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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第二十一話 ワンピースと追跡者

 リンとチェンは東銀を歩いていた。


「リン姉ちゃん。どこに行くの? 僕、暇じゃないんだけど……」


 リンと話す時のチェンは吉田と闇の案件について話す時のチェンとはまるで別人だ。しおらしい。リンは姉のような存在で何か思うことがあってもあまり強く言えないのだ。


「私は今日オフです。服を買いに行きたいのですが、男の人の意見が欲しいのです」


 リンの目的地は氷川市の百貨店、高広屋である。百貨店という業態は半世紀以上前から下火であったが、増える外国客や移民、難民の影響、つまりインバウンド需要が高まることにより、滅びることなく、不死鳥のように蘇っていた。


「チェン。私にワンピースは似合うと思いますか?」


「えぇ? どうだろうなぁ」


「はっきり言ってもいいですよ。私の私服はマジでダサいと。だから兄さんはいつまでも私を妹扱いするのでしょう。今日はお洒落なワンピースを買うまで帰りません」


 リンは大人しそうに見えて強情である。今日は一日付き合わされるかもしれないと覚悟を決めた。五つの店を回って二時間ほど経過した時、後ろから声を掛けられた。


「あら、リンさん。こんにちは」


 二人が振り返ると、そこにはシャーロットが笑顔で立っていた。彼女はモノトーンの小花柄ワンピースをふわっと着込んでおり、軽やかに揺れる裾が大人の色香を漂わせている。


 東銀では見掛けないタイプの可憐な女子を目の前に、チェンは思わず見とれてしまった。その視線に気が付いたシャーロットはにこっと笑い白い歯を見せる。


「私はシャーロットと申します。あなたはリンさんとはどういったご関係ですか?」


「僕はチェン。リンさんとシュウさんは取引先というか……兄弟というか……。仲良くしてもらっています」


 チェンはリンとシャーロットの顔を交互に見る。リンは事務的に紹介した。


「シャーロット様は便利屋金蚊のお客様です。昨日お会いしました」


「ああ、そうなんだ……へー」


 チェンは改めてシャーロットを眺める。


(……ん? ワンピース? ああ、なるほど。この人がリン姉のライバルってことか)


 勘が鋭いチェンは現状をほぼ把握した。しかし、これは相手が悪すぎる。


 リンは文句なしに可愛い。便利屋の看板娘としての役目は十分に果たしている。ただ、その可愛さは「学生のクラスメート」のようなレベルである。では、目の前にいるシャーロットはどうか。リンより年上の彼女はまるで女優のような美しさがあった。


「リンさんとチェンさんは仲が良いのですね! チェンくん、私とも仲良くしてくださいね」


 シャーロットは前に屈んで、まだ子供のチェンと同じ目線にしてから笑顔で言った。


「あ、ああ。それはもちろん」


 気のせいかもしれないが、良い香りがする。チェンはすっかり照れてしまった。リンは相変わらず無表情である。シャーロットはチェンの頭を撫でた後、リンに視線を移した。


「リンさん。ワンピースをお探しですか?」


「え、はい……」


 変な沈黙。シャーロットに自分の感情を見透かされているようで気まずいのである。数秒の沈黙後、シャーロットが両手をパンッと合わせた。


「リンさんは外ハネボブでスタイリッシュですから、カジュアル寄りのコーデでバランスが取れると思いますよ」


 シャーロットはリンの横で服を探し始めた。


「あ、あの……」


 普段、冷静なリンがシャーロットの想定外の行動に焦る。


「それにリンさんは長くて奇麗な足をしていますから、それは見せた方が良いと思います。若いうちですよ! 私は自信ないので無理ですけどね。ワンピースよりチュニックはいかがですか? ちょっと透け感のあるチュールトップスも羽織っちゃいましょう!」


「え? あ……」


 シャーロットは次々と服を渡していく。面を食らったリンは思わず値札を見るが、予算内の価格であった。


「リン姉ちゃん。試着しなよ。僕たち待っているから」


「う、うん。分かりました。ま、待っていてください。先に帰らないでくださいね」


 シャーロットとチェンは笑顔でリンを見送った。試着室の前で待つこと五分――。カーテンを開けてリンが出てきた。まんざらでもなさそうな顔をしている。


「ど、どうでしょうか? ちょっと太もも見えすぎですか……?」


 シャーロットは満面の笑顔である。両手を胸の前で組んで、本当に嬉しそうに答えた。


「とっっても! お似合いですー! あーん、可愛い! 足キレイ!」


「ありがとう……ございます」


 リンは戸惑いながらもシャーロットが創り出す心地の良い空気に癒されるのを感じていた。


「あの、シャーロットさん。このまま買えますか?」


 シャーロットは胸の前で小さくガッツポーズを取って笑顔で答えた。


「大丈夫ですよ! タグは切ってもらいましょう」


 リンとシャーロットはレジに向かった。チェンは二人を見送ると溜め息をつく。


(すげーな、シャーロットさん。秒で人見知りのリン姉を手懐けた。こりゃ精神感応系の異能と言われても驚かねーな)


 会計後、リンとシャーロットはチェンと合流してレストラン街へ向かう。浮かれていた三人は自分達を尾行する少年の影に気が付かなかった。


「ふーん……」


 その少年はギフターの黒川南であった。先日フィオナと共にカラーズの追跡を終えた南は新たな任務に就いていた。


「カリスの仲間……か」


 南は眠そうな顔でスマートフォンを手に取ると、トクノーアプリを開いて本部に報告を上げた。

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