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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第九章 異人狩りからの脅迫状 ――滝本ココナ編――
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第百五十六話 見付かったのは腕だけなんだよね

 ある日、龍王の後藤と坂田は事務所でパソコンと向き合っていた。


 後藤はライターの火を操るパイロ系の能力者で武闘派チームのリーダーだ。筋肉馬鹿だと思われがちだが、頭の回転は速かった。


 坂田は特殊詐欺や取引の交渉役、トラブルが起きた時の対応などを担当している。派手な緑色の癖毛で、顔半分は黒いマスクで覆われている。最近まで詐欺のリクルーターもやっていたが、それは受け子から昇格した遠藤充(えんどうみつる)新垣誠(あらがきまこと)が引き継いでいた。


「冬岩に出向させていた龍鱗の連中は西川成(こっち)へ招集かけたのか?」


「その前に東銀へ潜伏してもらう予定! 逆鱗のヤオちゃん、観光したがっているしね!」


 甲高い声が鬱陶しい。坂田は常にハイテンションだ。


「ヤオ? ああ……殺人狂(ラウェルナ)の中国女か。あいつは扱いづらいんだよ、行動が読めねぇ。古株のエマが死んだのは痛いな」


 龍王傘下の作戦実行部隊、龍鱗(りょうりん)は武闘派の逆鱗(げきりん)、汚れ仕事の闇龍(DD)、諜報活動の(みずち)に分かれている。最近、遠藤が結成した荒川アウトサイダーズが加わり四チームになっていた。


 後藤はそれらを統括する地位にいた。時に現場に出て、時に頭を使う、ストレスの多い立場だ。


「闇龍の三上はどうなっているんだ? 東龍倉庫へ潜入させていただろう。青龍の件は遠藤に任せていたから俺は詳しく知らねぇぞ」


「後藤さんにもドラグラムで報告行ったっしょ? 青龍(メイファ)の返り討ちに遭ったって! いやぁ、龍尾の五天龍は手強い! ぷぷぷー!」


 ハイテンションの坂田に顔をしかめながら後藤は言った。


「二刀流の三上がねぇ……惜しいなぁ」


二刀流(ダブルハンド)】はナイフを二本使う三上拓哉の異名だ。北海道の暴力団、雪風組から抜けた三上をスカウトしたのは後藤である。三上の才能を評価していた後藤の表情は暗い。


 その雰囲気を察して坂田は明るく言った。


「青龍の異能を明らかにして、更に<龍眼>を使わせた功績は大きいから、遠藤くんの計らいで内縁の女にカネは渡したよ! 満額ではないけどねぇ」


「満額じゃねぇのか?」


「遠藤くんが七割で良いって言うからさ!」


「ふーん……三割引きねぇ」


 後藤が眼鏡のレンズを拭きながら、腑に落ちない顔をしていた。そして二本目のタバコに火を点ける。


「で、その遠藤はどこにいるんだ? 姿が見えねぇな」


「遠藤くんは新垣くんと一緒に福祉アパートを回っているよ! ホームレスをカモった生活保護ビジネス!」


 坂田は黒いマスクを着けており表情は見えづらいが、確認するまでもなく馬鹿笑いをしている。短い付き合いではないが、後藤は未だに坂田という人間を理解できないでいる。


(変な奴だよなぁ)


 後藤は疲れた表情でタバコを吹かしていた。



 ◆



 一台のワンボックスカーが埼玉県の片田舎を走っていた。


 際立った特徴のない真面目そうな男が助手席に座り書類を見ている。横では軽薄そうな金髪の男が運転していた。後部座席にはスーツを着た清潔感のある女性が座っている。龍王の遠藤、新垣、如月である。


