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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十一章 みぞれの城 ――フィオナ=ラクルテル編――
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第百九十四話 最悪の王子様

 フィオナが特殊能力者協会の異能訓練校に入学して二回目の春が訪れた。一年目は日本の文化に慣れるまで戸惑ったが、二年目ともなると嫌でも馴染む。大きなトラブルはなく初等部の二年生に進級していた。念動力系のコースで好成績を残していたものの、人見知りは相変わらずで友人はいなかった。


 桜が満開で心地良い朝、フィオナは校長室に呼ばれていた。護衛をする少年、いわゆるクライアントとの顔合わせである。


「……失礼します」


 フィオナが声を掛けて校長室へ入ると、中等部の制服を着た少女と初等部の制服を着た少年がいた。少女は黒色のロングヘアで気が強そうな顔をしており、黒髪の少年は眠そうな顔でフィオナを見ていた。


 校長が席を立って二人を紹介する。


「おはようございます、フィオナ=ラクルテルさん。話は聞いていると思いますが……黒川亜梨沙さんと弟の南くんです」


 亜梨沙はフィオナを一瞥すると口を開いた。


「クートーさんから聞いています。あなたが私の弟を守ってくれるのですね。この子は人見知りですけど、お願いします」


 フィオナは軽く頷くと南の方を見た。南はふいと横を向いてしまう。挨拶はなかった。亜梨沙は南の頭を撫でながらこう付け加えた。


「あ、最初に言っておきますが……私の弟に恋愛感情は持たないようにお願いします。可愛いからといって手は出さないでくださいね。交際は認めません」


 フィオナは改めて目の前にいる姉弟を見た。言うだけあって整った容姿をしているが、中等部の女子生徒とは思えない発言に違和感を覚える。フィオナを射貫く視線も鋭い。敵意のようなものを感じた。


 姉弟の内に秘めるマナ量から強い異能を宿していることが分かる。彼等の護衛を務めるには並の異人では無理であろう。この任務にアルテミシア騎士団が選ばれたことに納得できた。


 フィオナは前へ出ると南に手を差し出した。


「私はフィオナよ。今日からよろしく……南」


「挨拶とか面倒だからいいよ、別に」


 南はそう答えるとフィオナの手を払った。六歳の少年は反抗期なのか、それとももともとこのような性格なのかは分からない。それを見ていた校長が南をたしなめた。


「こら、南くん! 挨拶は基本ですよ」


「校長先生、南はこれから始まる学校生活が不安なのでしょう。ここは大目に見ていただけないでしょうか」


 亜梨沙が間に入った。


「この子は将来ギフターになる才能があります。必ず協会に貢献するでしょう」


 凜とした声音ではっきりと言い切った。校長はまだ幼さが残る女子生徒に押され、苦笑した。


 亜梨沙は南の頬にキスをすると抱きしめる。


「じゃあ、南。私は校長先生と話があるから、先に寮へ帰っていていいわよ。寄り道してもいいけど協会の敷地から出てはダメだからね。異人街は危ない所もあるから」


 南は無言で頷くと校長室を出て行った。


「フィオナ、弟をお願いするわ。あの子、ボーッとしていることがあるから気を付けてくださいね。重複しますが……くれぐれも一線を越えないようにお願いします」


「分かったわ」


 南の第一印象は最悪であった。好きになるわけがない。不器用なりに一年以上の歳月を、彼を迎える準備に費やしてきた。別に「白馬の王子様」を期待していたわけではないけれど、かなり落胆が大きい。フィオナはこれからの学校生活に不安を覚えながら、校長室を後にした。

【参照】

異能訓練校→ 第百二十七話 ソフィアの編入

初等部→ 第百二十九話 ソフィアの学校生活

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