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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十一章 みぞれの城 ――フィオナ=ラクルテル編――
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第百八十九話 銀色の槍

 クートーは答える。


「そうではない。騎士団の使命は弱き者を守護すること。今もなお、世界に蔓延する異人差別を根絶するための共闘だ。騎士の剣は悪を切り裂き、希望を照らすためにある。これは協会の理念と一致するのさ」


 フィオナは冷めた声で呟いた。


「……私より弱いかもしれない人に……言われてもね」


 フィオナの言葉で部屋の空気が変わった。ゆらりと立ち上がると、彼女を中心に凄まじい量のマナが膨張していく。一回目のマナ展開の比ではない。暴風が吹き荒れ、その場に立っているのも辛いプレッシャーを感じる。


「クートー! このマナは危険よ! 結界を破って部屋ごと吹き飛ぶわ!」


 エッダが扉まで避難して叫ぶ。クートーの赤いマントが激しくはためいている。


 フィオナが鋭い視線でクートーを射貫いた。すると、クートーが展開していたマナのガードを突き破り、頬を大きく裂いた。鮮血が飛び散り大きな身体が壁際まで吹き飛ばされる。


「クートー!」


 フィオナはエッダの方を見た。


「あなたもウザいわ……一緒に死んでみる?」


 フィオナが銀色に輝くマナを放出する。異能実験の時とは桁が一つも二つも違う。底が知れないマナ量にエッダは驚愕した。


(この子……実験の時は手を抜いていたのね! 完全に見誤ったわ)


 エッダが死を覚悟した瞬間――、クートーがぼそりと唱えた。


<アダマスの鎌>


 右手を横に薙ぐと、強い閃光を放ち眼前のマナごと空間を両断した。耳をつんざく音が響き渡り、フィオナのマナがかき消される。


「え?」


 クートーは動きを止めたフィオナと距離を詰めると、手刀を首に添えた。


「チェックメイトだ」


 フィオナは一歩も動けない。ここで反撃に出た瞬間、首を落とされるだろう。完全に命を掌握されていた。そして悟った。これまでの相手とは格が違うと――。


「どうして……? そんなに強いのに……あなたなら協会に頼らず独りでも……」


 そう言ってヘタリと座り込む。


 クートーは戦意を喪失したフィオナを見下ろすと手を引き、その手で自分の頬から滴る血を拭う。


「自分の血を見たのは久しぶりだ。私のマナを突き破るとは、いい腕だ。まさに槍……銀色の槍だ」


 エッダが慌ててクートーに駆け寄り、血を拭く。


「ちょっと、クートー! 血が……! まったく、あんたは昔から無理する子だったわ!」


 フィオナはクートーを見上げて何かを考えている。表情が乏しいので感情は読み取れない。


「……私は大人の男の人が嫌い。すぐに暴力を振るうから……だからやられる前に殺してきたわ」


 そう呟くとクートーの目を見た。


「あなたも……怒ったら私を殴るのかしら」


 クートーは鷹のような目でフィオナを一瞥するとこう答えた。


「騎士の使命は弱き者を守護することだ」


 揺さぶっても一向にブレない。真の騎士の言葉であった。


「フィオナ=ラクルテル、アルテミシア騎士団には君が必要だ」


 クートーはフィオナに手を差し伸べる。フィオナは溜息をつくと顔を背けた。


「ここに残るか、それとも私と来るか――君が選ぶといい」


 フィオナは目を閉じて逡巡していたが、やがてクートーの手を取り、静かに立ち上がった。

【参照】

アダマスの鎌①→第百十話 アダマスの鎌

アダマスの鎌②→第百二十二話 五大元素

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