タルミッタ 攻防戦1
タルミッタの冒険者ギルド長 ヨーゼフは、錠前作りが趣味だった。
その日は、休日だった。
いつものように、昼すぎに起きて、散歩して
それからひたすら錠前を製作していた。
これで、ここをこうして、そうすればピッキング不可能な
完璧な錠前ができるはず・・・
今年の
”ぜったいに開かない錠前 VS どんなカギでも開けるカギ屋 ”
大会で優勝するところを想像する。
この ”ヨーゼフ=フォン=ノイマンシュタイン” の名前が人類の歴史に刻まれるのだ!
歴史的な舞台で表彰される自分自身の姿を想像し、
ニヤニヤしながら、錠前をいじくりまわしていた。
すると、
ドゴオ・・・・・・・・・・・・・・・
いきなり、爆発音が聞こえてきた。
少し遅れて、カンカンカンカンと
甲高い鐘の音が聞こえる。
「敵襲!! 敵襲!!」
ヨーゼフはキレそうになった。
せっかくあと少しで完璧な錠前が完成するところだったのに!
くそ、これをこのまま置いていっていいものか、、、、
あと30分もあればきれいに片づけをすることができるのに・・・
一瞬まよったが、
ままよ!
と、自作の錠前を置いて、家の外に飛び出す!
西の空を見ると、
大きな火柱が上がっていた!
その後ろには、ドラゴンの姿が!
マズイ・・・・・・・・
ヨーゼフは、冷や汗を垂らす。
あの場所は、タルミ湖のほとり、
物流倉庫が集積している場所だ。
王都の兵の武器庫がある。
火柱は、一般兵向けの武器庫でばくだん石が破裂したためだろう。
そして、物流倉庫は食料庫でもある。
あの食料倉庫が炎上した日には、このタルミッタで飢饉が発生するだろう。
いや、それどころか、
タルミ湖の水運を利用するここらへん一帯の村や街まで食料不足が波及しかねない。
ヨーゼフは、ひと目でタルミッタの危機を悟ると
慌てて冒険者ギルドへ急ぐ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・
「ヨーゼフ ギルド長!」
ギルド秘書のカタリナたちが会議室に集まっていた。
「まずいぞ、カタリナ
あいつら、ワシらの食料を焼く気だ!」
「はっ!
既に主要な冒険者たちが
宿屋 ”タルミッタ アドベンチャー ナイト”からドラゴンの迎撃に向かっています!」
「そうか!迅速な対応だ!
・・・ところで、うちの冒険者たちって、空 ・・
飛べたっけ?」
「・・・いや、ふつう人間 空は飛べませんね。
飛べない豚はタダの豚
飛べない人はタダの人といいますか・・・・」
「ドラゴン、どうやって迎撃するんだろ?」
「弓矢と魔法ですね」
「ドラゴンに届くのかな?」
「生ドラゴンなら、届きますね。
もっとも、ドラゴンが単独で街を襲撃するとも思えませんので、
魔族の竜騎士か何かが乗ってると考えるのが妥当です。
その場合、竜騎士が風の防御魔法なり、
迎撃魔法なりで、防御しますね。」
「ダメじゃん!」
「とはいえ、防御しながらの炎のブレス攻撃は不可能
そのうち、ドラゴンは帰るんじゃないでしょうかね」
「うちらは、食料の焼かれ損かぁ。。」
「まぁ、私がタルミッタを襲撃する側だったら
やってきた冒険者たちを、ボウガンとかで狙撃する
伏兵を潜ませておきますかね。
ドラゴンに気をとられていたら、
伏兵がボウガンを撃ってくる。
もちろん、相手は冒険者たちなので、
魔物の伏兵を潜ませると気づかれます。
よって、気配の消せるプロの傭兵を雇う必要がありますが、、、
まあ、魔物側がそんなプロの傭兵なんて雇うはずもありませんよね」
「ハハ、まぁ、そうだよな~
魔族側が人間の傭兵をカネで雇うなんて、
そんな馬鹿なこと、あるはずないもんな~~~」
「そうですよ
さて、我らギルドの同志たちが
ドラゴンを追い返すのを待ちましょうか。
後処理も含めて、今夜は残業確定ですね。
コーヒーでも入れましょうか?」
「ああ、ほんと、
これだから、冒険者ギルドの仕事はツラいんだよなぁ。
ブラックで頼むわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・
「ドラゴン、なかなか、帰らない、、、な・・・」
コーヒーを飲み終わり、
腹ごしらえのドーナツを完食して
しばらくしてから、ポツリとつぶやくヨーゼフギルド長
「なんですかね・・・
今日は、家に帰りたくないとか、そんな気分なのでしょうか・・・ね?」
ややこわばった顔で冷や汗を流しつつ、応えるカタリナ。
バン!
