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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百八十一話 部屋の鍵

 ピョートルは精神感応系イー・エス・ピーの異人である。協会トクノーの基準でA級以上の能力を有し、死者の残留思念を読み取ることができる。


 コーポ木崎の二〇三号室――半年前にこの部屋で何かがあった。その場にいたメイ、ディアン、ミラの三人がそれに巻き込まれたのは間違いない。彼女達は未だに行方不明だ。


 ピョートルはゆっくりと部屋を一周する。薄暗い部屋の中でミシミシと畳が踏む音が響いた。後ろで見ていたエルケが軽く咳き込むとこう言った。


「なあ、ピョートル。窓開けていい? 空気が悪いぜ、この部屋」


「いや、窓を開けるとマナが散るんで。もう少し我慢してください」


 ピョートルが目を閉じて畳の染みに触れるとマナの光が輝く。


<サイコメトリー>


 おそらくは血痕である染みの残留思念を読み取った。


「ふう……」


 深く溜息をつくピョートルにロウは声を掛けた。


「どうだ?」


 ピョートルはゆっくりと首を横に振った。


「これはディアンの血ですね、そちらはメイとミラの血……致死量だ。彼女達はここで死んだようです」


 背後でエルケが息を呑む。彼女にとって三人は姉代わりの存在だった。異人島で暮らしていた頃の記憶が蘇る。


「ふ、ふん。やっぱりね! マジで使えねぇよなぁ、任務中に死ぬなんて。残されたアタシらに迷惑掛けるなって……バカ」


 エルケはくるりと背を向けた。その細い肩が震えている。ロウは懸命に強がっているエルケの頭を撫でた。


「ロウ兄、アタシ……許せないよ。絶対に犯人を捜し出して殺してやる」


 エルケは顔を伏せたまま、ロウの肩に寄りかかる。少し離れた所でニコルが遠慮がちに立っていた。


 ロウは何も言わずにエルケの背中をさすった。そして室内を物色しているピョートルに問う。


「どうやって死んだのか、誰が殺したのか、お前のサイコメトリーで読み取れるか?」


 ピョートルは壁や床を触りながら答える。


「難解ですね。これまでに異能研や警察のサイコメトリストが何度かスキャンしている形跡がありますが、それでも事件の真相には辿り着けていない……かなりの難事件だったんじゃないですかねぇ」


 コーポ木崎の猟奇殺人事件は当時ネットニュースで取り上げられていた。しかし騒がれたのは一週間程度で、目立った続報はない。遺体の身元や犯人に繋がるものが見付かっていないということだ。


「おかしいすね、残留思念が妙な欠損をしている」


 ピョートルが腕を組んで部屋を見渡している。


「なんかこう……マナの経年劣化ってもっと全体的に淡くなるか、ノイズが入ったりするんですが……でもこの部屋のマナは意図的に切り取られたような……」


 一人でブツブツと呟くピョートルを、周りは怪訝な表情で見守っている。


「おい、どういうことだ? 俺達にも分かるように説明しろ」


「あ、ああ、すいません。この部屋の残留思念なんですがね、音声はところどころ残っていますが、映像だけがすっぽりと抜けています。まるで誰かに編集されたように……このような劣化は初めて視ました。」


「何者かに加工されたということか?」


 ロウが問うとピョートルは首を振った。


「それはあり得ませんね、残留思念には干渉できません。マナ壁や武器を生成するのとはわけが違います。うーん、ダメですねぇ。三人の死亡を確認しただけでも収穫としますか」


 その時、ニコルがピョートルの袖を引っ張った。


「……カギは?」


「なんですか、ニコルさん。鍵がどうかしましたか?」


「部屋の残留思念はダメ……じゃあカギは?」


 ピョートルはハッとしてロウの顔を見ると、慌ててポケットの中の鍵を取り出した。

【参照】

異能研→第七十六話 異能研

サイコメトリー→第百五十五話 サイコメトリー

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