第二百六話 異人狩りの不意打ち
そこは第一級河川沿いの廃棄物処理場であった。大きな柵に囲われた巨大な施設で現在は稼働していない。施設の東側は土手と荒廃した土地、大きな川が流れている。人気はなく寂しい場所である。
「ここか、奴等が立て籠もったのは……」
スメラギは廃棄物処理場の前に立っていた。出入り口にイエローの規制線が貼られているが、人の姿は見えない。ここは以前ファイブソウルズと名乗るテロ組織が騎士団のアリスとシンポジウム参加者を拉致して立て籠もった場所である。協会と警察が捜査をしているが、進捗は芳しくないらしい。
スメラギはテープを潜って中に入った。目に入るのはゴミの選別コンベアや圧縮機である。ここで人質を「人間の盾」として使い、協会と騎士団に身代金を要求した――。スメラギはそう聞いていた。
ママラガンに所属するスメラギには仲間がいる。彼等は既に日本へ潜伏し、水面下で動いているのだ。
「ラリーンが言っていたな。奴等は王殺しと絶対零度に狩られたと……」
ラリーンはスパイ活動を得意とするメンバーである。クレオパトラを彷彿とさせる魅惑的な美女でスメラギとは旧知の仲だ。今は荒川第一難民キャンプに潜伏している。
「副団長の光剣の乙女を人質に取った時点で終わっているな。協会と騎士団を同時に敵に回すなんて馬鹿な奴等だ。やっぱファイブソウルズを騙った偽物か」
スメラギは床に転がっている空き缶を蹴飛ばした。カランカランと甲高い音が施設内にこだまする。
「奴らは異人革命戦線の釈放を要求しているんだよなぁ」
スメラギはスマートフォンで動画を観ている。ファイブソウルズを名乗る組織が協会や騎士団に送った脅迫動画だ。因みにネット上では既に削除されており、視聴はできない。
「こいつら、異人革命戦線にしては雑魚過ぎる。奴等の後ろには大国パキンがいて戦力は軍隊並みにあるからな……ってことは、ただの身代金目的で、大した思想はなかったってことかね。死んじまっているから確認しようもねぇや。……ん?」
スメラギがタバコを咥えて火を点けようとした瞬間である。背後から気配を感じ、思わず振り返った。すると眼前に槍のようなものが迫っていた。
「おっと!」
身体を捻って回避すると、その半透明の槍は後ろのベルトコンベアを貫いた。凄まじい速度と威力が衝撃音から伝わってくる。スメラギはタバコを吐き捨てると出入り口の方を睨んだ。そこには紫色の髪をしたビジュアル系の男が立っている。
「ひゃはは、やるなぁ。もじゃもじゃ頭」
「何だ、お前」
その男は異人狩りのリーダー、ツクモだった。危険なマナを感じ取りスメラギは警戒度を上げる。ツクモは歪んだ笑みを浮かべてゆっくりと近付いてきた。
【参照】
絶対零度→第四十五話 絶対零度
異人革命戦線→第四十九話 誓いの炎
王殺し→第五十七話 アルテミシア騎士団長
ママラガン→第百一話 あの男
シンポジウムのテロ→第百八話 魔女の千里眼
異人狩りのツクモ①→第百五十一話 異人狩り
光剣の乙女→第百五十九話 アルテミシアの三乙女
異人狩りのツクモ②→第百八十三話 遭遇




