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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百八十三話 遭遇

 エルケはゆっくりと目を開けた。視界にはロウの顔がある。


「起きたか?」


 エルケはあぐらをかいたロウの膝に寝かされていた。


「ああ……子供の頃はディアンとロウ兄の膝の上を取り合ったっけな」


 エルケは気怠そうに伸びをしながら身体を起こした。ロウの脇でニコルが心配そうに覗き込んでいた。


「エルケさん……大丈夫……ですか?」


「ん? ああ、あんたにも心配かけたね。えっと、ニコルだったっけ。アタシはどれくらい寝ていたんだ?」


「はい……十分くらい……です」


 少し離れた所でその様子を見ていたピョートルが口を開いた。


「エルケ、分かっていると思いますが……」


「分かっているよ、取り敢えずソフィアは放っておく。ディアン達が負けたんだ、アタシにはどうにもならないから」


 エルケはそう言って立ち上がった。強がっているが、その顔色は悪い。ロウは無言で立ち上がると玄関の方へ身体を向けた。もうこの部屋には用がなかった。


「……」


 ピョートルが険しい表情で玄関を睨んでいる。


「どうした?」


「しっ……このアパートで何かが起こったみたいすね。ここに来た時と何かが違います」


 ピョートルが小声で呟いた。ニコルは不安そうな表情を浮かべて畳を見詰めている。


「はい……とても……嫌なマナを感じます。多分、一〇一号室です」


 二人とも精神感応系の異人である。ロウやエルケには気付けない変化を感じ取ることができるのだ。


「ニコルさん、ちょっと偵察を頼めますか? そうですね、あのカラスの目を盗んでください。あそこからなら一〇一号室が視えるでしょう」


 ピョートルは窓から指差した。ベランダの下は砂利道になっている。その先は雑草が生い茂っており、駐車場や空き家が続いている。数羽のカラスがアパートの方を向いて錆びたフェンスにとまっていた。


 ロウがニコルに問うた。


「もう一度確認するぞ? 対象を操るのではなく、視界を得るだけならニコル本体の意識は失わないんだったな?」


「はい、覗くだけなら……。頭の中にカラスが見ている光景が浮かぶイメージです。ライブ中継のようなものなので、あたしはそれを視ながら状況を伝えられますよ。あ……でも身体を寝かせていた方が集中できます。ロウ、膝を貸してください」


 ニコルは頬を赤らめてもじもじしている。ロウは溜息をつくと、あぐらをかいた。ニコルはトトトと駆け寄ると遠慮がちに頭を乗せる。


「よし、行け」


 ロウは親指を立ててゴーサインを出した。ニコルは目を瞑ると、先刻視界に収めたカラスとマナをリンクさせた――。


「カラスと接続……完了です」


 カラスの視力は人間の五倍である。ズームレンズのような目で遙か遠くの対象を捉える。ニコルはその生体の特長を最大限に引き出すことができた。


 コーポ木崎は廃墟のアパートだったが、一回目の偵察で一〇一号室だけは何者かが生活している痕跡を見付けた。しかし、その部屋に異変があった。


(……)


 フェンスにとまったカラスはアパートの方を見ている。


――先程までは無人だった一〇一号室、散らかった薄暗い部屋に誰かが立っている。紫色の髪をした男だ。その男は下品な笑みを顔に貼り付けていた。


 足元に小汚い格好をした男が倒れている。服装からホームレスだと分かる。しかし妙だ。そのホームレスは倒れたままピクリとも動かない。ニコルは目を懲らした。


(……え)


 ホームレスには首から上がなかった。真っ赤な血をドクドクと流して畳を染めている。カラスの視界から得たその凄惨な映像はどこか非現実的でニコルの感覚を麻痺させる。


 紫髪の男はホームレスの死体を蹴飛ばして高笑いをしている。顔には返り血を浴びていて、まるで悪魔のように視えた。ニコルは思わず身体が強張った。無意識に呼吸が浅くなる。一刻も早くあの男の近くから逃げ出したい、恐怖がニコルを支配していた。


(……ロウ!)


 カラスとの接続を切ろうとした瞬間、紫髪の男がこちらを見た。狂気をはらんだ視線がカラスを突き抜けてニコルの「目」を射貫く。


(き、気付かれた……!)


 血に染まった男は残酷な笑みを浮かべると、右手を横へ薙いだ。目にも止らない速度で何かが射出され、カラスの首が刎ねられた。強制的に接続が切断され、ニコルの意識は激しい苦痛を伴い本体へ戻される。


「……ッ!」


――意識を取り戻したニコルは自分の手の甲に思い切り噛み付いた。ボタタタッと血が滴る。恐怖で叫びそうになった自分の声を痛みで殺したのだ。


「うぅ」


 大きな瞳から涙が溢れ、口元には血がべったりと付着している。


「おい、ニコル!」


「大きな声は出さないで……ください。あたしは大丈夫です」


 ピョートルとエルケは顔を見合わせると屈んでニコルと視線を近くした。ニコルは手を押さえながら小声で話し始めた。

【参照】

紫髪の若者→第百五十一話 異人狩り

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