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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第七章 氷使いと超能力少女 ――ソフィア=エリソン編――
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第百二十三話 放電

 五大元素の話を終えたランは、一同の顔を見渡すと次の話に入った。


「さて、各エレメンターの属性が分かったところで、次はエレメンターの間合いについて話すわよ。これは属性の相剋関係ではなく、戦闘スタイルの相性の話」


 そう言うとランは五角形図の風を指差した。


「まず、エアロ系は圧倒的に遠距離が得意。後衛ね。飛行したり高所を陣取って範囲攻撃を仕掛ける」


 ランは土を指差す。


「アース系は中距離が得意。硬化した土で攻めて、そして仲間を守る。縁の下の力持ちかしら」


 そして水を指差して言う。


「アクア系は中距離寄りの遠距離ね。前衛を支援しつつ、攻撃をして、回復もこなす。オールラウンダー」


 次に火を指差して言う。


「パイロ系は近距離寄りの中距離が間合いよ。前に出ながら敵を焼き払うアタッカー」


 最後に雷を指差して言った。


「そしてエレキ系は中距離寄りの近距離。発電で自身を強化し、放電で奇襲を仕掛ける。攻撃に特化した前衛。トリッキーな役回りね」


 シュウは自分の戦闘を回想しながら答える。


「なるほどね。元々近距離が得意な属性なのか。いまいちマナを飛ばすイメージが湧かないのはそのためだな」


「アイス系は遠距離寄りの中距離が間合い。味方を氷壁で守りつつ、敵陣をブリザードで凍てつかせる。そして氷は電気を通しづらい。しゅうちんが【絶対零度(ニーズヘッグ)】に苦戦したのは必然よ。……ちょっと相手が悪かったわね」


「戦いの終盤に……俺の電拳がヤツの腹に届かなかったのはそのせいか」


 シュウは自分の拳を睨んで呟いた。


 リンが不安そうな表情を浮かべてランに聞く。


「……それなら、兄さんはこれからも前へ出て怪我をしてしまうのでしょうか?」


「相性が悪い相手とは戦わないのが鉄則。チームを組んで弱点を補い合うのが原則……なんだけど。しゅうちんは一人だからなぁ。お姉さんは頭が痛いよ」


 ランは腕を組んで悩んでいる。リンが口を開いた。


「ランさんは黒川さんとラクルテルさんを撃退したんですよね。どうやったんですか?」


「遠距離にいた絶対零度(ニーズヘッグ)には放電、接近してきた銀槍の乙女(ヴァルキリー)には電拳よ。まあ、私レベルになると属性の相性とか間合いなんて関係ないんだけど」


 ランはシュウの顔を見て言った。


「そうね、あんたもそろそろ放電を覚えるか。中距離攻撃覚えるだけで全然違うはず。発電と放電を使えてエレキ系が名乗れるのよ」



 ◆



 訓練場の中央でシュウとランが向き合った。少し離れた位置でリン、木村、高橋がその様子を見守っている。


 ランが右手を天井に向けると、電気を纏ったマナの球体が発現した。それは直径一メートルほどの雷球である。


「放電にも種類があってね。これは<電弧(アーク)>。まあ、プラズマみたいなものよ。私はこれでニーズヘッグを戦闘不能にした」


 シュウは改めてランの凄さを目の当たりにした。たかだか一メートルの雷球だが、まともに受ければ死ぬかもしれない。それ程の威力を感じたのである。


「どうやんの、それ」


 ランが右手をくるりと回すと、雷球は霧散した。


「今のあんたじゃマナ量が足りないわね。電弧(アーク)はエレキ系の上級技。生成するにも射出するにも多量のマナを消費する。テクニック云々前にマナが足りないわ」


「じゃあ、俺は何を覚えるんだ?」


「あんたには中級技の<火花(エタンセ)>を覚えてもらう。……木村! ちょっとそこにマナ(へき)を生成してくれる?」


 ランは適当な場所を指定して木村に言った。木村は自分の二メートルほど前に一辺三メートルのマナ壁を生成した。


「これでいいですか? 社長」


「いいよ。強度は?」


「レベル五ってとこです」


 ランは<発電>を開始した。稲妻を彷彿とさせる青い電気がバチバチッとランを中心に弾ける。


「ここまでは、しゅうちんがいつもやっている発電よ。エレキ系の初級技。火花は発電の延長線上にあるの。見てなさい」


 ランは木村のマナ壁に人差し指を向ける。そして一言呟いた。


火花(エタンセ)


――次の瞬間、ランの人差し指から稲妻が射出され、バチッとマナ壁を叩いた。振動するマナ壁から、その威力が伝わってくる。


「おお! それなら俺でもできそうだ」


「発電の時に漏れ出ている電気を一箇所に集めて撃つのよ。ホースで水を放出する感覚に近いわね。飛距離を伸ばしたいなら、相応のマナを練ること。マナを溜めて、一気に射出する。……じゃあ発電をやってみなさい」


「ういっす!」


 シュウは静かに目を閉じた。マナを練り発電する。バチバチッと火花が散り始めた。


(ここまではいつもと一緒だ。ここから電気を手のひらに集めていく……)


 シュウは自分の右手を前に突き出す。しかし……。


「し、師匠。電気が手に集まらねぇ。止めどなく流れちゃって……」


「電拳と同じ要領よ。あれだって拳にマナを集めるでしょう」


「あれは腕全体だから楽なんだけど……。勢いで何とかなるし。でも手とか局所的になると、キツい。あ、これは無理だ」


 ランは呆れ顔でシュウに言った。


「やっぱりあんたは不器用よねー。全てはイメージなのよ。――マナが血液のように全身を巡っている。それをせき止めるの。……すると、マナが溢れ出そうと抵抗してくるでしょう。そのタイミングで射出する! ――って感じなんだけど、分かるかしら?」


 シュウの集中力が切れて発電が中断される。そして排マナが放出されていった。


「はぁ……はぁ……。これは奥が深い」


 シュウは肩で息をしている。ランは苦笑いをしながらシュウに声を掛けた。


「まあ、電拳は『拳で相手を殴る』って明確なイメージがあるから、不器用なあんたにもできるのかもしれないわね。想像力と集中力を養うために普段から瞑想しないと駄目よ」


「うわ、漫画とかで仙人がやっているアレか! やべぇ、寝そう。俺。……そう言えば昔、シンユーがやってたな」


 狼狽えるシュウにランは言った。


「龍尾のシンユーか。あの子は気功の基礎ができているからね。マナ・コントロールでは勝てないでしょう。ガチンコの殴り合いなら分からないけど」


 シュウとランのやり取りを見て、リンが不安そうにしている。そのリンを高橋が励ましていた。


 ランはシュウに言った。


「……ところで、放電を覚えるのも良いけど。――あんたの電拳。あれはまだ未完成よ」


「え?」


 シュウはランの言葉に混乱しながら、自分の右拳を見詰めた。

【参照】

ニーズヘッグに苦戦した話→第四十五話 絶対零度

ランが撃退した話→第四十六話 雷火のラン

シンユーの気功→第九十五話 硬拳のシンユー

心配する妹→第百十一話 リンのアドバイス

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