第十七話 兄が好きすぎる妹はヤンデレです
「ひゃっはー♪ 最新のエアコンはサイコーだぜ!」
シュウの頬をそよそよと冷風が撫でていく。先日のフィルの案件で多額の報酬を得たため、エアコンを新調したのだ。
「兄さん、外から見えますから。カウンターに座る時は姿勢を正してください」
妹のリンが買い物を終えて店内へ入ってきた。やんちゃな兄とは違い可愛らしい顔をしている。もし「理想の妹ランキング」があれば、上位にランクインするだろう。
「お前さぁ、普通の子供のように高校へ通っても良いんだぜ? 学費は……まあなんとかすっから」
リンは「またその話ですか」と溜息をつく。
「例えば協会は異人の学校を運営しているだろう。通えば友達とかできるんじゃねーの?」
シュウとリンは孤児である。児童養護施設、星の家で育った。リンは妹だが娘のように思える時があるのだ。シュウは腕を組んで親父のような表情を浮かべている。しかしリンは無情に言い放った。
「協会の訓練校は世界から異人が集まる異能の名門です。うちでは学費が出ないと思いますが?」
「な、なんだとぉ! うぜぇー!」
シュウは叫んだ後、ハッとして取り繕うように咳をした。
「ウホン! まあ、兄としてはなぁ、お前に幸せになってほしーんだ。学校で彼氏つくって結婚してガキをつくって。いつまでもベッタリってわけにはいかねーだろう?」
「あの……年齢一つしか違わないのに、老けたこと言わないでくださいよ。兄さんだってまだ学生の年齢のくせに」
「なにぃ! 俺、一応店長なんですけど! お前の雇い主だっつーの」
シュウが星の家を出た後、リンの落ち込み方は相当なものだったという。彼女は元来感情を表に出す性格ではなかったが、孤独のストレスは体調に現れた。食事の量が減り、無気力になっていった。
リンはシュウが便利屋を開業してから、頻繁に仕事を手伝いに行った。リンのサイコメトリーは便利屋の仕事で大いに役立ち、事業を軌道に乗せるに至ったのだ。
そしてリンは中学を卒業した後、施設を出て東銀へやって来た。便利屋の二階と三階は賃貸アパートになっていて、シュウの隣の部屋に入居したのである。
当時のリンはかなり痩せていたが、この数ヶ月で体重は戻りつつある。リンとしては苦労に苦労を重ね、ようやく兄との共同生活にこぎつけたのだ。そう簡単に出て行くわけがなかった。
「兄さんが施設を出てから私は一人でした。ようやくまた一緒になれたのに、何故離れなくてはならないのですか? それとも私がここにいて困るような……やましいことでもあるのですか?」
「……別にねぇけど」
リンの態度は頑なである。兄離れをしない妹の将来を心配するシュウの思いは届かないらしい。リンはシュウの背中に抱き付くと耳元でささやいた。
「それに兄さんは騙されやすいですからね……変な女が寄ってこないように私は一生お側にいますから」
耳に吐息がかかりシュウはブルッと身震いした。ひっついた妹を引き剥がしにかかる。
「や、やめろ……俺は彼女欲しいんだよ! ドラマのような恋愛をして結婚するのが夢なんだぞ! お前なんかと一緒になるわけねーだろ! ヤンデレは二次元だけで充分だわ!」
リンはムッと不機嫌になった。
「私を内縁の妻にすれば良いじゃないですか……百歩譲って愛人とか」
「一億歩譲ってもあり得ないね! お前は兄妹もののゲームやり過ぎなんだよ! 音声が部屋まで聞こえてるからな!」
リンの趣味は恋愛ゲームで特に近親ものを好んでプレイする。彼女のパソコンはその手のゲームやアニメで容量の大部分を食っていた。
「も、申し訳ありません。兄さんも一緒にやりますか?」
シュウは突っ伏しそうになるのを堪えた。もはや何も言い返す気力が起こらない。パソコンに視線を戻しメールをチェックした。
(今日は午後から来客があるな。えーと? シャーロット=シンクレアさんか)
シュウはコーヒーを飲みながら依頼の内容に目を通すことにした。




