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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第八章 山背と舞う龍 ――龍尾の五天龍・青龍編――
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第百三十八話 青龍の宣戦布告

 夜の海上からでも砂浜が視認できる距離になっていた。


 砂浜と海の間はテトラポットや岩で区切られているので、そこにボートを着けるかたちになる。金塊の重量があるため二艘のボートに分かれて乗っていた。


「お嬢。(おか)の奴等と連絡が取れません。これは()られましたね」


 ウェイは砂浜を睨むメイファへ報告した。


「そうか」


「このボートは狙撃の的です。敵陣の真っ只中に突っ込むわけにもいきません。針路を変えましょう」


 ウェイの進言にメイファは笑った。


「ふ……馬鹿なことを。針路は変えない。このまま突っ込むぞ」


「お嬢に何かあったら我々が社長に殺されます」


 メイファはウェイの胸ぐらを掴むとこう言った。


「敵を一掃する好機(チャンス)だぞ」


「それは……」


「敵はおそらく龍王傘下の龍鱗(りょうりん)。奴等を狩れば抗争の宣戦布告となる。父の目も覚めよう」


「敵が龍王なら……サルティ侵攻の亡霊。ファイブソウルズかもしれませんよ。あいつらはS級ギフター並みに手強いと聞きます。危険です」


「その時はファイブソウルズもろとも皆殺しだ」


 メイファはそう言うとウェイを解放した。


「金塊の運搬役に一人()け。そいつはプランBへ変更。残り四人で上陸する。伝達しろ」


「……承知しました」


「ああ。あれを使うぞ。積んでいるな?」


 メイファはニヤリと笑う。ウェイは半分諦めの表情で苦笑した。


「ええ。もちろん。重いから嫌だったんですがね」


 ウェイは襟元を直すと、衛星電話をポケットから出した。



 ◆



「あっれー。ボートが分かれていくね。こりゃ想定外だ」


 防災林の陰でヤオが驚きの声をあげる。それもそのはずだ。敵が戦力を減らし一艘で上陸したのである。ブラッドが口を開いた。


「俺達の存在に気付いていないんじゃねーの?」


「それはない。お仲間の連絡が途絶えたんだよ? 絶対バレてるってば。もしかして青龍だけ逃げたのかな。でもそれなら三上さんから連絡が入るし」


 テトラポットを乗り越え、四人が砂浜へ降り立つ姿が見える。女が一人、男が三人だ。先頭にいる女は龍の柄が入ったチャイナドレスを着ている。


 ヤオは双眼鏡で女を観察する。更に目にマナを集約して視力を上げており、暗い砂浜でも何とか人相を確認できた。目を引くのは手に持っている大刀(だいとう)である。長い柄に鎌のような刃が付いており、長さが三メートルはありそうであった。日本の薙刀のような形状で、禍々しいマナを纏っている。


「二代目青龍のメイファに違いない。気が強い女だなぁ。正面から突っ切るってことか」


 そして大刀を見て言う。


「うっわ。青龍刀じゃん。あんな重い武器ぶん回すつもり? あれ、アタシより重いよ、多分」


 青龍刀は正式には青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうという。青龍の装飾が施された大刀である。三国志演義の武将、関羽を象徴する伝説の武器として知られている。ブラッドが半ば呆れながら言う。


「あんな風に正面から来られると、こっちの小細工は無効化されちまうよ。蛮勇か、それとも勇猛なのか」


 ヤオが笑顔で答える。


「まあ、こっちもガチンコで対応せざるを得なくなるしね。……作戦は覚えているな? 青龍に海を背負わせること。少なくとも五秒かな」


 ケイトが銃を片手に言う。


「了解、五秒ね。七対四だ。数で攻めるわよ。いつも通り、念動、銃、ナイフ……使えるものは全部使って。同士討ちだけは避けるわよ。ね? エマ」


 エマは長い刀を取り出し、メイファを睨んで言った。


「私が青龍の大刀と打ち合います。ブラッドは奇襲、ヤオは適時スイッチ。ケイトは後の三人と連携して取り巻きを殺してください」


 エマは逆鱗の中でも戦略に長けている。ヤオがリーダーならエマは参謀であった。七名が顔を見合わせて頷いたその時、砂浜のメイファが青龍刀を構え大声で叫んだ。


「我は五天龍が一人! 青龍のメイファだ!」


 強風が吹いているが、メイファの声はよく通った。


「なになに? 何言うの、あの女」


 ヤオは面白そうにメイファを見ている。


「龍王の配下の者よ! 青龍の命が欲しければ、全てのマナを懸けてかかってこい! 我は逃げも隠れもしない! 小細工は不要! 正面から叩き伏せてくれる!」


 メイファが青龍刀を天に構えると、海上を吹き抜ける山背が螺旋を描いて砂浜へ下りてくる。それは砂塵を巻き上げる竜巻へと姿を変えた。海に白波が立ち、防災林が激しく揺れている。


