フランチャイズ
午前0時、最後の冒険者が帰ったあと、
磯部と食堂のオヤジ、アドルフが会話している。
「お疲れ様だったな、イソベ! 予想通り、イソベ丼は大好評だったな。
イソベ丼は、この店の名物になる。
いやはや、この店の大きさだけじゃ、さばけないな~」
アドルフが上機嫌で話しかけてくる。
「・・・ありがとうございます。」
「どうしたんだ、浮かない顔だな?
もっと喜べよ! なんで張本人のお前がそんなにテンション低いんだ?」
磯部は、生まれつきネガティブであった。
「いえ、あの、、今日はイソベ丼が早々に売り切れてしまいました。
なので、せっかく来てくれたお客さんが、
イソベ丼を食べれずに帰ってしまう機会損失が発生しちゃいました。」
「いや、そんなの近所だし、また食べにくるだろ?」
「それだけじゃありません。
確かに、3回目くらいまではおいしく食べに来てくれるかもしれませんが、
いずれイソベ丼も飽きられてしまいます。
そして、なによりイソベ丼の弱点は、簡単に作れること。
だれでも簡単にマネできるということです」
「確かにな、イソベ丼は、ごはんに新鮮な卵としょうゆを足すだけだからな。」
「店主、イソベ丼をいくらで販売したのですか?」
「2000ギルだ。
最初は5000ギルにしたかったが、手の込んだ料理じゃないし、
だれでも簡単につくれることはすぐにわかるからな。」
「・・・・・・店主、いますべきことは、コメの買い占めです。
現状、この国ではコメを作っていません。
コメは輸入品ですので、輸入ルートを抑えましょう。
コメが実は安く手に入ることがわからなければ、
イソベ丼の価格が安いのか高いのか消費者はわかりません。」
「!?そうだな。
お前は天才かよ!
明日さっそく商人ギルドにいって、コメの輸入独占権を売ってもらうことにしよう」
「輸入独占権って、そんなに簡単に、買えるものなのですか?」
「ああ、商人ギルドの知り合いが担当しているからな、そいつに金を握らせれば十分だろう。
大丈夫、いっしょにエイチな店に行く仲間だから、多めに金を渡しておくさ。
いや、たとえ家一軒買えるくらいの賄賂を渡したとしても、
イソベ丼で十分もとが取れるだろう。」
まぁ、見た感じ中世って感じだったし、
ワイロや個人的なつながりがものをいう世界なのだろう。
磯部のいたニッポンの倫理感では、ワイロはよくないこととされていたが、
郷に入っては郷に従え。
いまは、クソ役に立たない正義感などどうてもいい。
アドルフのコネで、コメの輸入独占権がもらえるなら、こんなにありがたいことはない!
「輸入独占権だけでは、すぐにこの国でもコメを作るようになると思います。
もちろん、この国でのコメ作りまで数年かかるでしょう。
その間に、イソベ丼で素早くカネを稼ぐ必要があります。」
「なんと!?、、いや、確かにそうだな。
イソベ丼の利益を考えると、輸入する代わりにこの国でコメを栽培する奴が出てくるだろう。」
「その通りです、店主。
なので、これからは時間との闘いです。
できる限り素早く、イソベ丼を販売する2号店、3号店をつくって、
イソベ丼を売って売って売りまくるのです。
その売り上げで、4号店、5号店を出して・・・・という形で迅速に出店すべきです。」
「え、、、いやイソベ丼が儲かるのはわかるが、、、しかし、そんなに簡単に店を出店できねぇよ。
店を出すって大変なんだぞ。
そもそも、俺だって宿屋の1階を間借りして食堂やってるんだ。
店を用意したとしても、人はどうするんだ。 俺とイソベしかいねぇじゃねえか?
2人で管理できる店なんて、休みなく働いたとして2店舗が限度じゃねぇか」
磯部は、思う。
あぁ、自分はこの時のためにすきすき屋で20年間働いてきたのだ。
ここが人生の正念場!
ここが、ニッポン男子 磯部 真一の関ヶ原なのだ!
大和魂を見せろ!
やる、やる、やるしかない!
かつてないくらいに、磯部のテンションが上がる。
「店主、フランチャイズ方式を採用しましょう!」
「ふらんちゃいず?」
「店主、この街に飲食店、食べ物を提供するお店はどのくらいありますか?」
「う~ん、たくさん・・ この近所だけで10軒以上はあるぞ。
エスタミルの街だけで100軒以上
道ばたの屋台とかを加えたら、もっとあるだろう。」
「店主、この飲食店たちに、卵かけご飯、、イソベ丼を作ってもらうのです。
我々はイソベ丼をつくるノウハウを提供する対価としてお金をもらいます」
「いや、対価て、、、、、
そんなの払わないだろう。 ノウハウっていっても、そんなの見たらわかるやん。」
磯部は苦笑する。
「そうですね。。
その通り。だからこそ、我々は原材料、卵とコメを抑えるべきなのです。
我々は、エスタミルの街の飲食店、100軒以上にイソベ丼を広める。
イソベ丼は確かに、誰でも簡単につくることができる。
しかし、イソベ丼を作るために必要なコメと卵の供給は我々が握っています。
卵は自給可能かもしれませんが、コメは輸入独占権をとった我々にしか供給できません。
当然、割高に買ってもらいます」
アドルフは、少しビビった顔をしている。
アドルフは、イソベを甘く見ていた。
頼りない雑魚だと思っていたが、どうやら、こいつはものすごく知恵が回る。
まるで、悪魔のようだ。
「わ、わかった。
確かにそうだな。」
「はい、そして卵についても、大量に安価に生産する方法があります。
ブロイラーという、大量のニワトリを巨大な建屋に敷き詰めて、
ひたすら卵を産ますという方法があります。
今日農家をみたところ、ニワトリの飼育は、家の中や軒下で放し飼いにしている状態です。
たしかに、ニワトリはのびのび育つことができそうですが、
鶏卵の生産効率があまりよくありません。」
「ぶらいらー?」
「あ、すいません。
ブロイラーの話はまたあとで。いま急いでやるべきはコメの輸入独占権の獲得です。」
「お、おう、、、」
アドルフは、磯部の勢いに若干飲まれている。
「商人ギルドが開くのは何時ですか?」
「う~ん、あいつら早起きだから7時ころにくるんじゃないか?
でも、俺の知り合いのハロルドが来るのは10時ごろだろう」
「わかりました!では、9時ごろに出発しましょう!」
「え、あんまり寝る時間がなくない?」
「今、午前2時です。
5時間以上寝れますよ!」
「お、おう、、、」
あれ、こいつこんな情熱的なキャラだっけ?
ずいぶんの人が変わってないか?
躁うつ病じゃなかろうか?
アドルフは、いずれ自分の店を持つことが夢だった。
一国一城の主、食堂 ”アドルフおじさんの店” を開くために、嫁ももらわず日々働いては貯金してきた。
アドルフは、少し混乱しながらも、
予想以上に大きなチャンスが巡ってきてることを感じていた。




