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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十一章 みぞれの城 ――フィオナ=ラクルテル編――
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第二百一話 フィオナの胸の高鳴り

「南くーん、副会長の命令で迎えに来たよー」


 入ってきたのはクラス委員の朱雀華恋であった。ワインレッドのロングヘアをハーフアップにしてクリップで留めているお洒落な女子である。クラスで問題児の南を何かと気に掛ける優等生だ。


 言い争う三乙女とソファーでフリーズしている南を順に見ると全てを悟ったかのように笑った。


「あはは、お取り込み中失礼します。副会長から連絡が来まして……マスターキーを借りて部屋に入りました。あ、南くんは連れて行きますね」


 華恋は遠慮することなく三人の横を通り過ぎて南の手を取った。慌ててフィオナがそれを止める。


「ちょっと朱雀さん、今大事な話をしているの。部外者は入ってこないでほしいわね」


「部外者じゃないよ、南くんはクラスメイトだもの。委員長の私には彼を見守る義務があるんだよ」


 華恋は隙のない優等生スマイルを浮かべて、ぴしゃりと言い切り、「それに……」と続ける。


「勝負をかけるならホテルの方が良かったんじゃないかな。ここみたいに邪魔が入らないしね。もし自室でなら……私ならマナ結界くらい張るかも、簡単に覗かれちゃうし」


 華恋の指摘は正しかった。計画が亜梨沙に露見したのは結界を張らなかったからだ。宿舎だったので尚更発覚が早かったのである。


「……言ってくれるわね、あなた本当に腹黒いわ」


 フィオナは溜息をついてうなだれる。南はそんなフィオナを見ながら立ち上がると、ぼそりと呟いた。


「美味しかった……料理とケーキ……何か意外だった」


「え?」


 フィオナは驚いた様子で目を見開いた。心臓の鼓動が早くなり、白い肌にうっすらと紅が差した。


「じゃあ、ラクルテルさん、騎士団の方々、失礼しまーす。行こうか、南くん」


 南は華恋に連れられて部屋を出て行った。後には三乙女が残される。何とも言えない空気が流れ、脱力する。ブリュンヒルトがIHコンロの鍋を見て言った。


「あー、何か疲れたよ。腹減ったし、三人であれ食べようよ。どうやら美味いって話だし。夜回りのミーティングしながらさ」


「そうですね、ダーカー、反社の抗争、異人テロ犯、ホームレスの暴行事件……問題は山積みですから、真面目な話をしましょう。フィオナさん、お料理いただいてもよろしいですか? あ、ボルシチですねえ」


 アリスは嬉しそうにIHのスイッチを入れた。


「……え? ええ、どうぞ。食後にケーキもあるわ。よかったら食べていって」


 南の言葉を反芻していたフィオナは慌てて取り繕う。南の「美味しい」の一言で胸のモヤモヤが晴れる自分の単純さに呆れながら、テレビの電源をオフにした。


 雪が降るシュネーレーゲンブルクでクートーに言われたことを思い出す。


――自分が生まれた意味なんて自分が死ぬまで分からないが……自分が何のために生きるのか、それは今後の行動次第で見付かるだろう――


 あの時にはなかった胸の高鳴りが、今はある。フィオナは胸に手を当てて、微かに微笑んだ。

【参照】

反社の抗争→ 第二十九話 龍の襲来

朱雀華恋について①→第五十六話 異能訓練校

朱雀華恋について②→第六十一話 朱雀華恋

異人テロ犯①→第九十八話 世界の平和

異人テロ犯②→第百一話 あの男

ホームレス暴行→第百五十一話 異人狩り

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