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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百八十二話 また会いましょう

「この鍵なら……異能研も警察もサイコメトリーをしていないかもしれません」


 サイコメトリーは一回ごとに十万円から百万円の経費が発生するため、使用する前に捜査会議で「どの遺留品を対象にするか」議論がなされる。つまり、むやみやたらにサイコメトリーを使えるわけではないので、重要度が低い遺留品は省かれる傾向にあった。


 ピョートルは鍵を床に置くと、あぐらをかいた。万が一、危険な思念を読み込むと衝撃で意識を失う可能性がある。立ったままスキャンをするのは望ましくない。


「皆さんにもテレパスしますので座ってください」


思念転写テレパス>とは残留思念イメージを直接他人の脳に送信する異能である。テレパシストのレベルが高ければ、送る相手が精神感応系でなくても作用する。しかし、脳の負担が大きいため多用はできない。


 ロウ達はピョートルを囲むように座る。ピョートルは深く深呼吸をすると鍵に手を触れ、サイコメトリーを発動させた。


――薄暗い部屋の中で金髪の少女が縛られている。


「……ビンゴです」


 ピョートルは細く微笑んだ。


「おい、早く俺達にも映像を送れ」


「分かりました。頭痛や目眩がしたら接続を切りますので言ってください。あ、ニコルさんには負担が大きいと思うので送りません。我々が意識を失ったら起こしてください。では……」


<テレパス>


 ピョートルはロウ、エルケと意識を繋ぐ。そしてサイコメトリーを続行した。


――音声はない。映像だけだ。ノイズは入っているが比較的劣化が少ない。俯瞰的な視点で残留思念イメージが再生される。


 縛られているソフィアにディアンがナイフを見せた。メイがスマートフォンでその様子を撮影し、ミラが後ろで傍観している。ソフィアは力なくうなだれており表情が視えない。


 何やら会話し、時折暴行を加える。フィルへの脅迫に使う動画を撮影しているようだ。スナッフムービーを彷彿とさせる映像が、ただ冷淡に淡々と再生されていく。


 しかし、単調だった状況が一変した。うなだれていたソフィアが急に禍々しいマナを放つ。部屋が振動したその時、ディアンが真っ赤な鮮血を吹き出し消し飛んだ。


 ふらりとソフィアが立ち上がる。冷たい笑みを浮かべながら、マナを放ってメイとミラを吹き飛ばした。血が天井や壁、床を汚し、肉塊と化した死体が散乱する。窓ガラスが割れ、暴風が吹き荒れた。


「やめてぇ!」


 エルケが悲鳴をあげた。


「……っ!」


 ピョートルは接続を切りサイコメトリーを中断した。エルケはそのまま意識を失い、力なくうなだれる。床に倒れ込む前にロウがその身体を支えた。ピョートルが額に手を当てて険しい表情をしている。重苦しい沈黙が流れた。


「何てことだ……ソフィア=エリソンは念動力系(サイコキネシス)ではなく、憑依系(シャーマン)の能力者です」


 ピョートルは青い顔をして呟いた。


「ただのサイキネじゃねぇのか?」


「精霊を憑依させるタイプではなく、ニコルさんのように動物に憑依するタイプでもない。ソフィアには……人間の霊が憑依している、憑依系の中でも特に珍しいタイプです。霊を降ろした瞬間、爆発的にマナが増えました」


「面倒くせぇな。エルケが暴走しねぇように見張っておかねぇと……ごほっ。ちっ、電拳の野郎が犯人じゃなかったってことか」


 ロウは腕の中で意識を失っているエルケを眺めた。普段は悪ぶっているが、人一倍仲間思いで脆いところがあるのだ。起きたら仇を取ると言い出しかねない。


(それにしても、ソフィアが纏ったマナ……どこかで視たような気がします……いや、でもどこで……?)


 ピョートルは顎に手を添えて何かを考えていたが、再びニコルが袖を引っ張った。


「なんですか、ニコルさん」


「……続きは? 残留思念に続きはありませんか? あたしにも送ってください」


「あ、ああ……」


 ニコルはピョートルの顔を見詰める。ロウは軽く頷いた。


「いいでしょう、それではいきます」


 部屋の隅にエルケを寝かせて、サイコメトリーを再開した。


――視点が変わっていた。俯瞰ではなく、視界には血に染まった部屋と玄関が映っている。足元には無惨な死体が転がっていた。これはソフィアの視点である。


 視線が足元の死体から前方に移り、ゆっくりと玄関が開いた。突然の来訪者にソフィアの身体が強張った。


 黒いマントを纏った少年が入ってきた。――とても美しい少年だった。


 いや、少女かもしれない。中性的な容姿である。肌が雪のように白い。髪はさらっとした抜け感のある灰色である。


 印象的なのは瞳の色であった。赤い瞳だ。血のように赤い瞳がソフィアを見ていた。透明感のある笑みを浮かべ何かを話している。……ふと少年の視線が「自分」の視線と交差した気がした。


 次の瞬間、ザザッとノイズを伴い音声が入った。


『また会いましょう』


 赤目の少年がゆらりと手をかざすと、視界は真っ白になり、映像は終わりを迎えた――。

【参照】

ソフィアの拉致→第八話 ソフィア=エリソン

また会いましょう→第十話 来訪者

精霊を使う憑依系の異人→第九十一話 刺客

テレパスについて→第百八話 魔女の千里眼

念動力系について→第百二十九話 ソフィアの学校生活

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