第二百十話 復讐の炎
少女は目を閉じて座っていた。年齢は十代前半といったところか、つんつん跳ねた赤毛のボブヘアで着古したポンチョを身に纏っている。
そこは薄暗い部屋だった。ひんやりとした空気が流れている。事務所のように見えなくもないが、もう何年も使用された形跡がない。天井には蜘蛛の巣、床には瓦礫が散らかっている。赤毛の少女は瓦礫の上に座っていた。
「……どこかで大きな爆発があったよ」
目を開けて誰ともなしに呟いた。奇妙なことに瞳の色が真っ赤である。暗闇の中、赤い瞳が妖しく光っていた。
「アフィ、何か視えたのか」
部屋の中にもう一人少年がいた。無造作に伸びた黒髪と、左目を跨いだ切り傷が目を引いた。腰には湾曲した短剣を二本差している。まだ幼さを残した顔立ちだが、内に秘めるマナ量は通常の異人と比べて桁違いだ。
「うん……ヤミは何か感じなかったの?」
部屋の隅にいる少年に声を掛ける。
「オレは何も感じない、昔から鈍いからな。アフィも知っているだろう」
「ふふ、そうだね。ヤミは鈍い。リィも怒ってた」
二人は兄妹である。サルティ連邦共和国のサガ村に住んでいた。その村は民族浄化に遭い既に消滅している。
カンカンカンと階段を降りる音が聞こえてきた。静かな空間だからよく響く。ヤミがマナを<展開>させ部屋を覆った。その波動は龍の咆哮のように鋭い。
「威嚇しないでよ。あたし、ジャスミンよ。ソナムとリアも来てる」
黒のロングヘアを後ろに束ねた少女が部屋に入ってきた。彼女の名をジャスミンという。そしてその後に二人の男女が続く。ソナムとリアだ。
ソナムはぼさぼさの黒髪で亡霊のように不吉な雰囲気を纏っている。リアは茶色いポニーテールである。五人の中では一番幼く、表情がない。感情を感じさせない。
「揃ったか」
ヤミが一同を見回した。
五人には共通点があった。皆、家族と故郷をなくしている。彼等には帰る国が無かった。政府を恨み、世界を憎んだ。そしてテロリストになった。
現在は「ファイブソウルズ」と名乗っている。復讐の炎に身を焼かれながら。
【参照】
ヤミとアフィの過去①→第四十八話 サルティ連邦共和国
ヤミとアフィの過去②→第四十九話 誓いの炎
ファイブソウルズ→第五十二話 ファイブソウルズ
ファイブソウルズのヤミ→第六十五話 野生の龍
ファイブソウルズのジャスミン→第七十一話 ジャスミンの正体
ファイブソウルズのリア→第九十四話 一触即発
ファイブソウルズのソナム→第九十六話 鷹眼のソジュン




