ハロルドの矜持
ハロルドの行動は矛盾している。
磯部を暗殺したいのであれば、
なぜ、高レベル冒険者のエリスを護衛につけた?
磯部は金の卵を産むガチョウである。
異世界の知識を使えば、もっともっと大きなビジネスをすることができた。
その磯部をなぜ暗殺した?
その謎を解くカギは、ハロルドの矜持にあった。
ハロルドは、合理的な人間である。
合理的な人間でありたい、ロジカルな人間でありたいと、常にそう思っている。
「合理的に生きる」、「ロジカルに生きる」
これはハロルドの信念であった。
「人生において、こうなりたいという目標をさだめ、
その目標を達成するために、合理的な行動を積み重ねる。」
それがハロルドが考える、正しい生き方であった。
ハロルドが持つ手帳には、人生において達成したい
”夢”が書かれていた。
その”夢”に対して、起こすべき行動を
年単位、月単位、日単位で記載していた。
日々、淡々・粛々と手帳に書かれた行動を実施する。
それがハロルドにとっての正しい生き方である。
ハロルドは無神論者であった。
それゆえに、法律や倫理といったものを信じていない。
法律や倫理は、しょせん人が作ったもの。
であれば、同じ人である、ハロルドが状況にあわせて書き換えることは十分に可能である。
俺がその法を認めて行動に落とし込むかどうかは、”俺自身”が決めるべきだ、
ハロルドはそう考えている。
もちろん、法律や倫理は守る。
原則守る。
しかしながら、法律や倫理で行動をしばってしまうのは
不合理的であるとも、ハロルドは考えている。
必要があれば、法や倫理を逸脱することだってかまわない。
ハロルドには、夢を実現するためには、
法や倫理を逸脱することもいとわない覚悟があった。
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ハロルドの夢は、”ハーレム王” だった。
商人としていくらビジネスを成功させて、カネを稼ぐことができても、
武力、すなわち軍事力や権威がなければ、ハーレム王になることは難しい。
カネだけで成り上がれる範囲では、せいぜいが風俗王である。
それでも、イソベと出会う前のハロルドであれば
風俗王で十二分に夢がかなったと満足していただろう。
しかしながら、ハロルドは、既にゴールドマン=ハロルド商会のトップである。
エスタミルNo.1の大商人だ。
欲が出てきた。
ほんとうの意味でのハーレム王になりたいと。
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そのようなときに、エスタミルの太守 アフマドから、
アフマドの娘との縁談を持ちかけれらた。
もっとも、アフマドの娘といっても
法的な関係はアフマドの養子であり、
実質的には愛人であった。
さらに、アフマドは、太守の地位を利用し、身寄りのない町娘をさらっては自身のハーレム
に編入するクソ野郎でもあった。
ハロルドは、そんなクソ野郎アフマドのことを、
ただ単に親ガチャに成功しただけの無能と見下していた。
しかし同時に、とことんうらやましく思っていた。
生まれながらの勝ち組に対する嫉妬である。
磯部がエリスと再会していたタイミングで
ハロルドは、アフマドから、婿養子にならないか?と
甘い誘惑を持ちかけられていた。
もちろんタダではない。
条件は、ゴールドマン=ハロルド商会とドフォーレ商会との合併であった。
エスタミルの武器商人 ドフォーレ商会は、
武器の生産・販売を主な事業としているものの、
おむつから攻城兵器までを取り扱う大企業である。
しかしながら、食品に加え、磯部が発明した繊維機械の売上もあり、
もはやゴールドマン=ハロルド商会の方がドフォーレ商会より、
売上・利益ともに大きな存在になっていた。
特に、ドフォーレ商会はゴールドマン=ハロルド商会が
繊維機械の製作につかった工場を拡張して、
武器製造に進出してくることを警戒していた。
そして、その警戒は当たっていた。
磯部の事業計画には、新兵器”銃”の大量生産も存在していたのである。
仮にドフォーレ商会が何もしなければ、ゴールドマン=ハロルド商会は
革新的な武器”銃”を安価に大量生産するだろう。
武器商人であるドフォーレ商会は倒産し、
ついでに、熟練冒険者たちも失業して、路頭に迷う未来が確定するところであった。
ゴールドマン=ハロルド商会の規模から考えると、
本来なら、ゴールドマン=ハロルド商会がドフォーレ商会を
子会社にする形が自然である。
しかしながら、アフマドの話では、
対等合併を装いつつも、事実上ゴールドマン=ハロルド商会を
ドフォーレ商会の支配下に組み込むことが計画されていた。
当然、ゴールドマン=ハロルド商会の重鎮たちは反対するだろう。
創業メンバーである磯部とアドルフが反対すれば、
株主総会で、反対多数でドフォーレ商会との合併は否決されてしまう。
磯部とアドルフを、ハーレムのプラチナメンバーにすることを条件に
買収したとしても、ドフォーレ商会への身売りはあきらかな不正義である。
他の役員メンバーから正面切って反対されれば、
意志の弱い磯部やアドルフは、説得されてしまいそうである。
そこでクソ野郎 アフマドから提案されたのが
磯部とアドルフの暗殺計画であった。
「ぐへへへ・・・・・
まずな、イソベとアドルフが亡き者になれば、単純に株式総会においてあいつらの票が入らない。
棄権扱いになる。
そうしたら、ハロルドの旦那の票だけで、ドフォーレ商会との合併が可能になりまっせ。」
汚くかつ、下品に笑うアフマド。
ハロルドは、にこやかにかつクールに切りかえす。
「それだけじゃないでしょう?
