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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十一章 みぞれの城 ――フィオナ=ラクルテル編――
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第百九十九話 女騎士の本音トーク

「ちょっと待っていて、そこから動いたら駄目よ」


 フィオナは南から離れると玄関の方へ姿を消した。動こうにもまだ念力が利いていてそれも叶わない。室内扉の向こうで何やら言い争う声が聞こえてくる。しばらくしてフィオナがリビングへ戻ってきたが、一人ではなかった。微笑を浮かべたアリスと不機嫌そうなブリュンヒルトがいる。


 ブリュンヒルトはソファーの上で着衣が乱れている南を見ると顔を引きつらせた。


「ちょっとフィオナ、それ暴行(はんざい)じゃん!」


「人聞きの悪いことを言わないでくれるかしら。互いに同意のもと、行為に及ぶところだったのよ」


 アリスが卓上に放置されているフィオナのスマートフォンを手に取るとメッセージを開いた。


「フィオナさん、副会長から着信とメールが届いています。『それ以上やったら契約違反。殺すわよ、泥棒猫』……だそうですよ。千里眼で全て視られていたようですね。私達に南くんを救うよう命令が来たのですよ」


 アリスはそう言うと南を縛っている念力を解いた。部屋の中でアルテミシアの三乙女が睨み合っている。男が入っていけない不思議な迫力があった。


「東北から千里眼で視ているなんて、どれだけ暇なのかしら。あの女」


 フィオナがぼそりと呟いた。ブリュンヒルトが手を腰に当てて天井を仰ぐと口を開く。


「魔女の千里眼は音声まで拾えないよな。じゃあ本音トークでいこうか」


 その一言で高貴な騎士の雰囲気は消え去った。


「おい、フィオナ! 抜け駆けやめろよな、なに先に非処女になろうとしてんだよ。こういうのは年上に遠慮するものだろ! 私が十八! アリスが十七! あんたまだ十六じゃん」


 ブリュンヒルトはフィオナを睨む。ギャラリーがいないため騎士の体裁を失っていた。


「あら、惨めね……アラトゥーだから焦っているんでしょう。三乙女(わたしたち)の中で先にヤラハタを引くのはブリュンヒルト……あなたよ。別にいいじゃない、あなたは戦士っぽいから男に興味なさそうに見えるもの」


 フィオナはブリュンヒルトの批判をさらりと受け流す。「ヤラハタ」とは処女・童貞のまま二十歳を迎えることを意味するスラングだ。


「ざけんな、私だって彼氏欲しいよ! それを言うならアリスだろ、狂信的な聖女様信者だもん。生涯純潔を誓うキャラじゃん!」


 アリスは笑顔だが、目は笑っていなかった。


「私、別に純潔を守ってきたつもりはありませんよ。清楚だとか清廉だとか聖女の再来だとか……ファンが言っているだけで、私には全然関係ないです。そもそも聖女様が処女って証拠ありますか? あの方、ああ見えてイケメン大好きですから」


「あら、アリス。あなたの光のマナはユニークスキルよ。それは聖女様への強い信仰心を持つ『処女』だから発現した新たな属性じゃなくて? 非処女になったら光の加護は消えてしまうわよ。あなたは純潔を守るべきだわ、もっと信仰系(フィデリス)の自覚を持ってちょうだい」


「フィオナさん、それは思い込みです。処女であることで光の加護を得られるなら、奥手な騎士団の女達は皆そうなるはずでしょう。それは乙女には純潔であってほしいと望むフランス紳士の価値観(がんぼう)ではないでしょうか。時代錯誤も甚だしいですし、まったくもって余計なお世話です。私だって結婚したいですし、赤ちゃんも欲しいです。純潔? こんなもの熨斗つけてお返ししますよ」


 アリスは早口で言ってのけた。三人の言葉はいつの間にか日本語ではなくなっている。フランス語とドイツ語が混ざってけたたましくなっていた。


 アルテミシアの三乙女には熱狂的なファンが多い。そのファンが聞いたら卒倒しそうな猥談が目の前で繰り広げられている。南はその様子を見ているしかなかった。映画のラブシーンは終わり、また戦闘シーンになっていた。

【参照】

アリスの信仰心→第百七話 アリスの祈り

魔女の千里眼→第百八話 魔女の千里眼

亜梨沙の東北出張・県警とギフターの合同捜査→第百四十一話 行雲流水

アリスとブリュンヒルト→第百五十九話 アルテミシアの三乙女

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