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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第一章 電拳のシュウ ――異人令嬢誘拐編――
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第十話 来訪者

 フィルとソフィアはその後も旅行を楽しみ、アメリカへ帰っていった。その前日に二人は挨拶に来て、店の前で記念撮影をした。


 あのような事件後もフィルのSNS依存が治ることはなく、はしゃぎながら画像とメッセージを発信していた。


――みんな! 異人街でとってもクールな便利屋を発見したよ! 彼らはスーパーマンだ! ユニコーンだ! 困ったことがあったら『便利屋金蚊』まで! ――


 リンは心底呆れていたが、この発信以降、店への問い合わせが激増したので、上機嫌である。フィルのSNS依存が役に立った瞬間であった。


 結局、今回の誘拐事件がニュースになることはなかった。コーポ木崎の殺人事件は一部のネットメディアで取り上げられていたが信憑性の薄いサイトであった。


 警察上層部に圧力が掛かったのか、協会の介入があったのか、そもそも被疑者、被害者不明で立件できなかったのか。理由は分からない。


 シュウは店のガラス戸を開けて東銀通りに出た。空を見上げると雲一つ無い晴天である。今日も暑くなりそうだ。


 フィルのお陰で仕事は山積みである。振り返ると店内でリンが嬉しそうにSNSを更新している姿が見える。もともと金蚊のアカウントはあったが、最近は一層力を入れて運営しているようだ。


 午後にエアコンの工事が入る予定だ。最新のエアコンに新調されることも、リンの機嫌が良い理由の一つかもしれない。


 その時間、シュウはチェンに五郎系ラーメンを奢ることになっている。言いたいことは色々とあるが、持ちつ持たれつ、付かず離れずの関係が重要だ。


「よし、今日も頑張るか」と、シュウは気合いを入れ直し、メールチェックをするために、店の中へ戻っていった。



 ◆



――ソフィア=エリソンは血しぶきで真っ赤に染まった部屋の中に佇んでいた。足下には誘拐犯が無残な姿で散乱している。メイが持っていたソフィアのスマートフォンは破壊され、部屋の隅まで吹き飛んでいた。


「……あ、ホテルに帰らないと……パパが心配するわ」


 正気を取り戻したソフィアは、玄関の方へ身体を向けた。ここがどこだか分からないがタクシーを拾えば駅まで帰れるだろう。


 その時、玄関ドアが静かに開いた。ソフィアはびくっと震えた。


 黒いフード付きのロングマントを着込んだ人物が部屋に入ってくる。想定外の来訪者にソフィアは声も出ない。


 相手は透明感のある笑顔で話しかけてきた。


「やあ、大変でしたね。ソフィア=エリソンさん」


 中性的な声音だが、少年のように見える。彼は何故かソフィアの名前を知っていた。


 とても美しい少年だった。年齢はソフィアと同じくらいだろうか。肌は雪のように白い。髪はさらっとした抜け感のある灰色だ。マッシュスタイルの髪型が小顔に合っている。


 印象的なのは赤い色をした瞳である。見詰められると吸い込まれそうな感覚に陥る。


「……あなたは?」と、ソフィアは数秒遅れて声が出た。その問いには答えず少年は話を続けた。


「サイコメトリーで情報を読み取られると色々面倒です。僕が少しだけ細工をしておきます」


 少年が部屋に手をかざすと一瞬白く光った。ソフィアは彼が何をしているのか理解できない。


「ソフィアさん、よく聞いてください。これからこの部屋に二人の少年がやって来ます。外に出ると殺されてしまいますので、あなたはこのまま寝ていた方がいいでしょう。そうすれば全部丸く収まってアメリカに帰れます」


 ソフィアは急速に意識が遠のいていくのを感じた。疲れているのかもしれない。思わずその場に座り込む。


「人は必ず死にます。それが早いか遅いかだけ……人を殺したことは気にする必要はありません。すぐに慣れますよ」


 とても美しい声だ。少年はにこりと笑い、窓の方に視線を移した。サッシの中には窓ガラスは無い。先程のサイコキネシスで粉々に吹き飛んでいる。血に染まった赤いカーテンが不気味にはためいている。


「そろそろ最初のお客さんが来ますね。じゃあ、僕は行きます。また会いましょう。ソフィアさん」


 その言葉を最後に、ソフィアは深い眠りについた。

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