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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第百話 異人喫茶の日常

 東銀の南部に位置する異人喫茶は様々な組織のメンバーが顔を出す。異人喫茶は、勢力争いが頻繁な地域に位置しながら、表向きはどこの組織にも属していないからである。


 オーナーの八神は組織間の問題には関与せず、店内には防犯カメラすら無い。異人である限り出入りは自由。これが暗黙の了解として周知されている。


 八神は、背が高く、ぼさぼさの黒髪で無精ヒゲが目立つ。黒いワイシャツに黒いベスト、黒いスラックスを穿き、バーテンダーのような服装をしている。


 基本的にホールには出ずカウンターの中にいる。厨房にも入らない。接客態度は良いとは言えない。愛想笑いはせず、客が神様とも思っていなかった。


 店内で起こったトラブルにはノータッチ。当事者同士で解決することが求められる。しかし、営業に支障が出る場合はその限りではない。


 異人喫茶のスタッフはオーナー含めて凄腕のストレンジャーである。客の行き過ぎた蛮行には制裁を下す。


――その日も店は繁盛しており、ランチタイムは修羅場であった。客の内訳は観光客がメインで、個室では反社組織の組員が接待している姿も見える。


 ホールに出ていた七種武臣(さえぐさたけおみ)がカウンターの中にいる八神に声を掛けた。


「オーナー! ラヴノーのシャブリがボトルで入りましたー。なんとグラン・クリュっす」


 そのワインは六十万円で出している高級ワインである。シャルドネで造られた辛口のフランスワインだ。


「昼から随分と奮発するね。カタギの客か?」


「いやー。明らかに反社ですねぇ。ギラギラしちゃって。異能使いたくてたまらないって感じっす。ありゃ東銀に来たばっかりっすね」


 少々、軽薄な口調の七種は外見も派手である。外はねのストロベリーブロンドで、サングラスを掛けており、腕には蛇のタトゥーが入っている。身長は八神ほどではないが高い。


「ふーん」


 八神はカウンターからホールを見た。窓際の丸テーブルに柄の悪い男が三人で座っている。肌を焼いており、身体にぴったりとくっついたブランド物のシャツを着ていた。ネックレスやブレスレットをジャラジャラとさせている。


 その中でオールバックの男が高らかに笑っている。他の二人は舎弟のようだ。


「こんなに早く話が決まるとはな! 確かに東銀(ここ)は日本じゃねぇわ! ビジネスがやりやすい。まあ、高いワイン頼んだから飲め飲め! ねぎらいだ」


「あざっす! 金谷さん! ごちになります」


 八神は金谷を観察するとこう言った。


「……サイコキネシス系の異人だな」


「そうなんすか? 見ただけで分かるんですね」


「異能と生活習慣は密接だ。それは癖に表れる。彼はネックレスを頻繁に触っているが……おそらくあれにマナを込めて凶器にするんだろう。相手に手ぶらを装えるメリットはあるか」


「へぇー。意味(メリット)あるんすね、そんな能力にも」


「地味な能力ほど汎用性に優れている。馬鹿にできんさ。……さて、私がワインをサーブしよう」


 八神はそう言うとワインを金谷の席まで持って行った。金谷は八神の接近に気が付くと下品な笑みを浮かべる。


「おー! 名物オーナーのお出ましか! あんた強いんだって? 気にくわない客には容赦なく制裁を下すって噂になってんぞ? それって接客としてどうよ?」


 金谷の挑発に周囲の客がざわめく。常連ほどオーナーを怒らせてはいけないことを理解しているからだ。


「……お客さん。このワイン高いけど。抜栓しても良いんですかね? お代はいただきますよ」


 背が高く、おまけに無精ヒゲが生えた強面だからか、不思議な威圧感がある。ぼさぼさの黒髪が一層不気味な雰囲気を演出していた。


 金谷は動じないが、舎弟の二人は若干引いている。


「大丈夫大丈夫! 美味いんだろ? そのシャブリ」


「……ラヴノーの五十年物ですよ。美味しい不味いの話じゃぁない。あなたに分かるか? シャブリとシャルドネの真髄が……」


 八神の尊大な接客に金谷は腹を立てた。


「あぁ? 日本人なら客は神だろうが! 異人街だからって忘れてんじゃねぇよ! 表に出ろこらぁ! ゴールデンボール武闘派の実力を見せてやるぜ!」


 金谷は怒鳴って立つと椅子を蹴飛ばした。周囲の客は何事かと様子を伺っている。七種はカウンターの中から金谷を見ていた。


(八神さんの接客も悪いけど。ありゃ最初から絡むつもりだったな。異能勝負で勝ったらワイン代を踏み倒すつもりだろ。それにしてもゴールデンボールって組織は聞いたことねぇな)


 異人喫茶の八神は東銀で有名人である。このように挑発してくる異人は多い。八神と金谷達は店の外へ出て向き合った。七種も後からついていく。


「ここで名物オーナーを倒せば組織の知名度が上がるってもんだなぁ! 殺しはしねぇけど、腕一本は覚悟しろよ! 八神」


 金谷は高笑いしながら金のネックレスを振り回す。八神は冷めた表情でその様子を見ていた。


「ふぅん!」


 金谷がマナを込めると、ネックレスが重力に逆らって、ピンッと一振りの刀のように硬化した。


「必殺! ゴールデンソードォォ!」


 金谷の舎弟が背後で意気揚々と拳を突き上げた。


「出たぁ! 兄貴の超能力! あれで斬られたらやばいぞぉ!」


 周囲を野次馬が取り囲む。東銀に住んで長い住人には見慣れた光景であった。


「俺様が勝ったらゴールデンボールがこの辺りを支配する! 分かったか! 八神ぃ!」


 金谷は楽しくて仕方がない様子であった。人目を気にせず異能を発動できる場所は多くないからである。厳密には異能の使用に制限はあるが、異人街は普通人の街と比べるとマークが甘い。


「……もういいか?」


「あぁ? おいこら、ウスノロ! もう勝負は始まって……」


 金谷が言い終える前に、八神はパチンッと指を鳴らした。


――すると、ドカンッと爆発音が響き渡り、商店街が大きく揺れた。金谷の頭上の空間が爆発したのである。


 その衝撃で金谷と二人の舎弟は吹き飛ばされる。道路に亀裂が入り、金谷のシャツから煙が上がっていた。


「あちちち! ……何だぁ! いきなり空が爆発しやがった……! いつの間に爆弾をぉ!」


 三人は耳を塞いで、のたうち回っている。爆音で鼓膜がやられたらしい。店の前で見ていた七種が三人に近寄ると、こう言った。


「<エクスプロージョン>。パイロ系から派生したレアな能力っすよ、金玉のおっさん」


 金谷の耳から血が流れている。苦痛に表情を歪めながら七種を睨む。


「誰が金玉だぁ! いててて。ちきしょう。うわ! 血がぁぁ! おいおい洒落になんねぇ!」


「はぁ。ワインはキャンセルだな」


 八神は溜息をつくと、店へ戻っていった。野次馬もそれに倣い散っていく。その場には七種と金谷達だけが残される。


協会トクノーのサイトに『十大異人』って序列が載ってるっす。この異人街で喧嘩を売ったらヤバイ化け物が十人。八神さんが何位かチェックした方がいいっすよ。あ、病院行く前に会計お願いしゃっす。一万六千五百円」


 舎弟が黙って会計を済ませる。


「あざーっす。またご来店くださ~い」


 七種は笑顔で金を受け取ると、店へ戻った。

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