愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜 新若君誕生!
証人の証人警護という形で特務課も関わった今回の事件。
レガルドが証人とその侍女を#とても安全な安全な場所で匿っている間に犯人を逮捕するに至った。
ノリス家の屋敷にて雨のように降り止まない魔術干渉を受けたレガルド自身の見立てから犯人は最低でも二人いると推測。
交代で目標を狙った魔術を展開し続けたのは、魔法者がいずれ見せるであろう一瞬の隙をいつでも突けるようにする為だろう。
何がなんでも証人を始末したかったらしい。
遠隔から魔術を仕掛け続けるという、魔力量以外は大した策ではないこの方法。
魔力を飛ばすという事は、そこに必ず残滓が残る。
そして特務課にはアンセルが開発した魔力残滓を染めるカラースプレーという秘密道具がある。
そこでノリス家の全方角にカラースプレーを噴霧。
着色された残滓が見つかればビンゴ。
その残滓を染め続けて、犯人の居場所を辿ればいいというわけだ。
かなりの高魔力保持者と見られる犯人が最低でも二人以上。
レガルドは余程の事がない限り、家から出て来ないだろう。
特務課長ウォーレンがため息を吐いて言った。
「仕方ない、久々に現場に出るか……。桐生、援護を頼むよ」
「えーー……面倒くさいですなぁ……と、言いつつもちゃんと課長のサポートをして見事、犯人を逮捕出来たのですよって若、聞いてます?」
犯人逮捕に至った顛末を報告しにリー家に来た桐生がレガルドに言った。
レガルドは膝に乗せた蕾のお菓子で汚れたお口を拭いてあげている。
「聞いてるぞ、まぁご苦労だったな。んで?犯人はどんな奴だった?」
「その前にお姫様…今日は主水之介の膝には来て下さらんのか……」
父親の膝の上から動かない蕾を見て、桐生はガックリと項垂れた。
そんな桐生をレガルドがジト目で見る。
「阿呆ぅ、俺がいるのにそんな事をさせるわけがないだろう」
「若、もう一度どっかに行ってくださいよ」
「お前も亥羅守んとこに飛ばしてやろうか」
いつも通り仲良くいがみ合う二人に、菫はお茶を差し出した。
「それで犯人は?」
菫が改めて訊ねると、桐生は続きを話し出した。
「それがですね、犯人は一番最初に殺害された魔力継承を受ける筈だった被害者の双子の兄弟だったんですよ」
「え?それじゃあ被害者の方はご自身の弟二人に殺されたという事なの?」
「そうなんですよ。兄だけが魔力を継承するのが気に入らないとか言って……その双子の兄弟は魔術師で、まぁそりゃあ魔力なんていくらでも欲しいと思うんでしょうねぇ」
「でもだからと言って家族を殺すなんて……」
兄妹仲が良く、二人の兄に溺愛されて成長した菫にはとても信じられない事であった。
「家族だからこそ遠慮や配慮や理性、そう言ったものが欠落するのかもしれないな」
家族関係には苦労したレガルドがそう言う。
「そうね……」
「殺害の危機が去ったので、お亥羅様の異界から連れ戻された証人のノリス子爵令嬢から無事に記憶念写も取れ、犯人を裏付ける証拠品としての提出も出来ました。これにて特務課の仕事は終わりという事ですよ。後は捜査一課だけで大丈夫でしょう」
「それで……ノリス子爵令嬢と侍女の方はお元気にされているの?」
菫がそう訊ねると、それにはレガルドが答えた。
「亥羅守の世界がかなり刺激的だったらしいぞ?大人しくしてろって言ったのに、下手に騒いで何度か眷属獣に喰われかけたそうだ。阿呆だな」
「そんなレガルド様ったら……」
「まぁ向こうでの刺激が良かったんでしょうね?直ぐに記憶が呼び覚まされたらしいですよ?まぁ今もうわ言のようにイノシシ怖い、イノシシ怖い……と言い続けているそうですが」
「まぁ……」
リエンヌとカーラは異界での体験がトラウマになっているらしく、しばらく小さな物音にさえも怯えていたという。
近頃はだいぶ落ち着いてきたらしいが……。
そして価値観も変わったらしく、高慢で独りよがりな思い込みは改善されているらしい。
捜査にも協力的だそうだ。
と、いう訳でリー家をも巻き込んだ一連の事件はこれで漸く収束を迎えた。
そしてそれから数ヶ月後に、
菫は第二子となる男児を出産した。
菫が産気付いた事をアパートの大家であるミス・ポワンフルから知らせを受けたレガルドは「たった今から有給とりますからね!」と言って、文字通り飛んで帰った。
二人目という事もあり菫のお産はあれよあれよと進み、そしてあっという間に玉のような男の子を産み落としたのだ。
レガルド譲りの黒髪に紺碧の瞳。
だけど面立ちは菫にそっくりという可愛らしい男の子。
桐生が「新若君の誕生だ!」と叫んだらしい。
レガルドは長男となるその子に“楓”と名付けた。




