大規模養鶏場 ”ブロイラー”
磯部が異世界に転生してから、1カ月が過ぎた。
卵かけごはんは、エスタミルで大流行となった。
どこの店でも、売り切れ続出、売り出しがあれば長い行列ができる。
その長い行列をみて興味を持った住人が、また卵かけごはんを食べたがる現象が発生し、
いまや卵かけごはんは、伝説の幻の料理と化した。
コメは南国から大量に輸入できるから、供給のボトルネックは鶏卵であった。
磯部たちは、鶏卵の供給を十分に確保するため、大規模養鶏場の建設に乗り出した。
磯部は、商人ギルドの開発チームと、ニワトリ用の自動エサ供給マシンの開発について、打ち合わせを行っていた。
商人ギルドには、冒険者たちの装備・武器や鎧、そして魔道具を開発・生産するための開発部というチームが存在した。
ハロルドが開発部を、カネとパフパフ屋とギルド長の弱みを駆使して、自由に使えるようにしてくれたのである。
磯部が、開発チームに説明を行う。
「では、もう一度説明しますね。
我々の目的は、大量の鶏卵を安価に効率よく大量に生産することです。
そのために、大規模養鶏場 ”ブロイラー”を建設します。
このブロイラーでは、ニワトリを羽根を十分に広げることができないくらい狭い檻に閉じ込めます。
その狭い檻には、給水機と自動エサ供給マシンが設置されており、ニワトリは一日中メシを食ってタマゴを産むだけの存在となります。」
「自動エサ供給マシンは、ビール瓶をさかさまにしてビールの飲み口をドンブリに突っ込んだような形状にします。
素材は、ガラスビンではなくプラスチック・・・はないので、木の骨組みと布を組み合わせて作成します。
細くした口をドンブリに突っ込むことで、粒状のエサ同士の摩擦力がはたらいて、一定の高さ以上にはならない。
エサの重力とエサ同志の摩擦力が釣り合う状態になります。
こうすることで、ドンブリのエサがなくなれば、ビール瓶のなかに入っているエサが重力で、自動的に落ちてくる仕組みが完成します。
このビール瓶の底は開閉可能になっていて、上からエサを補給できるようになっています。
つまり、ニワトリがエサを食べるとその重力でエサが自動的に降りてくる装置が完成します。」
開発ギルドの発明家、ルッカがブロイラーに対して意見を述べる
「そんな、、、ニワトリがかわいそうじゃないですか・・・?
生まれた時から羽根を広げることもできない、狭い檻に閉じ込められて、ただひたすらエサを食べ
ただひたすらにタマゴを産むだけなんて、 彼らは何のために生まれてきたんですか?」
磯部は、なんとなく反感を覚えた。
何のために生まれてきたのか?だって?
そんなの、俺が聞きたいわ!
幼いころから学校という名のケージに閉じ込められて、勉強勉強、受験受験とせっつかれ
大学に入れば就職のプレッシャーにビクビクして、
就職して会社に入れば、日々の業務に忙殺される。
公式な娯楽はたくさん用意されているものの、いまいち俺にはしっくりこなかった。
しっくりくるのはゲームとか、アニメとか受動的なものばかりだ。
休日は、自宅という名の狭いケージに閉じ込められて
ただ、ひたすらに”社会”のために奉仕する歯車みたいな存在だ。
タマゴを産むためだけに存在するニワトリとどこが違う?
世の中にはキレイごとをいう奴らがたくさんいたが、
どうしても、彼らのいうことをどうしても理解できなかった。
生まれてきた意味など、理解できなかった。
ただ、自分自身が必要とされているのは理解できた。
税金を払う人間が必要だからな・・・・・
磯部は、税金を払うために、社会に必要とされることを素直に喜ぶことが、どうしてもできなかった。
「ルッカさん、何のためって言われても、、、、
彼らはタマゴを産むために生まれてきたに決まってるじゃありませんか?」
「そういうことをいってるんじゃありません!
そんな道具みたいに消費されるだけの生き物なんて悲しすぎます。
だったら、生まれてこないほうがよかったんじゃないですか??」
「ルッカさん、あなたの言う通りです。
彼らは狭い檻に閉じ込められて、羽根を広げることもできず、
ただひたすら、エサを食い、タマゴを産み、最終的には食肉加工されてしまいます。
こんなの、生まれてこないほうがいいに決まっている。
でもね、生まれてきちゃったんですよ・・・・
人生は、生き物は、世界というやつはあなたが信じているほど、希望に満ちたものではありません
そうですね、想像してください。
エスタミルのエリート官僚の子供を、
彼らエリートは、学問を究めるために幼い時から家庭教師について
ひたすら勉強をするそうですよ。」
「知ってます・・・」
「今は、エリートだけですが、
もし仮に、そうですね・・・
子供には無料で、勉強をする機会が国王から提供されて、その試験の結果で、エリート官僚になれるとしたら、どうなりますか?」
「え? そりゃ、みんなが子供を勉強させてエリート官僚になる
その試験を受けるんじゃないですか?
すごく幸せな社会!」
「そうなると、子供たちは生まれてからずっと狭い檻に閉じ込められて、やりたいこともできず。
机にしがみついて、ひたすら勉強することになりまね。」
「え?でも、がんばったら報われるんですよね?
だったら、問題ないじゃないですか?」
「なぜ、報われると勘違いするのですか?
エリート官僚なんて、そんなたくさんいらないですよ?
つまり、がんばり損になるわけですよ。
話がややこしくなるのは、ここからです。
いいですか?
必ず、国王から提供される無料の勉強にくわえて、家庭教師や塾などにより
すこし余分に勉強させることできれば、エリート官僚試験で勝つことができる。
そのように考え、抜け駆けしようとする人間がでてきます。
こうして、”勉強”を与えるかわりに、カネをもらう”受験産業”というものが発生します。
すると、この”受験産業”は、”がんばっても報われない” という情報を隠すようになります。
エリート官僚になれば、人生安泰!
今が頑張り時!ってね。
そうすると、、、、、、、、、、」
と、ここで、磯部の独白に耐えかねたハロルドが介入する
「はいはい、もう
まだ存在していないブロイラーを前提に、
ニワトリの幸福論を議論するのはやめてもらってっと。
うちらは、まずブロイラーを作ることが必要だ。
現実問題として、鶏卵が足らなくて、エスタミルの料理屋さんに行列ができている。
君たちには、かれらの貴重な人生を、時間を奪っている自覚はあるのかい?
さあ、とっとと作業を進める!
ルッカくんも、世の中のことはもっと大人になればわかるから!」
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大規模養鶏場”ブロイラー”のコンセプトは、商人ギルドが依頼したニワトリコンサルタントが太鼓判を押したこともあり、
アドルフ・ハロルド・イソベ の商会と商人ギルドの折半で出資して、大規模に建設していくことが決定した。