「遠藤さん、三上さんの彼女に渡す補償金は七割で良かったんすか? ウェットな遠藤さんにしちゃぁ珍しいっすね。如月さんも何か言いたげだったけど」


 新垣はルームミラー越しに如月を見る。如月は微笑を浮かべていた。セールスレディーのような雰囲気を纏っている。


「早乙女美咲さんは身籠もっていましたし、補償金を渡せて安心しています」


 如月は耳に心地よい声音でそう言った。遠藤は書類をめくりながら答える。


「うーん、三上拓哉は死んだと言うけれど、見付かったのは腕だけなんだよねぇ。胴体は海に流されて行方不明。値引いた三割は……保険かな」


「何のっすか?」


 新垣は怪訝な表情を浮かべた。遠藤は人の良さそうな笑みを見せる。


「万が一、生きていた場合だよ。龍王フェイロン様に申し開きをするために」


 遠藤の言葉に、新垣と如月が驚いた顔をする。


「私から見ても三上さんの能力は高かった。新垣くんもそれは分かっただろう?」


「そっすね、おっかない人だったな。日本刀みてぇに鋭いマナ。絶対敵に回したくねぇや」


 異人もどきである遠藤はマナから人間性を見抜き、新垣は相手の戦闘力を測ることができる。そのささやかな異能を詐欺に生かして逮捕されることなく出世してきた。


「そうだよね。失うには惜しいし、余所の組織……例えば龍尾やアルティメット・ディアーナにでも囲われたら脅威だ。生きているなら戻ってきてほしい。青龍を追い詰めた功績があるし、補償金は満額支給されなかったわけだから。幹部陣は認めるはずだよ」


「三上さんは隻腕になっています。以前のような二刀流は使えないと思いますが……」


「そうとも言えないよ、如月さん。もともとテレキネシスの使い手だったから二刀流は健在だと思うよ、浮かせられるわけだし。それに……ハンディキャップを負うと、かえって技の精度が増すことがあるのさ。障がい者のアスリートやピアニストなんかは良い例だよね」


 新垣と如月は黙って話を聞いている。


「まあ勿論、生きていれば……だけどねぇ。あらゆる可能性を考えておかないと、抗争で龍尾に負けてしまうからさ」


 如月は遠藤のはにかみ笑いを見ながら考えていた。


(不思議な人ですね。視野が広くて判断は的確、柔軟な思考力、それでいて腰が低い……。どうしてこんなに優秀な人が表社会でニートだったんでしょうか)


 ワンボックスカーは川の横を走って行く。


 そこは辺鄙な住宅街で、築年数が四十年以上経過していそうな集合住宅がぽつりぽつりと並んでいた。住宅と住宅に挟まれて町工場の跡地や駐車場があるが、ゴミが散乱していて不衛生であった。


 川の向こう岸には工場や畑が見える。川岸は雑草で埋め尽くされ、首輪をしていない犬の群れがけたたましく吠えている。この辺りは野犬が多いが、自治体の対応はない。文字通り野放しになっていた。


 ゴミ捨て場や錆びたフェンスにはカラスが群がっている。人が近付いても逃げようとしない。この地域では人間より野生動物の方が幅を利かせているようだ。


「きったねぇ場所だな。……っと、そろそろドラゴン荘か」


 新垣が前方にある古いアパートを見て呟いた。


 車が駐車場に止まる。遠藤は車から降りると空を仰いだ。あいにくの曇天である。一雨来そうな予感がした。


「さて、行こうか」


 遠藤は二人に声を掛けると、アパートのエントランスへ向かって歩き出した。

【参照】

一宮について→第十七話 金蛇警備保障

鬼火の後藤について→第二十九話 龍王の襲来

アルティメット・ディアーナ→第五十一話 アルティメット・ディアーナ

遠藤と新垣について→第六十七話 第六十七話 特殊詐欺で稼ごう

緑髪の坂田について→第六十九話 詐欺の才能

フェイロンについて→第七十九話 龍王

荒川アウトサイダーズ→第八十一話 荒川アウトサイダーズ

川成について→第八十二話 ナンバーズ

闇龍の三上について→第百三十二話 闇龍

冬岩の龍鱗について→第百三十五話 逆鱗のヤオ

青龍の返り討ち→第百四十話 山背と舞う龍

内縁の女に金を渡す如月→第百四十一話 行雲流水

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