ココナさんでいらっしゃいますか?」


「……そうですけど」


「警察です。あなたのお母さん、滝本心春(たきもとこはる)さんが自殺しました」


 通話の声が遠くに聞こえる。母が死んだ。私を置いて。私はゆっくりとスマホを切った。やけに晴れた青空が胸中の虚無感とリンクしているように思えた。

【参照】

特殊能力者協会について→第二十四話 特殊能力者協会

異人の歌姫カリスについて→第三十一話 無価値な世界

滝本ココナについて→第百四十二話 夏目和彦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