ギルドの扉が開いて、矢を頭に刺した血まみれの男が入ってくる。
そのまま男は倒れて動かなくなる。
騒ぎを聞きつけたヨーゼフとカタリナは慌てて
男に駆け寄る。
男は、タルミッタの冒険者 カルロスだった。
「な!?
バカな・・・
回復術師を呼べ!」
慌てるヨーゼフ
「これをどうぞ!」
カタリナがエリクサーを差し出す。
ヨーゼフは、カルロスの口を無理やりこじ開けて
エリクサーを流し込む。
エリクサーの効果により、意識を取り戻すルドルフ
「ガホ・・・・・・・・・
ゲホゲホ・・・ゴホゴホ・・・・・・・・・ゲホゴホゴホ・・・・・・・」
どうやら、エリクサーでむせたらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・
カルロスたち ”タルミッタ アドベンチャー ナイト” に宿泊するタルミッタの主要な冒険者たちは、
物流倉庫のばくだん石の破裂、爆発音を聞いてすぐにドラゴンの襲撃に気がついた。
すぐに装備を整えると、準備ができた人間から順に外に飛び出し、
物流倉庫へ向かう。
カルロスは、宿屋の自室にデリバリーマッサージの 90分コースを注文していたので、
なんやかんやといろいろあって、出遅れてしまった。
物流倉庫方面を確認すると、
ドラゴンは、変わらず健在であった。
妙だ・・・魔法攻撃の炎や氷
弓矢などが見えない。
空を飛べる冒険者は
このタルミッタにいないかもしれないが、
それでも、弓兵や魔法使いはそれなりにいるのだ。
急ぎ、物流倉庫へ向かう。
物流倉庫前の広場に出た瞬間、
カルロスは、絶句した。
目の前に転がるタルミッタの冒険者たちの死体。
「なんだよ・・・これ・・・・・・・」
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン!
キィン!
左右と右上、左上の四方向から、
同時にボウガンの矢が飛来する!
二つつは回避し、もう一つは剣で弾き飛ばすものの、
矢の一つが太ももに刺さってしまった。
「がぁ、、、いっって~~~~~~~」
何が起きてる?
物流倉庫へ向かう途中にボウガンの矢で狙撃された?
早くポーションで回復せねば、、、、
と、カルロスの背後にいきなり
抜き身の剣をもって重武装した全身鎧が出現した。
いきなり出現したといっても、手品でもなんでもなく、
高い塀に囲まれた路地、その塀に設置されたどこぞの裏口から
しれっと、全身鎧が出てきただけである。
カルロスからみて後ろは冒険者たちの死体が転がる広場、
街に戻る道には、この抜き身の剣を持った全身鎧
あれ、なんかいきなり袋のねずみ?
ピンチだな。
そう考えた瞬間、
また後ろからボウガンの矢が飛んでくる。
「にゃぁ! うらあ! なめんな!」
とボウガンの矢をはじくカルロス
その隙に、後ろの全身鎧が距離を詰めて切りつけてくる。
「はっ、 この程度!」
カルロスは、全身鎧の切りつけをかるく避けて、
鎧に手を当てる。
「雷電!」
バチっ!
雷撃が、全身鎧を襲う!
全身鎧は、煙を出して動かなくなる。
同時に、後ろから矢が飛んできて
今度は、矢がカルロスの頭と横っ腹に刺さる。
「がっ!!」
こいつら・・・・
用意周到すぎる・・・
あのドラゴンは、おとり
本命は、このボウガンの暗殺者たち。
ボウガンは威力は高いが連射ができない。
だからこそ、冒険者がバラバラと物流倉庫へ集まるのは愚の骨頂
全身鎧は、素人に毛が生えた程度の腕前だった。
広場で集団同士で戦えば、
タルミッタの冒険者たちの圧勝だろう。
だが、ひとりひとり、ボウガンで各個撃破されてしまえば、、、
この状況、
ギルドに報告せねば、、、、、、、、、、
カルロスはボウガンの方向に向き直ると、
「ロイヤルストレートフラ~ッシュ!」
と叫ぶ
瞬間、ボン っと
一帯が昼間よりも明るくなる。
ボウガンの弓兵に対する目くらましである。
その隙に、街の方向に走る。
ポーションで痛みを誤魔化しながら、
ひたすら走る。
途中、ボウガンの矢が後ろから飛んでくるが、
本格的な追手は来ないようであった。
物流倉庫前の広場、あの場所でバラバラとやってきた
冒険者を狩るのが、奴らの手口、、、
実力の1割も出すこともなく、
ボウガンでの狙撃など卑怯な手段で死んでいった
仲間たちのことを考え
くやし涙を流しながら、カルロスは冒険者ギルドへ走った。




