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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十一章 みぞれの城 ――フィオナ=ラクルテル編――
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第百九十二話 アルテミシアの聖女

「大きい……」


 フィオナは大聖堂を見上げた。クートーが頷く。


「ここがアルテミシア騎士団の本部だ。紀元前から十七世紀にかけて建築されたと言われている。異教徒の襲撃や災害に遭い、その度に破壊されたが、改修と増築を繰り返し、その間の時代の建築様式が取り入れられているのが特徴だ。おそらくあの辺りはロマネスク様式だったが、ゴシック様式に造り替えられているだろう」


 スケールの大きさにフィオナは呆けていた。大聖堂の前は広場になっており、地元民や観光客の憩いの場となっている。


「時間帯によっては一般人にも公開されている。よし、入ろうか」


 聖堂内はひんやりとしていた。歴史を感じる礼拝堂が広がっており、立派なステンドグラスや大理石の円柱が視界に入る。沢山の長椅子が並んでいるが人の姿はなく、神聖な場所に感じた。普段はここでイベントが行われ、騎士団の活動と異人の保護をピーアールしているらしい。


「そこで座って待っていてくれ。私は事務所へ顔を出してくる」


 クートーはそう言うと礼拝堂の奥へ姿を消した。長旅で疲れたフィオナは大人しく椅子に座る。そのまま十分ほど経過すると、人の気配を感じた。


「誰?」


 柱の陰から青い服を着た少女が現れた。年齢はフィオナより上で、十代前半だろうか。どことなく高貴な雰囲気を纏っている。少女は大きな青い瞳でフィオナを見ていた。


 少女は中世ヨーロッパの服、ブリオーと呼ばれるオーバーチュニックを着ていた。髪は美しいブロンドで、腰の下まで緩やかに伸びていた。頭には冠と白いヴェールを被っている。腰には金の装飾が施された細帯を巻いていた。


 少女はゆっくりと歩いてくるとフィオナに声を掛けた。


「こんにちは、今日は閉館日ですよ」


「……」


「どちらの子でしょうか。人を呼んでご自宅まで送らせましょう」


「私……クートーに連れてこられてここにいるの」


 少女はきょとんとすると真っ赤になった。


「あら、そうでしたの。ごめんなさい、私は昔からそそっかしくて……。そうですか、あなたがフィオナさん?」


「うん」


「ふふ、あなたは子供の頃のクートーに似ていますね。きっと良い騎士になれますよ」


「……子供の頃?」


 目の前の少女は明らかに二十代のクートーより年下である。その少女がクートーの子供の頃を知っているわけがなかった。写真でも見たのだろうか。それなら納得できるとフィオナは考えた。


「聖女様!」


 突然、男性の声が響いた。明るい栗色の髪をした青年が慌てた様子で駆けてくる。


「いけません、聖女様! 人前に出られては……!」


「まあ、カミーユ。フィオナさんがお待ちですよ」


「はいはい、知っていますとも! とにかくお部屋へお戻りください。聖女様がお好きなショートケーキと、日本のアニメのDVDをご用意しておりますから! ささ!」


「あら、そうなのですね。それはテンション上がります。それではフィオナさん、ごきげんよう」


 聖女と呼ばれた少女はルンルンしながら、ブリオーの長い裾を引きずって礼拝堂の奥へと姿を消した。その場にはフィオナとカミーユと呼ばれた青年が残される。


「フィオナさん、クートーから話を聞いています。僕はカミーユ=バルテルミーといいます。あなたの世話係を拝命いたしました。よろしくお願いしますね」


 カミーユは優しく微笑むと、右手を身体に添えて上品にお辞儀をした。その貴族のような所作にフィオナはぎこちなく頷いたのであった。

【参照】

アルテミシアの聖女①→ 第百五話 アルテミシア騎士団

カミーユについて→第百六話 取引

アルテミシアの聖女②→ 第百六十七話 緊急避難

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