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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第七章 氷使いと超能力少女 ――ソフィア=エリソン編――
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第百三十話 ソフィアの訓練

 初等部の校舎から協会本部までは少々歩く。ソフィアは五限目終了後の休憩の間に、駆け足で地下訓練室へ向かっていた。


 本部は地上四十五階、地下五階建ての近代的なビルである。異能訓練室は地下五階にあった。エレベーターに駆け込みボタンを押す。ギフターの先輩に呼ばれているので、遅刻はできない。


 エレベーターを出ると、目の前にはカフェのような空間が広がっていた。テーブルやベンチ、自販機が見える。地下五階とは思えない程、明るく、そして広かった。


 そのスペースから通路が伸びており、先には異能を使用できる部屋があるようである。中央の受付には協会(トクノー)コンシェルジュが二名配置されていた。


 地下には想像以上に人がいた。黒服を着たギフターの姿が目立つ。ソフィアのように初等部の制服を着た生徒はいなかった。


 ソフィアは緊張していた。完全に場違いだと思ったのである。スマートフォンにインストールしている「トクノーアプリ」で電話しても、南は出なかった。


(え? え? どこに行けばいいの! 南先輩! 電話に出てくださーい!)


 慌てるソフィアに声を掛ける女子生徒がいた。


「あなたがソフィアちゃんかな?」


 ソフィアが振り返ると、そこには高等部の制服を着た少女が立っていた。


「は、はい。南先輩に呼ばれて……! でもいないんです」


「あはは。南くんは時間にルーズだからね。念のために様子を見に来てよかったよー。私は朱雀華恋(すざくかれん)です。南くんと同じ、A級ギフターなの。よろしくね」


 ワインレッドのロングヘアがお洒落である。ソフィアは同性相手にドキドキしていた。


「はい! よろしくお願いします。華恋先輩」


「南くんは遅れてくると思うよ。先に行きましょう。えーと……D1ルームだよ。先に受付ね」


 華恋は優しくソフィアをリードする。ソフィアは訓練校に来てから、初めてほっとしている自分を感じていた。


(華恋先輩……優しい! お姉様がいたらこんな感じ?)


 二人は受付でアプリのコードをスキャンした。一応、黒川南の名前で予約は済ませてあったが、肝心の本人がいない。しかし、華恋のギフター証明書の提示で通してもらえた。



 ◆



 華恋とソフィアは横に並んで歩いている。南と違って華恋はよく喋る。ソフィアはすっかり華恋を信頼していた。


「あはは、大変だね。でも南くんが、ここまで後輩を気遣うって珍しいの。副会長の指示だとしてもね。私なんて名前を覚えてもらうまで数ヶ月かかったんだよ」


「え? ……そうなんですか。気遣ってもらっているんでしょうか。あまり実感ないんですけど……」


 ソフィアはこれまでの南を回想する。右頬に傷跡は残らなかったが、冷たくされた記憶しかない。正直、何度か挫けそうになっていた。


「あの南くんが、わざわざ食堂まで呼びに行くなんて凄いことだよ。ソフィアちゃん、頑張ろうね!」


 華恋は優等生スマイルでソフィアを励ました。


 異能訓練の成績が芳しくなく、最近、色々と落ち込んでいたソフィアは、華恋の言葉に勇気づけられる。そして先刻から気になっていたことを聞いた。


「あのー? 華恋先輩は……南先輩とはどういう関係ですか?」


「ん? 彼女だよ」


「そ、そうですか。やっぱり……」


 想定内の回答である。ソフィアは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。すると背後から声が聞こえた。


「嘘はよくないわ……。名前を覚えてもらうのに数ヶ月かかったあなたが……どうして彼女なの」


 二人が後ろを振り返ると、そこには銀髪の女子生徒が立っていた。制服を見る限り、彼女も高等部であった。華恋は舌を出して笑った。


「あはは! うそうそ。彼女はフィオナ=ラクルテルさん。A級ギフターだよ」


 フィオナは華恋を見ながら言った。


「……朱雀さん。私が後ろにいるって分かっていて言ったでしょう。本当に……腹黒いわね」


「えー。そんなことないよ。ごめんなさいね、ラクルテルさんも心配で来たの?」


 ソフィアはフィオナに礼をすると、二人の顔を見比べた。結局、目の前にいる人達の関係が分からない。


(この人達、南先輩とはどんな関係なんだろう……。うーん、地雷は踏みたくないなぁ)


