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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第十四話 シャーロットの憂鬱

 時は二十一世紀末。富裕層は度重なる異常気象を避けるため空中都市や海上都市へ移住し始めていた。海上都市は直径が五千メートルの人工島である。人口は約五万人、島の中心には高さ千百メートルのタワーが建っている。


 タワーの高級ホテルにシャーロット=シンクレアはいた。ホテルは商業ゾーンの中でも上層に位置しており、絶景が拝める。海上都市はいくつもの人工島が連結されており、そびえ立つタワーが遠くに霞んで見える。


「いい眺めなんですが……テンションは上がらないなぁ」


 能天気な口調で呟いた。ストーカー被害に悩んでホテルに来ているのだが、おっとりとした性格のため落ち込んでいるようには見えない。自然と口角が上がる。笑顔がスタンダードだった。


 シャーロットはかなり可愛い。カールがかかったライトブラウンのロングヘア、瞳は明るいグリーンで若干の垂れ目が男心をくすぐるかもしれない。シャーロットは男に「守ってあげたい」と思わせる外見をしていた。


 シャーロットはアメリカ生まれだが、最近は仕事の関係上、日本に滞在している。特殊な家庭環境だったため、親子関係はかなり悪い。四十代の母親が一人いるが、連絡は取っていない。


 十九歳のシャーロットの年収は日本円で五億である。若くして資産を築いたが、本人の口癖はネガティブなものだった。


「本当に……くだらなくて無価値な世界。早く終われば良いのに……」


 彼女は独りになると、愛くるしい笑顔とは正反対の言葉を紡ぐ。シャーロットはこの世界に、自分自身に価値を見出してはいなかったのだ。


 シャーロットは他人の「マナの色」が()える<共感覚>と呼ばれる異能を秘めている。


 マナは二十種類ほどの色があり、人の性格によって変わる。まずベースの色があり、その色の濃淡や濁り具合で精神状態が分かる。更にシャーロットは自分のマナの色を変える術を覚えた。


 相手が「このマナの色」を好むから、自分を「このマナの色」に変える。シャーロットは<擬態>をするようになり、性別に関係なく周囲から好感を持たれるようになった。


 ただ、他人の感情を手玉に取り、成功を収め、莫大な富を築いていくうちに、自分自身が消えていくような奇妙な感覚を覚えるようになる。


――本当の私は? どんな性格だったっけ。



 ◆



 最近のシャーロットはストーカー被害に悩んでいた。このところ、誰かに尾行されたり、変なメールや手紙が届く。花束が届くこともあった。


 彼女はメールの内容が気になっていた。誰にも知られていないはずの「事実」が書かれているのである。


――親愛なるカリス様。私はあなたのファンです。あなたに暗闇が迫っています。私があなたを守ります。――


 シャーロットの正体は、今大人気の異人アーティスト「カリス」である。素性は明かしていないが、異人を公表していること、協会に登録せずにストレンジャーの立ち位置を守っていることで異人、普通人の両人種に人気がある。


 しかし、事務所に在籍しているし、企業と契約をする際は先方と顔を合わせる。ライブの時は観客から姿が隠れるようにセッティングされているが、一番前の席からは稀に姿が見えるようであった。


「カリスの顔バレ!」と題するネットニュースが毎日アップされるが、今のところ自分の画像はない。……が、確かに似ている画像はある。


(顔は良いとしても……住所は嫌ですよね。花束贈られるのも引くなぁ)


 シャーロットは「あ~あ」と溜息をついた。悩んでいるのだろうが、笑顔が癖になっている彼女は、どこかのほほんとしているように見える。


 シャーロットが日本に滞在している理由はいくつかある。


 まず、日本のアニメが世界で大人気であること。彼女が主題歌を歌うアニメは、どれも大ヒットすると言われている。


 そして、自分が異人であること。日本は世界で初めて異人を公認し、法律で保護した国である。国が総出で異人のイメージアップを図っているので、両人種で人気のあるカリスの需要が高い。


 また、比較的異人差別が少ないので、異人というだけで来日する者も多い。「異人になったらまずは日本語を覚えろ」という言葉が常識になりつつある。これが異人街に住む外国人の日本語習得率が高い理由である。勿論、シャーロットも日本語は堪能だ。


「えーと、フィルさんが絶賛していた便利屋は……」


 シャーロットは便利屋金蚊のホームページをチェックした。フィル=エリソンがSNSで東銀の便利屋を紹介していたのを見たのだ。ホームページにはストーカー撃退の文言が掲載されている。


 店の住所を確認すると、シャーロットはその付近のホテルを探した。事件が解決するまで滞在するつもりだ。


「『(すい)』ってホテルにしようかな。部屋がキレイ! 楽しみ〜♪」


 シャーロットはストーカーの存在を忘れたかのように軽い足取りで部屋を出ていった。

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