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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十章 渡り鳥と少女 ――多国籍異人組織・カラーズ編――
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第百七十四話 渡り鳥と少女

 メイファに難民達が雇われる三日ほど前、朝の冬岩港にロウ達の姿があった。百頭の客人として扱われ、密航後二日間静養していたが、これ以上留まれるほど暇ではなかった。


 スメラギは、海風を浴びながら大きく伸びをする。その後ろにロウとニコル、ポンが立っていた。


「さて、オレは行くよ! 案外楽しかったぜ、ロウさん、ニコルっち!」


 ロウは仏頂面でスメラギを見ている。ニコルは満面の笑顔で手を振っていた。


「ポンさん、色々助かったよ。またな」


 ポンは笑顔で頷いている。


「不死身のスメラギ殿、そなたのマナに幸あらんことを」


 スメラギはヘラヘラと笑い親指を立てた。そして思い出したように口を開く。


「そう言えばロウさん。借りを返さなきゃいけない金髪の小僧って埼玉の東銀にいるんだっけ」


「ああ……それがどうした?」


 ロウは怪訝な表情で聞き返す。


「そいつってエレキ系だったか?」


「どうしてそんなことを聞く?」


「いやいや、深い意味は無いよ。じゃあ、またなー!」


「おい、待て。こっちも聞きたいことがある」


 ロウはスメラギの背中を呼び止める。


「ママラガンの『あの男』って何者だ?」


「それは……ん?」


 スメラギは空を仰いだ。何者かの「視線」を感じたのだ。(位置を悟らせない……やるな)無言のまま数秒静止し、ロウの方を見た。


「……知らない方が良いよ、早死にしたくなければね」


「あぁ? なんだそりゃ……ごほっ」


「あはは! ロウさん、あんた早く風邪治しなよ。じゃあ、またどこかで会おうぜ」


 スメラギはそう言うと街の中へ消えていった。ロウ達はその背中を見送る。最後までつかみ所のない男であった。


「俺も行く。世話になったな、ジジイ」


「青髪のロウ殿、そなたのマナに幸あらんことを」


 ポンが笑顔で決まり文句を言う。ロウは軽く頷くとスメラギとは反対方向へ足を向ける。すると慌てたニコルがトトトと追いかけてきた。


「ロウ……! あたしも連れて行って……ください!」


 そう言って腰にしがみついた。


「うるせぇな、お前は他の難民と一緒に冬岩へ残れ。ポンの旦那が面倒見てくれるだろ」


「……一緒がいい」


 ニコルは離れようとしない。涙目で首を横に振っている。


「いいか? カラーズってのはクソ野郎の寄せ集め組織だ。一生、表社会に出られなくなるぞ。俺みてぇにな」


「一緒がいいの」


 ロウは溜息をついてポンの顔を見る。


憑依系シャーマンの異人は非常に希少だ。育てれば役立つこともありましょう」


 ポンの助け船にニコルは大きく頷いた。じーっとロウの目を見詰めている。


「しかしだな」


「カラーズのピョートル殿は来る者は拒まない方だと伺っている。連れて行っておやりなさい」


 ポンはそう言うとポケットから二冊のパスポートを出した。


「ジジイ、それは?」


「偶然にもここに二人分の偽造パスポートがある。なに、これはサービスしよう。しかし、バラでは渡せない……どうするかね?」


 さっきまで泣いていたニコルは笑顔である。ロウは青い髪を掻くと面倒くさそうに言った。


「おい、ニコル! 今日から俺の命令には絶対服従、その異能は俺のためだけに使え。誓えるな? ……できねぇなら置いていく」


「は、はい! 誓います!」


 ニコルは背筋を伸ばして、はっきりと答えた。


「ちっ、駅へ向かうぞ。ジジイ、またな」


 ロウは偽造パスポートを受け取ると駅へ向かって歩き出した。ニコルは子犬のようにはしゃぎながら後を追う。


「そなたらのマナに幸あらんことを」


 ポンが笑顔で見送ると爽やかな海風が吹き抜け、渡り鳥が空高く舞い上がった。それはまるで二人の旅路を祝福しているようであったという。

【参照】

カラーズについて→第七十八話 カラーズ

ママラガンのあの男について→第百一話 あの男

エレキ系について→第百二十二話 五大元素

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