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せいぜい今を楽しんだら?最後は地獄行きなんだし

作者: 一色 良薬

「先輩大丈夫ですか? 今日も神崎主任に捕まっていましたけど」

 後輩である柏木の無遠慮で無神経な、可愛い囀りが田中森さんに投げられた。

 どこか楽しげな雰囲気さえも匂わせる柏木の振る舞いに、見ていたんだったら助けろよと指摘したくなる。

 が、そんな資格がないことを俺は──このフロアで働いている人間はよく理解していた。

 神崎主任は誰もが関わりたくないと目を背けるほどに厄介だ。

 道端に吐き捨てられたガムが、靴底に貼りついてとれないほどの粘着質を連想させる性格。

 自分より弱いと認識した人間、特に女性に対しての凄まじい絡みつき方は「よくクビにならないよな」と同性でもドン引きするほどの気色悪さ。

 けれど誰も注意せず、ただ息を潜めている。

 蛇に立ち向かって無残に食いつぶされた人の末路をみんな知っているからだ。

 次の藪蛇になりたくない。

 俺だけじゃなくみんなが保身のため、神崎主任を黙殺している。

 蛇の執念のような上司の標的になるのはいつも田中森さんだ。

 彼女は普段から良く言えばへらりと笑っていて、悪く言えばおちゃらけている。

 悩みなど一つもないという溌剌とした性格で、しかしどこかツメの甘いミスをやらかすのが格好の餌食だった。

 能天気な馬鹿だと罵倒され、女性であることを理由に卑猥さをぶつけられ、小さなミスを取り上げられては無能だと烙印を押される。

 それでも彼女はへらへら笑い「いやぁすみません」と頭を掻くだけだった。

 それがまた専属サンドバッグへと拍車をかけていった。

 しかし五年も経つが一向に精神が擦り減る様子がない。鉄壁の笑顔が崩れる様子さえも窺えない。

 高みの見物の柏木の悪意に満ちた問いかけが、本心を暴く気がして俺は耳を澄ませた。

「見られちったか。あはは、大丈夫だよ」

「えぇ、本当に? 実際のところはどうなんです?」

 両手を重ねて私にだけお願い、といった振る舞いで柏木が問いかけた。

「せいぜい今を楽しんだら? 最後はみんな地獄行きなんだし」

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