 D1ルームの前まで来ると、ようやく南がやって来た。南は三人の顔を見ると口を開く。


「何でフィオナと華恋がいるの? ……呼んでないけど」


 第一声がこれである。遅刻に対する詫びはない。華恋はソフィアの頭を撫でながら答えた。


「南くん! ソフィアちゃん困っていたよ? 駄目じゃない、遅刻したら。せめて部屋のナンバーくらい言っておかないと」


「あ、華恋先輩! 私は大丈夫ですから。私が昼休みの時、聞いておけばよかったのです」


 華恋の言葉に慌てたソフィアはすぐさまフォローを入れた。フィオナが南に指を差して問う。


「ここでハッキリさせておきたいわ……。南は……私と朱雀さんとソフィアさん。誰を選ぶのかしら?」


 場の空気を読まないフィオナの発言に、ソフィアが慌てる。


(わ、私が入ってる!)


 華恋も笑顔で話に乗っかる。


「あははは! ラクルテルさんは直球だね。どうなの? 南くん。年上、同い年、年下が揃っているけれど」


「僕はソフィア=エリソンに用があるんだ。他は帰っていいよ」


 南の言葉にソフィアは冷や汗を掻いた。


(私が選ばれちゃった!)


 フィオナと華恋は顔を見合わせる。


「……まさかの年下……ね」


 フィオナは呟いた。二人を置いて、南とソフィアは訓練室へ入ったのであった。



 ◆



 訓練室の中は結界術士により、特殊なマナ結界が張られている。異能が暴発しても設備に被害は出ない。部屋の広さは百五十平方メートルほどであった。


 ソフィアは南が生成した氷壁に向かってサイコキネシスを撃ち込むが、それを砕くことはなかった。肩で息をして落ち込んでいる。その後ろで南が腕を組んで様子を見ており、少し後ろにフィオナと華恋が立っている。


「……ごめんなさい。南先輩。うまくできなくて……私」


 ソフィアのサイコキネシスは平凡であった。少なくともカラーズのメンバー三人を殺害した片鱗は感じられない。中の下といったところである。


「カラーズを殺したサイコキネシスはどうしたの?」


「あの……実は誘拐犯を殺した時も……記憶が曖昧で。いえ、覚えてはいるのですが……どうやって能力を出したかまでは……分からないのです」


「ふーん。今日はもういいよ。六限終わるし」


 南の素っ気ない言葉にソフィアが過剰に反応する。南の方を向いて大声を出した。


「あ、あの! 私……頑張りますから! み、見捨てないで……ください。期待外れかもしれないですけど。私、ギフターになりたいんです!」


 南は意外そうな表情でソフィアを見た。


「先輩?」


「なんだろう。イメージが違うんだ。今の君と……カラーズを殺した……血に染まった君が――」


「え? 私は私ですが……」


「ソフィア。君は面白いね」


 そう言うと、南は部屋を出ていった。


――少し離れた所でフィオナと華恋はその様子を見ていた。


 華恋は驚いた顔で口を開いた。


「本当に珍しいね。南くんが他人に興味を持つの」


 フィオナはその呟きには答えず、こう言った。


「……間に合うのかしら。あの子」


「ラクルテルさん。どういうこと?」


「副会長は……あの子……ソフィアをファイブソウルズにぶつけるつもりよ……多分ね」


 フィオナは銀色の瞳でソフィアを眺めながら、そう言った。

【参照】

血に染まったソフィア→第八話 ソフィア=エリソン

ファイブソウルズについて→第五十二話 ファイブソウルズ

名前を覚えてもらえない華恋→第五十六話 異能訓練校

カラーズについて→第七十八話 カラーズ

トクノーコンシェルジュ→第八十六話 刑事の来訪

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