衝撃とトラウマ
それから、私と島田が里帰り中に三人で遊園地に行ったこと。海に行ったこと。などの楽しい思い出を話してくれた。どの話をするときも、3人共表情豊かでどんなに楽しかったのかが伝わってくる。三人の話が一段落したとき、私は「ハリス」のことを聞いた。
すると、三人の顔から笑顔がなくなった。
今までの和やかな雰囲気が一変し、チクリと刺すような空気になる。私は、顔がこわばっていくのが自分でもわかった。前の三人をみると、顔を見合わせ誰が話すかを目で会話している。2、3分それを続け草壁が意を決したようだ。
ゆっくりと、しかし聴き心地が良い声で話し始めた。「月夜は徳川を知っているよね?」私は、首を縦に振った。徳川さんとはあまり関わりがないか、このプロジェクト当初からの同僚だ。少し、引っ込み思案だが、気遣いができ仕事が早い、優秀な人だ。
私が、思い出していると草壁が話を続けた。「月夜たちが、休みの中、僕達3人と徳川は店の当番を頼まれていたんだ。お店は、夏休みで帰省して来た家族達でいつも以上に賑わっていたよ。」
そこで、草壁が一息ついた。当時を思い出すように、遠くに目をやり、再び話し始めた。「忙しいが、笑い声、楽しそうな声が、充満していた。それはもう楽しかったよ。でも、その空間は1つの悲鳴によって終わった。」草壁の顔がさらに強張っていく。
私が思わず「辛かったら話さなくても、大丈夫だよ。」と言いと「話すと決めたから。」言い、続けた。「その悲鳴の持ち主は常連さんの娘さんだった。どうやら常連さんが例の発作で倒れたらしい。そして、それに続けて徳川が倒れた。」私は動揺し、嘘だと願い聞き返した。いくら聞いても返ってくる言葉は同じだった。
心に大きな穴と悲しさ、そしてトラウマが蘇る。母と父、隣の席のおじいさんみんな、死んでいく。今でも、どんどんと冷たくなっていく母を思い出す。何かが込み上げてくる。自分で制御できなくなる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私だげ生きてて…」
急に、かおるが抱きついて来た。「いいんだよ。生きていいんだよ。」何故か、かおるが泣いている。そして、繰り返す。「生きていていいんだよ。」と。私は、頬に温かい雫が伝った事に驚いた。どうやら、昔の事を思い出して、泣いていたようだ。
かおるは、私が泣き止むまで一緒に泣いてくれた。風川と草壁は、私を温かく見守ってくれた。
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