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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百八十話 異人島の誓い

 メイはリリの死を告げる。隣のミラは青い目に涙を浮かべていた。


「変態に誘拐されてオモチャにされたみたい。死体はボロボロ、十発は撃たれていた。犯人はギャングに飼われているチンピラ達だよ。ミラが残留思念を読んだから間違いない」


 リリはメイより三つ年上の姉のような存在だった。メイからは凄まじい殺気を含んだマナが漏れ出ていた。


「今からそいつら殺しに行こうよ。ロウのアクア系の力を貸してほしい。ピョートルは念動力系じゃないけど銃が上手でしょう。手伝ってよ」


 暗黒街のギャングは強大な力を持っており、複数の派閥に分かれている。その抗争に巻き込まれたら脆弱なストリートチルドレンは虐殺されてしまうだろう。


「残念ですが……彼等を怒らせると、この教会もろとも潰されてしまいます。勝手な行動は許しません。被害を最小限に抑えることが……僕の役目です」


 冷静なピョートルは、メイの気持ちが分かるだけに辛い。しかし、全滅だけは避けなくてはならない。


「なんでだよ! リリ姉が何をしたって言うの! いつも通りゴミを拾っていただけじゃないかぁ!」


 メイが叫ぶと焚き火の炎が勢いよく揺れる。メイのマナの<展開>が炎をそうさせたのだ。


「ピョートルは弱虫だよ! もういい! あたしだけで行ってくる!」


 メイが走り出そうとした時、ドラム缶に入っていた水が溢れ出した。その水は意志を持った生き物のようにメイの前に立ち塞がる。教会内が騒然となった。


「頭冷やせよ、メイ……ごほっ」


 ロウが水を操りメイの行動に制限をかけていた。そのマナに圧倒されてメイが後退りする。そしてロウを睨んだ。


「な、なんで止めるんだよ! ロウ!」


「ここでお前を止めないと、俺達が全滅するからだ。俺やピョートルはまだいい。ディアンやエルケみたいなガキはどうなるんだよ」


「だって……だって……リリ姉ちゃんだって……死にたくなかったはずなのに」


 メイは膝を地面につくと静かに泣き始めた。ロウが指を鳴らすと水塊は教会の外へ飛翔し、宙で弾けた。


 ロウはメイの頭を撫でる。


「……俺達は世界に見捨てられた。だからゴミの中で生きている。だけど……このまま終わるつもりはないよ」


 他のグループの子供達はその様子を見守っていた。異人島では日常的に子供が殺される。明日は我が身であった。ディアンとエルケがロウの腰にしがみついてきた。目には涙を一杯溜めている。


 ピョートルは皆の前に立つと語り始めた。


「僕達は肌の色が違う、目の色が違う、髪の色が違う、マナの色が違う。でも心は一緒だ。僕達は国から捨てられて、この島へ集められたけれど、ここで本当の家族になれたんだ」


 ピョートルの顔は十六歳には見えないほど大人びていた。皆が話に聞き入っている。


「人種や国籍なんて関係ない、僕らは心で繋がっている。――いつか皆でこの島を出て世界中を旅するんだ。好きな所に家を建てて、恋をして、子供を作ろう。世界中に僕らの家族を残すんだ」


 ロウが青い髪を掻きながら言った。


「じゃあさ、名前が必要だろ。お前をリーダーにして、つるんで長いけどさ。未だにチームの名前がないじゃんよ」


 ピョートルは照れ笑いを見せた。


「僕がリーダーのつもりはないんですけど……でも実は決めてあるんです。チームの名前」


「なんだよ」


「僕達は色んな『色』の寄せ集め――カラーズさ」


「だっせぇ! ま、俺等らしくていいかぁ?」


「僕達は来る者を拒まない、どんな人でも受け入れる。誰かの居場所になれるように、どこの誰もが帰ってこられるように――カラーズは世界中に拠点を造るんだ!」


 ロウはピョートルに拍手を送った。教会が子供の歓声で包み込まれた――。


――……ウ! おい、ロウ!


 自分を呼ぶ声で、ロウの意識が現実に引き戻される。コーポ木崎の二〇三号室の前でロウは立ち尽くしていた。


「あ、ああ……ちょっと昔を思い出していた」


「大丈夫ですか? 密航疲れですかねぇ」


 背後のピョートルが肩を叩いてくる。その隣にいるエルケが焦れたように口を開いた。


「ロウ兄、どうしたんだよ。早く入ろうぜ」


「ああ、悪いな」


 ロウは自分の腰に視線を落とすと、しがみついているニコルと目が合った。


「……ロウ?」


「いや、問題ない」


 ロウは鍵を開けると、部屋の中へ入った。


 湿った土の匂い、錆びた鉄の匂い、カビの匂いが鼻につく。カーテンがなく、窓から日が差し込んでいるが部屋の中は薄暗い。玄関から十畳程の和室が見えている。


「これは……血痕か?」


 畳は褐色に染まっていた。床だけではない。天井や壁にも変色した血痕があり、それを拭き取ろうとして断念した痕跡がある。余程、凄惨な現場だったのだろう。大家が修復を諦めるくらいに――。


「何があったんでしょうねぇ、ここで」


 ピョートルは呑気な声で疑問を呈すると、玄関を閉めて中から鍵を掛けた。エルケは不機嫌な表情で部屋を見渡している。部屋中に陰湿なマナが淀んでおり、息が詰まりそうである。


「ピョートル、頼む」


 ロウはそう言うと一歩下がり、怯えているニコルの頭を撫でる。


「それでは仕事を始めましょう」


 ピョートルは目を閉じると神経を集中した。

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