第百八十七話 シュネーレーゲンブルク
「アドルガッサーベール……西洋連合に加担した異人傭兵部隊ですか。そう言えば彼等の拠点はドイツでしたね」
クートーが宙を睨みながら言う。エッダが溜息をついた。
「この村には戦争の記憶が刻まれている。フランスとドイツの領土争いに巻き込まれ血に染まった土地さ。この施設、シュネーレーゲンブルクは二十世紀の世界大戦でドイツ領だった頃に運営された孤児院が基になっている。そう、優生学を研究する軍の施設だったのよ……」
「進化論と遺伝学に基づいた研究ですよね。戦争で役に立つ優秀な人材を育成するための。それが今は異人の研究施設となっている、歴史は繰り返すものですね」
エッダは振り返るとクートーの頬を叩いた。
「その言い方やめてよ! 大戦時とは違う! 確かに私は研究者だけど、国家の繁栄と同時にあの子達の未来のことも考えているつもりよ!」
クートーは表情を変えずにエッダを見ている。
「異人やマナの研究は日本やドイツの方が進んでいるの。特に日本は凄いわ、異人を保護する動きが活発になっている。古い伝統に囚われているフランスは完全に出遅れているわ。これは国家の危機なのよ。近い将来、必ず異人の時代がやってくる。異人の研究が国力に直結する時代になるわ。ここの研究はフランスの未来のために必須なのよ!」
「……失礼しました。言い過ぎたと反省しています。お許しください、エッダさん」
クートーは頭を下げた。感情的になったエッダは気まずそうに目を逸らす。
「はぁー、話が脱線したわね。……で、あなたの要望通りの子がいるわよ。強力な異能を秘めた子がね。あの子はアドルガッサーベールにも渡さなかったわ。ついてきなさい」
エッダは地下への階段を下りていく。気温が一段と低くなったような気がした。
「六歳になったばかりの女の子よ、親はいない。いくつかの里親を転々として、ここへ来たの」
「転々と?」
「異能を暴発させて何人か死傷させたわ。虐待されていたのか、大人に対して心を開かない。銀色の刃のようなマナを纏った子。……そうね、あなたの子供の頃に似ているかもしれないわ」
エッダは一番奥の部屋の前で立ち止まった。強力なマナ結界が張られた部屋だ。部屋の中で銀色の髪をした少女が床に座っていた。切れ長の目がエッダとクートーを捉えている。その視線からは感情らしいものを感じない。少女は雪の精霊のように静かに鎮座していた。
「彼女の名は?」
「――フィオナ=ラクルテル。気を付けてね、うちの研究者が五人も大怪我したわ。一人は再起不能よ。子供だと思って油断すると殺されるわ」
エッダが険しい表情で警告し、部屋のロックを解除した。クートーの実力を信頼しているからこそ許可した面会である。
「分かりました、エッダさんは私の後ろにいてください」
クートーはそう答えると、扉に手を掛けた。
【参照】
アドルガッサーベールについて→第十二話 それゆけ落合さん!
フィオナについて→第二十七話 黒川南
クートーについて→第五十七話 アルテミシア騎士団長




