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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第九章 異人狩りからの脅迫状 ――滝本ココナ編――
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第百四十九話 ホームレス村の戦い

 襲いかかってくるホームレスの動きは速かった。皆が還暦を超えていそうだが体力の衰えを感じさせない。力強いマナが漲っている。


(ふん、異人が相手なら遠慮はいらねーよな!)


 シュウは突き出されるナイフを回避し、男の顔面に拳撃を打ち込む。それはカウンターとなり、男を一撃で沈めた。すぐさま、背後から鉄パイプが振り下ろされる。シュウはその鉄パイプを掴むと電流を流し、男を失神させた。


「こ、このガキ!」


 一瞬で二人がシュウの足元に倒れ、ホームレス達に動揺が走る。


 玄がシュウの技を視て叫んだ。


「こいつ、エレキ系だぞ! 感電に気を付けろ!」


 シュウは不敵に笑うと拳に電気を集めた。得意技の<電拳>である。


「……気を付けたところで、この拳をかわせなければ意味ないぜ!」


 シュウは玄との距離を一瞬で詰める。拳を振りかぶった瞬間、視界の端に一人の男が見えた。ブラックのロングコートを着た中年のホームレスだ。その男はシュウに向けて手をかざしている。


 シュウの第六感が警鐘を鳴らす。


――やべぇ!


 シュウは咄嗟に玄から離れた。すると、一秒前まで自分がいた場所をマナの衝撃波が通り過ぎ、その先の木々を粉砕した。直撃したら危なかった、間一髪である。


「わりぃ! ナツさん!」


 玄は夏目に礼を言い、シュウから距離を取った。シュウは再びホームレス達に遠巻きにされる。


 夏目は細い目でシュウを見ている。放っているマナと相まって、不思議な威圧感があった。それは明らかにシュウを牽制している。


 シュウは自分が苛ついていることを自覚していた。


(……またこの距離かよ)


 夏目はマナの衝撃波を放った。つまりシュウが持っていないカードを持っている。それは遠距離攻撃だ。


 もともとエレキ系のエレメンターは近距離攻撃が得意であり、それは能力の特性である。しかし、最近立て続けに遠距離攻撃に苦戦しており、辟易していた。


「面倒くせぇ」


 シュウはぼそりと呟くと、青い電気を纏い発電していく。毛が逆立ち筋肉が隆起する。その<発電>を見ても夏目の表情は変わらない。


「珍しい技を使うね。金髪の少年」


 夏目は再びシュウに向けて手をかざした。シュウは短く息を吐くと神速の踏み込みで夏目に肉薄する。一瞬で距離がゼロになった。


(……速いっ!)


 夏目はマナ壁を生成し、シュウの電拳を弾く。しかし、シュウの攻撃は止まらない。二撃、三撃と連続で電拳を叩き込む。


「木村さんのマナ壁と比べると紙クズだぜ! おっさん!」


 五撃目でマナ壁を粉砕した。その衝撃で夏目の体勢が崩れる。シュウは更に踏み込んだ。しかし、夏目は体勢を崩したままである。


「もらった!」


――シュウが拳を握り込んだその時、女性の声が響いた。


「やめてください! ナツさん!」


「……っ!」


 シュウは振り切ろうとした拳を戻すとバックステップで距離を取った。刹那、顔のすぐ前方をマナの衝撃波が突き抜け、上空の木の枝を吹き飛ばした。シュウの前髪から焦げ臭い匂いがする。


