愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜 寝言で語られた真実
「ハルジの奴がマジで惚気てきやがる」
帰宅するなりレガルドが菫にそう告げた。
「え?」
「ミルルちゃんの作る飯が旨いとかふとした時に歌っているハナ歌が可愛いとか、挙げ句の果てに寝言まで可愛いときたもんだ」
「まぁふふふ。幸せそうで何よりだわ」
「しかしまさか寝言でも惚気られるとは思わなかったなぁ」
と、そんな話を夫婦でしてから三月後に突然ハルジオがリー家を訪れた。
終業後に地方局から直接、転移魔法で。
まずハルジオは蕾にぷっくり金魚のぬいぐるみのお土産を渡し、楓を抱っこして「可愛いなぁ」と乳児独特の柔らかい匂いに癒されてから、
レガルドと菫に相談として話し出したのだ。
「結婚する前から、何度かお義母さんにミルルの寝言が凄いと聞かされていたんだ」
「寝言が凄い?」
「その日あった印象深い事や思い悩んでいる事を全て寝言として語るんだ。滑舌よく、ペラペラと」
「へぇ……」
菫は何かを察してハルジオに訊ねた。
「……寝言で……何か言われたのね。それがとてもショックな事だった……」
「ああ……」
ハルジオはがっくりと項垂れた。
少し前まであんなに幸せそうに新婚生活を惚気ていたというのに、この変わり様はどうした事だ。
「菫、お茶のお代わりはいいから酒の支度をしてくれ。悪いな」
「ううん。すぐにするわね」
レガルドはハルジオに酒を勧めた。
アルコールで気持ちを和らげるのが目的だ。
この男、普段がなまじ優秀なものだから人に頼る、悩みを打ち明ける、という行為に慣れていないのである。
ハルジオはレガルドに勧められるまま盃を傾けた。
そして語り出す。
ミルルが隠れて避妊薬を服用している事を寝言で懺悔した事を。
まさかと思ったが本当に薬瓶が見つかり、それを調べると確かに避妊薬であったというのだ。
そして寝言では、2年後に離婚してハルジオを解放すると言ったそうだ。
「これがその避妊薬と同じものだ」
ハルジオはそう言ってことり、とテーブルの上に薬瓶を置いた。
「何故ミルルがこんな事をしているのかがわからない。本当は俺との結婚が嫌だったのだろうか」
「本人に直接訊かないのか?」
レガルドがそう言うとハルジオは特大級のため息を吐いた。
「ミルルはいい加減な思いで結婚するような人じゃない。きっと訳があるはずなんだ、それがわかるまでは……」
ハルジオは手で顔を覆った。
「……こんなオッサンと結婚した事を後悔されてたらどうしよう……とりあえず、心の準備をさせて欲しい……」
「お前、本当にハルジオ=バイスか?」
いつものハルジオらしくない発言にレガルドは目を丸くした。
遅れてやってきた本当の初恋に翻弄されている……。
その後もレガルドは酒を呑み交わしながら、ハルジオの愚痴を聞いていた。
菫は台所で何やら作っている。
やがてハルジオがリー家を辞する時、菫がハルジオにある物を手渡した。
先ほどハルジオがテーブルに置いた薬瓶だった。
「ごめんなさい、勝手に中身を変えさせて貰ったの。避妊薬は副作用もあると聞いているわ。出来ればやめた方がいいと思うの。でもまだ話し合える段階ではないのなら……中身をすり替えておけばいいと思って……」
薬瓶の中に持参した避妊薬と全く同じように見える物が入っていた。
「これは?」
「お砂糖で作った砂糖菓子よ。薬に似せて作ってみたの。勝手な事をしてごめんなさい」
「いや……スミレさん、ありがとう。心から感謝するよ」
「ミルルさんの本当の目的がわかればいいですね」
「そうだね、もう少し待ってみるよ」
「まぁ頑張れハルジ。協力出来る事ならなんでもするからさ」
「ああ、ありがとう」
そう言ってハルジオは愛する新妻の待つ家へと帰って行った。
その後、ハルジオは寝言尋問をするという暴挙に出て、ようやくミルルの本心が知れたらしい。
ミルルはハルジオが責任を取るために結婚したと思っており、
そしてハルジオは未だに元恋人のリッカを愛していると勘違いしているというのだ。
そしてリッカが本省から地方局に出世して戻って来たら、ハルジオの幸せのために離婚して身を引こうと考えているのだそうだ。
ハルジオはレガルドに協力を要請した。
これからミルルが色々と起こすであろう行動の全てを把握するために、特務課の情報収集の権限で色々と調べて欲しいというものであった。
かつて菫を保護してくれた恩に報いるために、レガルドはこれを承諾したのであった。
これによりコードネーム“カワイコチャン”の
囲い込み作戦が始まった。




