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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第五章 アルテミシア騎士団 ――シンポジウムテロ事件編――
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第百七話 アリスの祈り

「分かっていると思うけど……こいつ等は偽者の可能性が高いわよ?」


「百も承知だ。この事件は俺の条件外でいい。これでどうだ?」


「……ムッシュ・カミーユ。ちょっと切りますね。この件は協会(こっち)に任せてもらいます。後はメールで」


 亜梨沙はカミーユとの通信を切った。そして席を立ちクートーと正面から向き合う。


「アリスなら一人でテロ犯を殲滅できるわよ? 副団長の【光剣の乙女(ラピュセル)】。私は彼女をそこそこ評価している。気を遣いすぎじゃないかしら?」


「あいつは他の人質を見殺しにできない。騎士道精神に反するくらいなら死を選ぶ女だ」


 クートーの言葉に亜梨沙は笑った。


「あは! メンヘラ過ぎない? それが騎士団の強さの根源っていうならカルト団体と大差ないわね?」


「信仰は異能の強さに関係している。悪いことではあるまい。ましてあいつは信仰系(フィデリス)の騎士だ」


 クートーは笑わない。亜梨沙の返答を待っている。亜梨沙の顔にいつもの笑みが戻った。


「いいわ、私の眼を貸す」


「取引成立だな。もう一ついいか?」


「……今度は何よ?」


絶対零度(ニーズヘッグ)……黒川南を連れて行く。あいつのアイスキネシスは爆発物処理に有効だからな」


「あのコ気まぐれだからなぁ~。嫌がるかもしれないわよ?」


 一見、困っているように見えるが、自分の弟がS級ギフターに評価されて嬉しく思っている。それをクートーに見抜かれていた。


「お前の言うことなら聞くだろう? 南はお前のことを好いているからな」


「……分かったわ。南を連れて行きましょう。あ、でも対冷却爆弾なら冷やすと爆発するわよ?」


 爆弾をマイナス二百度近くまで冷やすと起電力が失われ爆発を阻止できるが、逆に冷やすと起動する爆弾も存在する。


「自爆に使う爆弾だ。恐らく大丈夫だろう。仮にそうだとしても黒川南の氷壁で覆えば爆発しても被害は出ないはずだ。……まあ、木っ端みじんの人間シャーベットは見たくないが」


「あはは! 血がストロベリーシロップに見えるかもしれないわね」


 クートーのブラックジョークがツボにはまったようだ。亜梨沙はクートーの腕をバンバン叩きながら笑っている。クートーは笑う亜梨沙を無言で見ていた。


「そうだ、クートー。アリスがスマホの電源を落とすまでの位置情報くらいチェックしているわよね? 少しでも捜索範囲は狭めてほしいわ」


「当然だ。中浦公園付近で切られている。そこを中心に透視してほしい。車の中でな」



 ◆



 アリスを含めシンポジウム参加者が拉致されている場所は、月宮駅から遙か西部に位置する荒川沿いの廃棄物処理場であった。大きな柵に覆われた処理場内に巨大なリサイクル施設が建っている。倒産して一年経つが建物は放置されており、ファイブソウルズを名乗る組織に占拠されているのである。


 施設内にはゴミの選別コンベアや圧縮機などの機械類が設置されている。広大な緑色の床には廃棄物が散乱しており、衛生的な環境とは言えない。人質は下の衣服を脱がされ、横一列になるように座らされている。手を縛られていて行動が制限されていた。その背後に廃棄物でバリケードを作り、テロ組織のメンバーが銃を構えている。


 人質は「人間の盾」として使われていた。入り口からの狙撃を想定した位置取りである。テロのメンバーは十五名。目出し帽の男をリーダーにして、他に武装した男が十名。人質の世話役に女が二名。バスの運転手が一名。


 そして交渉役の眼鏡の女が破棄物処理場とは別の場所にいた。これは万が一、通信中に逆探知されて位置が特定されても、本拠地を悟らせないようにするための工夫だ。自分一人が死んでも組織は無事。眼鏡の女はそう考えていた。


――アリスは聖女アルテミシアに祈りを捧げていた。


 人質になったシンポジウム参加者の中には、泣き崩れる者、狼狽する者、過呼吸を起こす者がいた。彼等はアリスにとって救うべき弱者である。アリス以外の騎士団員は普通人だが、さすがに落ち着いており、事態を打破すべく思考を巡らせている。


 テロのメンバーが普通人なら、アリス一人で脱出することは容易い。しかし、彼等はファイブソウルズと名乗っているし、爆弾を身に付けている者もいる。迂闊に動けば被害が拡大する可能性があった。現にバスの中で一人死んでいる。そして、何よりアリスは騎士道精神に背けない。


(弱き者を救う……それが騎士の使命です。そのためなら私は……)


 アリスはテロのメンバーを観察した。覆面を被った男はライフル銃を持って人質を見張っている。別の男達は施設内を巡回し、外を確認している。女達は連絡係と雑用係を兼ねている。隙はない。目出し帽の男がパソコンを操作する女に話し掛けた。


「どうなってル? 騎士団と協会から返事はあったのカ? 交渉役のダビカから連絡は……?」


「はい。ダビカから連絡ありました。現在、協会と交渉中です。サルティへの支援見直しと囚人釈放は時間が掛かると言っているそうです。これはまあ想定通りですね。リーダー」


 もう一人のアジア系の女が面白そうに話す。


「ふふ。テロには屈しないって言いながラ、裏ではこれネ! アタシ達はカネさえ貰えればオーケー! 貰えなかたら殺すネ。敵の戦力削ル。誰も損しないヨ!」


 バスの運転手がタバコを吸いながらアリスに近付いてきた。面白くて仕方ない様子で見下ろし、下品な笑みを浮かべて問う。


「よう、清廉な副団長さま。驚いたかい? 運転手が裏切ってよぉ」


 運転手の男は舐め回すようにアリスを眺める。


「オレはファイブソウルズに雇われた闇バイトだよ。金さえ貰えりゃいい。バスのGPSに細工したのもオレだ。運転手なら簡単だぜ」


「……」


 アリスは笑顔のまま何も答えない。運転手の男は拉致されても動じない未成年の少女を面白そうに見ながらタバコの煙を顔に吹きかけた。


「けほっ……けほっ!」


 咳き込むアリスを見て男はアリスのマントを掴んだ。


「周りが脱いでんのに、副団長さまだけ、そのままってのもなぁ。オレが相手してやろうか?」


「わかりました。でも、その前に約束してください、他の方々の身の安全を……。それが条件です」


 あくまでもアリスは気丈に振る舞っている。その表情に怯えはなかった。


「くく……! いいなぁ、こいつ! なぁ、リーダー! どうせ殺すなら……もういいか?」


 運転手は目出し帽の男に許可を求める。アジア系の女は面白そうにその様子を見ていた。


「……まだダメダ。他の団員に暴れられても面倒ダ。送金があったラ……好きにしてイイ」


「ちっ。……だってよ? 後で楽しもうぜ。アリスちゃ~ん」


 運転手はアリスの肩を蹴り飛ばすと、タバコを吸いに外へ出て行った。


「アリス様、大丈夫ですか?」


 隣にいる団員が心配そうに声を掛ける。


「ええ。今は祈りましょう。マナに想いを込めて――」


 アリスは聖女に祈りを捧げる。そのマナは思念となって昇華していった――。

【参照】

黒川南のアイスキネシス→第四十五話 絶対零度

ファイブソウルズ→第五十二話 ファイブソウルズ

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