もし仮に、イソベとアドルフが死亡となれば、
身寄りのない彼らの財産はどうなりますか?
いったんは宙に浮いてしまうものの、
最終的には、エスタミルの太守、アフマドさまのモノになるのではないでしょうか?」
「あちゃ~
さすがは、ハロルドの旦那!
すべてお見通しでんな~
そう、ワシら太守は軍事力は持っていても、カネは正直もっておらん。
借金の利息支払がキツイこともあって、イソベとアドルフの莫大な資産は
正直、魅力でしかないわけよ」
わざとらしく、大げさに驚くアフマド
ハロルドは、
そりゃお前らが、豪華な宴会とか、だだっ広い豪邸とか
バカ高い珍味とか、珍しい花とか、ヘンテコな服とか
ゴミにカネを湯水のように使っているからだろうが!
と内心ツッコむ
ここで、ニヤニヤふざけていたアフマドが急に笑顔を消した。
目つきがカミソリのように鋭くなる。
「ハロルドの旦那も、わかってると思うが、
この世界は不公平だ。
いや、むしろ不公平だからこそ、ワシら上級国民がおいしい思いができるのじゃ。」
「ワシら上級国民がおいしい思いをするためには、
搾取される側の人民が必要不可欠なんじゃ。
誰かの利益は誰かの不利益
世界には、もちろんウィンウィンの関係というものも存在する。
がっ!、その一方でっ!、ゼロサムゲーム の側面が世界の大半に存在する。
これは厳然たる事実!
そう、ハロルドの旦那には、ワシら上級国民の仲間になってもらいたんじゃ。
いっしょにおいしい思いをしてほしいんじゃよ。
優秀な人間には、それくらいの報いはあってしかるべきなんじゃよ!」
アフマドが情熱をこめて、心からの信念を語る。
ハロルドは思う。
知ってはいたが、こいつはゴミだ。
クソ野郎だ。
しかしながら、、、、
しかしながら、、、、
ヤツがいうこともまた事実である。
ハロルドは、迷う。
もし仮に、ここでアフマドの申し出を断った場合、
イソベとアドルフに用意された暗殺者が、ハロルド自身に差し向けられるだろう。
もちろん、ハロルドの優秀さをもってすれば、
アフマドに一時的に従ったフリをして
あとで出し抜くことも十分可能だった。
しかしながら、ハロルドは考える。
自分自身の夢を・・・・
自分自身の矜持を・・・・
俺は、俺に対して
俺の信念に対して、胸を張って誇れる行動をしなければならない。
夢は、語るだけじゃダメなんだ
現実の行動に落とし込まないと意味ないんだ。
おれの夢、”ハーレム王”に近づくためには、
ここでクソ野郎の提案を受け入れるのか、
それとも受け入れたフリをして、あとで出し抜くのか
どちらがよいか・・・・・
残念ながら、どう考えても
アフマドたち上級国民の仲間入りをした方が
夢の実現に近づきそうであった。
ハロルドは合理的な人間であれ!と
自分自身の矜持に従って
磯部とアドルフを裏切る選択を決めた。
「ぐへへへ~~
そうかそうか、
いや、ハロルドの旦那なら、そういってくれると思ってましたぜ。
イソベとアドルフの始末は、こちらでやっておくので、
ハロルドの旦那は、ドフォーレ商会との合併について
ドフォーレの役員たちとお話くださいな。
さあさあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




