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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第九章 異人狩りからの脅迫状 ――滝本ココナ編――
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第百四十七話 西の最果てを彷徨う

 荒川沿いは広大な土地が広がっている。キャンプ場や運動公園、ゴルフ場などが点在しているが、最近では難民キャンプがその面積を拡大していた。それに伴い、河川敷には難民ホームレス村が出現し、異人や難民が野宿しており、治安は悪化している。


 シュウは昼食の後、クロスバイクで荒川沿いを走っていた。案の定、第一難民キャンプには入れなかった。想像以上にセキュリティが高く、そして広大な敷地であった。


「キャンプっていうより街だな、ありゃ」


 外からだが、ショップや学校、教会や礼拝堂が見えたし、どうやら協会や騎士団の支部も入っているらしい。出入り口に設置されたガードマンボックスの中には屈強な警備員がいた。隙がまるでない。賄賂でコロッケパンを渡しでもしたら拳銃で撃たれそうな予感すらあったのだ。


(チェンはどうやって入ったんだろう。それとも黒川南の見間違いか)


 シュウはリンが描いたチェンの似顔絵を見せながら聞き込みをしていた。しかし便利屋という怪しい身分なので、まともに話を聞いてくれる人は少なかった。それどころか家のインターフォンを鳴らしても、十軒中、二軒返事が来れば良い方であった。


 夏が近いので気温が高い。蚊も飛んでいる。生温かい風に乗って堆肥の臭いがする。牧場が近いのかもしれない。最悪のコンディションである。川には名物の荒川系ラーメンを提供する屋台船があったが、食べる気にはならない。


 シュウはクロスバイクを降りて、ミネラルウォーターを飲み干した。ぬるい水が中途半端に身体を冷やす。喉は潤わなかった。


 今頃、リンは冷房の効いた部屋でゲームをしているに違いない。シュウは暑い中、このような僻地にいる自分の愚かさを呪った。


「ん……? あれは……」


 畑の向こうに大きな倉庫が見えた。看板には「マキシムライン」と書かれている。敷地内に難民らしき従業員が働いている姿を確認できた。



 ◆



 マキシムラインに着いたシュウはクロスバイクを柵に括り付けると、気後れすることなく敷地内へ入った。スラム育ちのシュウは遠慮を知らない。変な奴に絡まれたらぶっ飛ばして逃げる、それくらいのつもりで丁度良い。そう思っていた。


「すいませーん!」


 シュウが事務所の扉を開けると、ボサボサの茶髪で、目に濃いクマがある、疲れ切った男が座っていた。着古した作業服に哀愁が漂っている。ネームプレートには内山と書かれていた。


「なんだい? きみは」


 内山は不審者を見るような目でシュウを見た。金髪、気合いの入った顔、黒いシャツ、短パン、サンダル。視線は上から下へ下がっていき、最後にシュウの顔を捉えた。


「ああ、面接かな。おーい、バイトの面接来たぞぉ!」


 内山は事務所の奥に向かって叫んだ。どうやらシュウを面接に来た学生と勘違いしたらしい。


「違うよ、おっさん! 人探しだってば。こんな子供を探しているんだけど、見たことないすか?」


 シュウはそう言うと内山にチェンの似顔絵を見せた。内山は眼鏡を外して似顔絵を受け取る。そしてまじまじと眺めた。


「ふーむ、絵じゃなぁ。写真とかないの?」


「ない」


「うーん。何て子?」


「チェンっていうんだ。こんくらいの背で、情報屋やっている生意気なガキ」


 チェンの名前を聞いて、内山の表情が変わった。


「……君、その子に何の用だい?」


 若干、シュウに対して警戒心を抱いたようだ。


「ああ、俺、こういう者です。東銀で便利屋やっています。チェンは弟みたいなものかな。何度か一緒に仕事もした」


 シュウは名刺を内山へ渡した。内山は名刺とシュウの顔を交互に見る。


「便利屋金蚊ね。えーと……シュウくんか。君は異人だね? その若さでストレンジャーかい?」


「うん」


「なるほどねぇ。それで情報屋のチェンくんと知り合いなのか。異人ってのは見かけでは分からないよ、本当」


 内山は納得した表情をした。少し警戒を解いたようだ。


「おっさん、チェンを知っているのか?」


「ああ、最近見ないけどね。あの子、危ない仕事しているから心配はしていたよ。君が探しているってことは……何か事件にでも巻き込まれたかな」


 内山は一人頷き、シュウを奥の席へ通した。シュウは改めて事務所を見渡すが、内山以外に従業員の姿は無かった。二人は席に着くと会話を再開する。


「改めまして、私は内山です。マキシムラインの社長だよ。社長って言っても大したことはない、父の後を継いだだけだからね。異人や難民を雇って何とか運営している零細企業さ」


 シュウは内山の顔を見ていた。目の下のクマが目立つ。疲労が溜まっている様子に景気の悪さが垣間見えた。窓から外を見ると難民が休憩を取っている姿が見える。皆、笑顔であった。


(あの笑顔を守るために頑張っているんだろうか)


 シュウはそう思った。


「ところでシュウくん。チェンくんを探していると言っていたが、これまで収穫はあったのかい?」


「全くない。結構困っているんだ。仲良くしていたつもりだけど、俺はあいつのことを何も知らなかったって痛感している。チェンって名前も偽名かもしれない」


「なるほどね。確かに『チェン』では見付からないだろう」


「やっぱ偽名か」


「そうじゃない。君たちの業界では異名を名乗ることが多いだろう。彼は【鍵師ロックスミス】と呼ばれている。チェンよりそちらの方が認知度は高いと思うよ」


 シュウはチェンの異名を初めて聞いた。


「彼は人材派遣のようなこともやっていてね。何度かうちにも難民を派遣してもらったよ。逆にスカウトに来ることもあった。ご存じの通り、うちは異人や難民が多い。特に難民出身の異人は戦闘力が高かったり、レアな異能を持っていることが多いんだ。そんな連中を探しに来ることはあったね」


「どうしてそんなことをするんだ?」


 シュウの率直な問いに、内山は苦笑しながら答えた。


「戦闘力を欲する組織があるってことさ。言いたくはないけど真っ当な顧客ではないだろうね。仲介料が高い分、リスクも高い。……子供が異人街で生きていくためには必要なことなんだろうが……いつかはトラブルに巻き込まれるだろうと思っていたよ」


「……そうか」


 シュウは目を伏せると表情を曇らせた。内山はシュウの顔を見ると頬を緩ませる。


「なんだよ、おっさん」


「いや、チェンくんに君のような友人がいて、安心しているんだ。どうやら君は良い男らしい」


「別にそんなんじゃないよ」


「私も清い生き方をしているわけではない。多くの従業員を養うために無理をすることもある。ここだっていつ潰れるか分からんよ」


 内山は笑顔で冗談を言った。釣られてシュウも笑う。その時、シュウの視界の隅にあるものが映った。


「あれは……」


 シュウは思わず席を立った。内山はシュウの視線の方を見る。


――そこには異人の歌姫「カリス」のトレカが積まれていた。


「シャーロット……さん」


 シュウは掠れた声で呟いた。

【参照】

マキシムラインとチェンについて→第十三話 密航ブローカーの子供

カリスのポストカードとマキシムライン→第三十四話 闇へ誘う女

チェンの人材派遣→第五十九話 荒川第一難民キャンプ

難民キャンプとチェンについて→第六十一話 朱雀華恋

マキシムラインと難民の関係→第六十三話 無登録難民

ロックスミスについて→第百一話 あの男

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