「やっば。三上さんの想像通り、エアロ系じゃん。ここに固まってちゃヤバイ! <旋風>が来るよぉー!」


 ヤオが叫んだ瞬間、メイファは青龍刀を振り下ろした。


――ゴォォと轟音を立て竜巻が砂や海水を飲み込む。そして凄まじい速度で防災林に向かって這ってきた。その攻撃範囲は広く、個人の出力レベルを遙かに超えている。


 ヤオ達が林を飛び出すと、背後で木々と廃墟が砕け散り、天に向かって吹き上がった。巨大な瓦礫が地面に降り注ぐ。


「うっひゃー。災害レベルの化け物じゃん! 降ってくる瓦礫で圧死しないようにねー!」


 ヤオは指示を出し、懐から銃を取り出した。七名は巻き込まれないように散っていく。


 エマは真っ直ぐメイファを見ると長剣を構え突進していく。それに気が付いたメイファが攻撃的な笑みを浮かべ、大刀を振り上げる。


「いい度胸だ!」


 メイファは青龍刀をエマに向けて振り下ろした。重量五十キロはある大刀だが、その一閃は目を見張るほど速い。ヤオが叫んだ。


「エマ! それを受けるなぁ!」


 間一髪、エマは身体を捻って斬撃を回避する。振り切った大刀は砂浜を吹き飛ばした。大量の砂塵が吹き上がり、青龍刀から放たれた<風刃>は盛土の崖を大きく(えぐ)った。その衝撃で木々がバキバキと音を立て倒れていく。


「甘い! くらえ、旋風!」


 メイファはすぐさま返しの大刀を振り上げた。すると先刻見せた竜巻が発生し、エマの身体を呑み込んだ。


 しかし、エマはマナを<展開>して全身を覆い防御力を上げていた。展開とは身体を覆っているマナを外へ広げる技である。


 マナ壁ほどの耐久力はないが、大きなマナを消費せずに全身の防御力を満遍なく上げる。対異人戦闘において必須のスキルである。


 突風で吹き飛ばされたエマは反転して着地するとバックステップで距離をとる。多少、身体を裂かれたが戦闘に影響はない。


 ヤオは大刀を振り切ったメイファに、二発、三発と銃弾を撃ち込んだ。しかし、暴風に遮られ弾が逸れていく。メイファは銃の方を見ようともしない。


(反則でしょ、この風。飛び道具当たらないじゃん)


 海岸全域を強風が吹き荒れている。立っているのも辛い風だ。おまけに砂塵が巻き起こり視界が悪い。


 ヤオは自身の周りにマナを展開しながら、青龍の私兵の二人を見た。ケイト達はサイコキネシスとナイフで応戦している。その二人にも銃器は通用しなかったようである。実戦経験を積んだ特殊能力者をストレンジャーと呼ぶが、その境界線は銃やナイフを異能で防げるかどうか、と言われている。


(あっちは数で押せるかね。さて、こっちは……)


――ヤオがメイファに視線を戻した瞬間、眼前の海から濁流が溢れ出した。それは砂浜を削りながらヤオに襲いかかる。


(……っと! 曲がれー!)


 ヤオはテレキネシスでその水流を曲げた。天まで曲げられた海水は雨となって砂浜へ降り注ぐ。


 激流の中心に男が立っている。メイファの側近、ウェイである。ウェイは浅瀬を陣取り、海水を操っていた。


「あいつ、アクア系じゃん。水を得た魚ってか。エレメンター二人相手は、ちょっとしんどいね。さすが龍尾。選手層厚いわ」


 ヤオはそう言うと、ウェイに向かって銃弾を発射する。しかし、<水壁>に阻まれ、弾は届かない。異人同士の戦闘において銃は役に立たないことが多い。ウェイの背後に津波が見える。味方を巻き込みかねない規模の技だ。そのマナ量はメイファに勝るとも劣らない。


 ヤオは銃を捨てると、両手にナイフを持った。そして、ウェイに向かって駆ける。


「アクア系は近距離苦手っしょ。行っくよー!」


 ヤオのマスクはメイファの風で吹き飛ばされ、素顔が見えていた。その顔は楽しくて仕方ないように笑っているのであった。

【参照】

サルティ侵攻の亡霊→第四十九話 誓いの炎

アクア系の間合い→第百二十三話 放電

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