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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百七十八話 二〇三号室

 ニコルは肩を叩かれて目を覚ました。反射的におねしょをしていないか確認する。座席をさすってほっと胸を撫で下ろした。


「ニコル、お前の憑依能力を使いたい」


 ロウはニコルに命令する。ニコルは頷くと窓の外を見た。田舎道の用水路脇に車が止められている。ゴミが散らかっており、祖国のスラムを思い出した。


 少し距離のあるところに古いアパートが建っている。コーポ木崎と書かれていた。


「あのアパートの二〇三号室に入居者が入っているか確かめてこい。ついでに隣室も見てくれ」


 ニコルは後部座席の窓ガラスを開けて辺りを見渡した。少し先でゴミに群がるカラスを見付ける。


「あのカラスに憑依します。操っている間、私本体は眠りますので……ロウの膝を貸してください」


「ああ」


 ニコルは目を瞑って何やら呟くと意識を失った。ピョートルとエルケの視線がカラスに集中する。すると、一羽のカラスが飛び立ち、コーポ木崎へ向かっていく。


「ほう、大したもんですねぇ」


 感心するピョートルの隣で、エルケがスマートフォンでコーポ木崎のデータを確認している。あの猟奇殺人事件以降、入居者が激減し、今は誰も住んでいないことが掲載されている。これはニコルのテストを兼ねているのだ。


 カラスはベランダの手すりに降り立つと部屋の中を覗く仕草を見せる。カンカンカンと音を立てて手すりを歩き隣の部屋へ向かった。それを何回か繰り返す。そして再び飛び立つとアパートの周りを一周し、ゴミ置き場へ戻ってきた。


「へー、意外と使えるなぁ。密偵向きじゃんかよ」


 エルケが興味深そうにそのカラスを見ていた。


「……ロウ……いますか」


 ニコルが目を覚まして、ロウの顔を見上げる。


「ああ、どうだった?」


「二〇三号室は空き部屋でした。他の部屋も人がいませんので廃墟かと思われますが……」


「どうした?」


「一〇一号室に誰かが住み着いているようです。生活をしている痕跡があります……ホームレスか不法移民か……分かりませんけど」


 ニコルの報告にピョートルとエルケが頷いている。一〇一号室に難民ホームレスが入り込んでいる情報は事前にキャッチしていた。そして、隣室だけでなくアパート全体を偵察した慎重な姿勢は評価に値した。


「素晴らしい、合格すねぇ。ニコルさんの異能はとても使えます」


 ピョートルが握手を求めてきた。


「え? あ、はい。ありがとう……ございます」


 ニコルは頬を赤らめて応じた。エルケもそれなりに評価を改めたらしい。出会い頭の仏頂面ではなく、笑みを浮かべていた。


「よし、次はアタシの出番だな。ピッキングなら任せとけ。ガキん頃から盗みやってたからよ」


 今回の目的はコーポ木崎の二〇三号室をサイコメトリーし、事件当日の情報を得ることであった。あの部屋で何があったのか、メイ達はどこへ消えたのか――。それが分からないと前へ進めないのである。


 ロウ達はアパートの二階へ上がっていった。


「あのアパートを用立てたのはチェンっていうガキだった。そいつは密航者を現地で受け入れる役割を担っていたんだが……メイに任せていたから俺は詳しく知らねぇな」


 ロウの言葉にピョートルが答える。


「そいつのことは調べましたが、異名がロックスミスってことくらいしか分かりませんでしたね。我々も探したんですが、依然として行方不明。もしかしたら、もう死んでいるかもしれませんよ」


 二〇三号室の前に到着する。約半年前、東銀進出を目論み手配した部屋だ。しかし待っていたのは散々たる結果であった。


「じゃあ、エルケ。お願いしますよ。鍵を破ってください」


「オッケー、でもちょいと待ってくれよ。ピッキングする前に……」


 エルケは口笛を吹きながら玄関の横にあるメーターボックスを開けた。一見すると中にはメーター類や配管パイプしかないが、慣れた手つきで死角の場所を探っていく。そしてニヤリと笑った。


「ラッキー、鍵ゲット! パイプの裏に貼ってあった。鍵破りの手間が省けたぜ。ほら、ロウ兄」


 おそらく事件後に大家が隠して、そのまま放置されているのであろう。ロウは鍵を受け取ると前へ出た。


(……一体、あの時何があったんだ。……ディアン、メイ、ミラ)


 ロウは渡された鍵を見詰めていた。

【参照】

チェンの関与→第三話 スーツケースの中

コーポ木崎の殺人事件→第八話 ソフィア=エリソン

ロックスミスについて→第百四十七話 ロックスミス


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