「よく回避したね、少年。獣並みの勘だ」


 夏目は自分の身体で手元を隠し、死角から技を放ったのである。


 シュウは舌打ちすると夏目の顔を睨む。そして声の方を見ると、テントの中から一人の女が出てきた。黒縁眼鏡を掛けた黒髪の女である。


 するとホームレス達が女に駆け寄った。


「滝本さん! 出てきちゃ駄目だって! あいつが異人狩りに違いねぇ!」


 玄が女をテントに押し込もうとするが、滝本はそれを拒否し、シュウと夏目の方へ歩いてくる。


「ナツさん、彼は異人狩りではありません」


 滝本は夏目にはっきりと言った。すると夏目はコートに付着した土埃を払いながら頷く。


「まあ、確かにそんな感じじゃないね」


 二人の会話を聞いて、玄が叫んだ。


「待てよ! こいつは何かを探っていたんだ。異人狩りの下見に違いねぇって! 逃がすと今夜にでも襲ってくるぞ!」


 玄の言葉を聞いたホームレス達が動揺する。しかし、滝本はゆっくりと首を振って否定した。そして、シュウに近付いて挨拶をする。


「初めまして。私、滝本ココナと申します」


「む……」


 急に距離を詰めてくるココナに、シュウは思わず後ずさった。彼女のシャンプーの香りが漂うほどは近い。黒縁眼鏡の奥に大きな瞳が見える。黒髪のボブヘアが木々を吹き抜ける風で揺れていた。


 ココナは更に距離を縮めてシュウの顔をまじまじと見詰めた。大分近い。テントの中に隠れていて暑かったのかもしれない。ふわっと汗が香った。ココナは手をパタパタとさせながら言う。


「今日は暑いですねぇ。すいません、汗かいちゃって……」


 どこかおっとりとした喋り方と、他人相手に警戒心を抱かない様子を見てシュウは思った。


(この感じは……似ている)


――シャーロットさんに。


「あのぉ、もしかして……電拳のシュウさんではないでしょうか」


 突然の質問に冷や汗をかいた。何故自分の名前を知っているのか。やはり不思議な女性だ――と、シュウは思った。


「……どうして分かるんだ?」


 シュウの返事にココナは顔を輝かせた。ギュッとシュウの手を握って言う。


「やっぱり! 便利屋金蚊のホームページで見た人だと思いました! 明日、お店の方に伺うことになっている滝本です」


 いちいち距離が近い女性だ。シュウのように真面目な青少年には心臓に悪い。


「ああ……なるほど。確か護衛の依頼の……」


 今朝、リンが言っていた案件である。


 シュウはゆっくり手をほどくとココナから離れた。ホームレス達の様子を見ると、いぶかしみながらも敵意は薄れていた。失神しているホームレスの介抱をしながら、こちらを見ている。


 玄が口を開いた。


「まあ、滝本さんとナツさんがそう言うなら、文句はねぇけどよぉ」


 そして白い髭を撫でながら言葉を続ける。


「じゃあ、小僧はこんな所で何してるんだよ。畑の方で何か叫んでいたって聞いたぞ。危ねぇ奴だって思うだろ、誰だってよぉ」


 どうやらクロスバイクを蹴飛ばして荒れていたところを見られていたらしい。それは警戒されても仕方のないことであった。


「……別に。俺は人探しでここに来ただけだよ。そうしたらあんたらが襲ってきたんだ。これは正当防衛だからな。失神している奴等にもそう言っておいてくれ」


 シュウはそう言うとココナの後ろに立っている夏目を見た。細い目を一層細くして気怠そうにしているが、周囲のホームレス達の反応から、リーダー格であることは分かった。


 夏目はシュウに問うた。


「ところで君は誰を探しているんだい?」


「……チェン。いや、ロックスミスかな」


「……」


「おっさん、知っているか?」


「いいや……」


「そっか、じゃあいいや。俺はもう行くよ」


 ココナがシュウに駆け寄り、腕を掴む。そしてひまわりのような笑顔で言った。


「あ、あの! もう少しゆっくりしていきませんか」


「へ?」


 ココナの突然の申し出に、シュウは呆気にとられた。


「玄さんが入れるコーヒーが絶品なのですよ! 昔は喫茶店のマスターだったのです」


 そう言われてシュウは玄を見た。白髪頭と白い髭。年齢は不明だが爺さんに見えた。何故か有名バンドのシャツを着ている。そのシャツは新品のようでパリッとしていた。どこかで拾ってきたのだろうか。


 玄は面白くなさそうな表情でシュウに言った。


「……コーヒー飲むか? 小僧」


 シュウは断ろうと思ったが、目の前のココナは満面の笑みを浮かべている。それを無視して帰れるほど、シュウのメンタルは強くなかったのである。

【参照】

ロックスミスについて→第百一話 あの男

エレメンターの間合い→第百二十三話 放電

木村のマナ壁→第百二十四話 未完成の電拳

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