第十九話 金蛇警備のガードマン
埼玉には五大異人街がある。東銀、一宮、白天町、川成、西川成だ。シュウは東銀の北東に位置する一宮を歩いていた。その表情は暗い。シャーロットの依頼の件で悩んでいるのだ。彼女の話は、よくあるストーカーの案件に似通っていた。
誰かの視線を感じる、妙なメールが届く、花束が届いた……。カリスはSNSでも頻繁に活動しているので、身バレのリスクは常にある。ネットストーカーが本気を出せば住所くらいは割り出す可能性はある。しかし、シャーロットが不安に思っているのはメールの内容であった。
――親愛なるカリス様。私はあなたのファンです。あなたに暗闇が迫っています。私があなたを守ります。――
確かに不安を煽る内容である。意味も分かりづらい。特に分からないのは「暗闇」という表現だ。何か深い意味があるように思えてならない。シュウはこの悩みを師匠に相談しようと思ったのだ。
「そう言えば師匠に会うの久しぶりだ……テンション高いんだよなぁ、あの人」
一宮通りを歩いて行くと、飲み屋や風俗店、様々なテナントが入った雑居ビルが目立つ場所にさしかかった。視線を上げると、四階建ての雑居ビルが建っている。赤煉瓦で一見お洒落に見えるが、かなり老朽化が進んでいる。二階には金蛇警備保障と看板が掲げられていた。施設を出たシュウが修行で世話になった会社だ。
金蛇警備は異人街に特化したセキュリティ会社である。施設警備や身辺警護、貴重品の運搬などを請け負う。スタッフのほとんどが異人であり、敵勢力の異能にも対応できることを売りにしている。
シュウが階段を上がっていくと、事務所の入り口が見えてくる。その両脇には警備員が立哨していた。
「おや、電拳のお坊ちゃんじゃないですか。お久しぶりですね」
巨漢の警備員が笑顔で話しかけてくる。健康的に日焼けしており、いかにも体育会系の雰囲気を纏っていた。
「木村さん、坊ちゃんはやめてって言ってるじゃん!」
木村は「ははは!」と笑った。隣にいる小柄の女性警備員が口を開いた。
「お坊ちゃん! 相変わらず可愛いです! もう、ぎゅううーって!」
頬を緩めて思いきり抱き付いてくる。過剰なスキンシップに「うわ! 高橋さんちょっと……!」シュウは真っ赤になって慌てた。高橋は女子学生のように幼い外見だが一回り近く年上だ。リンに抱き付かれるより照れる。おまけに彼女は体育会系のストレンジャーなので相当力が強かった。
「た、高橋さん! 当たってる……当たってるから! えっとさ! 師匠いる?」
「あ、はい。社長は中におりますよ!」
シュウは高橋の抱擁から脱出すると咳き込みながら事務所へ入った。
「ちーっす!」
事務所は散らかっているが広い。大きいテーブルが設置してあり、パソコンが並んで置かれている。事務員が三名ほど座り作業をしている姿が見える。彼らは電話の受話器を耳と肩で固定し、キーボードを叩いている。何やら忙しそうだ。しかし、社長の姿は見当たらない。
「あ、坊ちゃん! お久しぶりです! 社長なら奥ですよ」
シュウの姿に気が付いたスタッフは、皆笑顔で出迎えてくれた。金蛇警備の従業員はシュウとリンに優しい。シュウにはそれが嬉しくもあり、こそばゆくもある。社長室の扉をノックすると、「どうぞ」と返事があった。
「お師匠、お久しぶりっす!」
社長席には金髪の女性が座っている。年齢は三十代半ばといったところだろうか。無造作に肩まで伸びた金色の髪が妙に似合っていた。シュウと同じ金色の瞳が印象的である。
通気性の良さそうなエメラルドグリーンのパーカーを羽織っており、中にブラックのタンクトップを着ているのが透けて見えている。スタイルの良さが相まって、若干目のやり場に困るファッションだ。
「よく来たねぇ。しゅうちん!」
ふわっと髪をかき上げて手招きする。
「その呼び方はやめてよ! お師匠」
シュウは照れながら答える。金髪の美女は満面の笑みでシュウを迎え入れた。




