表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第六章 雨夜タイム ――水門の姫の再起編――
120/315

第百二十話 龍尾とアルティメット・ディアーナ

 東銀の東部に位置する白天町(はくてんちょう)は、白人の移民が多く定着している。比較的、アジア人が多い異人街の中では目を引く地域である。まるでアメリカのストリートのような雰囲気で観光客の人気を集めていた。


 少し裏道に入ると、怪しいネオン街へ繋がっている。裏ハクと呼ばれるスポットだ。ディープな異国の雰囲気を味わえるが、注意をしないとぼったくりの店も存在する。


 裏ハクに「ホワイトアウト」というクラブがある。白天町の中でも特にインターナショナルな空間で、外国人の客が非常に多い。ニューヨークのクラブを彷彿とさせ、地下一階から地上三階までの四フロアで構成されている。


 ホワイトアウトには一般に公開されていない四階が存在する。そこは裏社会の人間の接待に使われる特殊なフロアであった。そう、ホワイトアウトは麻薬武器密売組織アルティメット・ディアーナが運営しているのである。


 日本支部リーダーのアレン=クルーは女性のように長い金髪で華奢な優男だが、アルティメット・ディアーナで主戦力となっている異人だ。


――ある日の夜、アレンは龍尾ドラゴンテイルのハオラン一行を四階で接待していた。


 ハオランは龍尾の幹部「五天龍」の一人で、【黒龍】の異名を持つ大柄の男である。VIPルームの長いソファーの中央にハオランが座り、両脇にホステスが四名ついている。女好きのハオランはご機嫌だ。下座にはアレンが座り、にこやかに対応していた。


 ハオランの後ろには黒い服を着た男女が立っている。


 男の方をカイという。清潔感のある黒の短髪で、口元にはヒゲが生えている。女の方はルーといい、長い黒髪を後ろで結っている。どちらも黒い手袋を着用していた。二人とも異能を使う護衛である。怪我をしたシンユーとソジュンの代わりであった。


「アレン殿! なかなか良い店ではないか。酒が美味いし女もレベル高い! シャトーマルゴーもいいが、やっぱ紹興酒(しょうこうしゅ)だな!」


 ハオランの前にはドンペリやオールドヴィンテージのシャトーマルゴー、そして百年熟成の紹興酒が開けられていた。酒豪のハオランは上機嫌で酒をあおる。


「さすがハオラン様。その紹興酒は国際コンクールで金賞を受賞した蔵の秘蔵の酒です。雑味が全くなく、清流のように滑らかな口当たり。何より高貴な香りが素晴らしい……逸品です。ハオラン様のために、お取り寄せしました」


「嬉しいことを言うなぁ、アレン殿! カイ! ルー! お前等も飲むか?」


 ハオランは後ろの二人に声を掛ける。しかし、二人は無言で首を横に振った。


 アレンの隣にはスカーレット=オルグレンがドレスアップして座っていた。レッドブラウンのショートボブで気の強そうな顔をしている。アレンと行動を共にする異人だが、普段はクラブのホステスであった。スカーレットは不機嫌そうな表情でハオランを見ている。


「おー! 赤毛の姉ちゃん! シスターに転職しなかったんだな? やめとけやめとけ、子供も殺せないんじゃ長生きできねーぞ! この業界は」


 ハオランはスカーレットを見ると大声で笑った。前回の武器取引でファイブソウルズに襲撃された際、スカーレットは少年兵を殺すことを躊躇し、ハオランに助けられたのである。


「く……下品な男。大嫌い」


 スカーレットはハオランに届かない声で呟いた。龍尾は重要な顧客であるため、むげにはできない。スカーレットの呟きを聞いたアレンは苦笑している。そして話を変えた。


「そう言えばハオラン様。先日ファイブソウルズと名乗る組織にライフル銃と爆弾、麻薬を少々売りました。ダビカという眼鏡を掛けた女性でしたよ」


「ほう? ファイブソウルズが道具を買ったんかい。いらんだろ、異人に銃なんて。……そいつら本物か?」


「ご冗談を。本物なら売りませんよ。ファイブソウルズは龍王ドラゴンキングと共闘しております。御社が不利になるような取引はしません。どうやらアルテミシア騎士団の副団長を拉致したようですが……」


 アレンは妖艶な笑みを浮かべた。


「がっはっは! 大胆だなぁ! どうやって死んだんだ? そいつら」


「騎士団長と協会のギフターに狩られたようです。まあ、全滅でしょう。ニュースにすらなっていませんが」


 アレンの言葉にハオランは真顔になった。


「【王殺し(クロノス)】の野郎が動いたんかい。そりゃ大層なこった。……指揮を執ったのは副会長の魔女か」


「おそらくは」


「同行したギフターってのは? 当然A級以上だよな」


「氷のマナを纏う少年だとか。等級は不明です」


「ふーん」


 ハオランは紹興酒を飲みきると、マルゴーに手を伸ばす。それより先にスカーレットがボトルを手に取ると、ハオランのグラスに注いだ。


「おお、赤毛の姉ちゃん。気が利くな」


「……」


 嫌な顔をしながらも真面目に仕事はこなしている。スカーレットは生真面目な性格をしていた。アレンは笑顔で言った。


「前回のファイブソウルズの襲撃で、我々アルティメット・ディアーナは既に龍王から敵と認識されていると分かりました。故に全力で御社をサポートいたします。高騰している銃も格安でお売りいたしますよ」


「がはは! 柊会の連中が道具を欲しがっているから儲けさせてもらうかな! 抗争には資金が必要だ! 派手にいこうや!」


 ハオランは豪快に笑うと赤ワインを一気に飲んだ。因みにシャトーマルゴーは一本五十万円の高級ワインである。そして、思い出したように言った。


「……ああ、そうそう。【青龍】の方にも頼むわ。最近、あっちの方で龍鱗が動いてるからな。フォローしてやってくれ」


 龍鱗(りょうりん)とは龍王傘下の組織である。主に汚れ仕事を請け負う危険な連中だ。


「ええ。承知しました」


 アレンは笑顔で頷く。


「リーシャ様は五天龍を川成へ呼んだ。今度の集会で龍王との抗争に踏み切るはずだ。……待ちに待ったぜぇ!」


 ハオランの身体から凄まじい濃度のマナが漲っている。邪悪を具現化したようなマナがVIPルームに溢れ出す。マナが視える異人なら、思わず構えてしまうほどの迫力だ。黒龍の異名を持つハオランは正に異人街の魔獣であった。


 スカーレットは思わず身震いをした。


(……なんという禍々しいマナ。――人間味を捨てると、ここまで強くなれるの……?)


 スカーレットは隣に座るアレンを見た。アレンはハオランに気圧されることなく笑っている。


(アレン様……?)


 アレンのマナは機械のように正確に淀みなく身体を巡っている。その一点の曇りもないマナ・コントロールは、たぎるマナを隠そうともしないハオランとは真逆であった。アレンは女性のように美しい笑顔を浮かべ、青い瞳でハオランを見ていた。

【参照】

アルティメット・ディアーナと龍尾の取引→第五十一話 アルティメット・ディアーナ

ファイブソウルズの襲撃→第五十二話 ファイブソウルズ

副団長拉致事件→第百五話 アルテミシア騎士団

ファイブソウルズの偽物→第百十話 アダマスの鎌

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