暗夜行路1 野宿
イソベとアドルフ、そしてエリスはエスタミルの街を急ぎ出発、
農業エリアを越え、森にたどりついた。
「ふぅ、どうやら追手はなさそうだね。
夜に森に入るのは危険だから、今夜はここで野宿するよ。」
「えっ、近くの農家に泊めてもらえないか、交渉しましょうよ!」
「だから、アタシらの逃げ道がハロルドにわかっちゃうだろうが!」
磯部の頬っぺたをツネツネするエリス
「それはそうと、イソベよ、
お前、魔法なんて使えたっけ?」
アドルフが問いかける。
「!?? あれ、確かに・・・・」
今さらの質問にキョトンとする磯部。
磯部はエリス、アドルフからの圧を受けつつ、
魔法を使えないか、確認することにした。
磯部は、
「ステータスオープン!」
「ファイヤー!」
「アルテマ!」
「メラゾーマ!」
「アンリミテッドブレイドワークス!」
呪文を唱えてみたり、いろいろ体を動かしてみたり、
エリスに刀の鞘で殴られたり、いろいろ試したが、何も特殊なスキルはなさそうであった。
磯部は思う、
ひょっとして、これはあれか、
ピンチになったときに特殊能力が発動する、
マンガの主人公にありがちのやつではないか!?
なんか、二重人格で、人格が切り替わったときだけ
めちゃくちゃ強くなるとか、そういう系のやつか?
「ほんとうの意味でピンチになった時だけ、発動できる特殊能力なんじゃないでしょうか?」
磯部はエリスに聞いてみる。
「う~ん、そんな都合のいい能力、聞いたことないけどねぇ・・・」
エリスが白い目で見てくる。
「とはいえ、状況的には、イソベの言う通り
命の危険が迫ったときだけ、発動する特殊能力なんじゃないでしょうか?」
アドルフがちょっとうらやましそうな目で磯部を見る。
「じゃあ、試して・・・・」
エリスが刀を抜こうとする。
「ちょちょちょ!
魔法発動しなかったら、どうするんですか!??」
磯部は慌てて拒絶する。
「そうだよねぇ。
とはいえ、これから魔物が住んでる森を突っ切ろうってんだ。
こちらの戦力を把握しておきたい。
あんたらの戦闘経験をざっくりでいいから教えてくれ」
イソベ Lv.2
職業:発明家
武器:短剣
特殊スキル:異界の知識
アドルフ Lv.3
職業:料理人
武器:包丁
特殊スキル:料理用魔法
エリス Lv.34
職業:戦士
武器:はしゃのつるぎ
特殊スキル:気配感知 肉体強化 魔法耐性Lv.2
※レベルは冒険者基準でエリスが判断
足手まとい2人を連れて
冒険することになりそうだと、イヤな予感が当たったエリスは、
「そういえば、
アタシ、小さいころ薬草を加工する薬屋さんになりたかったんだよね~」
現実逃避を始める。
「ちょっとしっかり!!
エリスさん、現実から目を逸らさないでください!」
磯部が慌てる。
エリスが現実を受け入れるのに30分ほどかかったが、
熟練冒険者だけあって、なんとか心を落ち着かせることができた。
落ち着きを取り戻したエリスにアドルフが質問をする。
「この方向なら、森を突っ切って、
タルミッタに行くつもりだよな。
タルミッタに行くのには、なにか理由があるのか?」
「タルミッタは、途中経過地点だよ。
目的地は、西部、フロンティアさ」
エリスが答える。
「!?フロンティア?
なぜ、、、
確かに、魔物との最前線でもあり、治安維持を冒険者たちが担っているフロンティアなら、、、、
いや、でも逆に冒険者ギルド経由でハロルド陣営にこちらの動きがバレたりしないか?」
「たしかにそうね。
でも、勇者リチャード、勇者コウメイの 消失事件で
冒険者の大半が北方に遠征している。
西部のフロンティアは、もともと王の兵士たち、軍隊もいない。
冒険者たちも出払っているから、フロンティアは現状、軍事力・警察力の空白地帯になっているわ。
がら空きよ。
だからこそ、たとえハロルド陣営にこちらの動きがバレたところで、
冒険者ギルドの指示に応じて、稼働できる冒険者がいない。
もし仮にいても、冒険者同士で争っている場合じゃない、
そう説得することができる。」
「なるほどなぁ。
たしかに、冒険者たちは勇者リチャードの消失事件で
冒険者ギルドから大規模な招集がかかってるからなぁ。
何があったのか、冒険者ギルドの連中、最優先で根こそぎ冒険者を
消失事件の捜査に振り向けたから
あっちやこっちで、大変な騒ぎになってるもんな。
特に、冒険者の護衛が必要な物流がストップして、
いろいろ大変なんだよな」
納得するアドルフ
エリスは思う、
ゴールドマン=ハロルド商会の重鎮であるアドルフですら、
その程度の認識なのだと
勇者リチャードと勇者コウメイの消失事件は
その実、アドルフがいうところの、いろいろ大変、どころの話ではない。
高レベル冒険者のパーティは、少数精鋭、圧倒的に数が少ない。
特に、”勇者”の称号をもつクラスの冒険者など世界に10人もいない。
そのうち、2人が消失した。
このことは、人間側の戦力の大幅減少にほかならない。
この世界での暮らしは、魔物と人間との微妙な均衡の上に成立していた。
人間側が魔物側の領土をじりじりと削る形ではあるものの、
ここ100年ほどは小競り合いのみで大規模な魔物と人間の衝突がなかった。
それが、ここにきて”勇者”の消失など
魔物側に大きな動きがあったと見るべきである。
そうなれば、文字通り人類の存亡をかけた世界大戦になる。
もう、昨日までの日常の生活などとんでもない。
魔物との全面戦争である。
全面戦争の意味するところは、大量の死
ただの人間では魔物にかなわない。
それゆえ、すべての街を防衛することは不可能。
王都や重要拠点のみを残して魔物側に明け渡すことになるだろう。
エスタミルは交通の要衝ゆえに、重要拠点として人間側が確保するだろうが
街の規模は10分の1以下になるだろう。
つまり、エスタミルに住む住人の90%が死ななければならない。
それどころか、”勇者”を倒すことができるレベルの魔物、”魔王”が現れたとしたら、
エスタミルのような大都市ですら、放棄される可能性もある。
王都に冒険者とそのサポートする人間のみが集められ、
それ以外の人間たちを見捨てる、そのような選択すら、現実味を帯びてくる。
いや、実際に冒険者ギルドの参謀本部では、そのようなシナリオも当然のこととして用意しているだろう。
人類の危機を前にして、
エスタミル内部で、貴重な人間側の戦力がつぶし合っている場合ではないのだ。
「あの~ エリスさん?
どうかしたんですか?」
急に沈黙したエリスに対して、
磯部がおそるおそる聞いてくる。
エリスは、明るく切り返す。
「さて、そうと決まれば、
さっそく寝床をつくらなくちゃね!
見張りは3時間で交代するからな。
イソベ、アドルフ、しっかり見張ってくれよな!」




