愛しい日々をあなたに 〜魔法省特務課の事件簿〜 呪いの笑い人間
新章ですよろしくお願いします!
アデリオール王国には魔法省という魔法や魔術全般を統括する組織がある。
二十年前に当時の国王の肝入りで設立された国王直轄の、言わば魔法の司法行政を担う機関だ。
魔法省のトップは魔法大臣。(副大臣はいない)
続いてその補佐官達。
各地方局の局長と副局長。
そして部長、課長と続く。
魔法省の地方局はアデリオール各地にあり、その中で各部署や課もそれぞれあれど、本省にしかない特別な課がある。
それが検務部特務課である。
検務部は魔法魔術関連の事件の捜査や調査、そして犯人の捕縛等を担当している。
その中でもかなり特殊な案件や凶悪な魔法魔術事件を取り扱うのが特務課なのである。
高魔力保持者の犯人や複雑な魔術が絡む事件を担当するため、当然特務課に配属される人材は実力者ばかり。
しかしどこの国でもいつの世も魔力が高かったり特殊な能力を持つ者は兎角変な人間が多いもの。
斯くいう特務課にも秀逸な変人が集まっている訳なのである。
では特務課の良心、特務課の最後の砦と呼ばれる李亥菫以外のその変人たちを紹介しよう。
まずは特務課の長。
特務課長のウォーレン=アバウト(37)
いつも飄々と掴みどころのない、緊張感とは無縁の男。
上官に対してもこの調子なので上の者からは睨まれやすい。
しかし抜きん出た魔力の高さと普段の様子からは想像がつかないほど頭がキレる。その実力を以て上からの圧力を撥ね退けている。
続いて変身魔法が得意なトミー=コーディ(25)
痩身で小柄、そして物腰が柔らかい青年。
とにかく変身するのが大好きでいつも何かしら別の生き物に変身している。
物量の違うものにも変身出来、一度ハエに変身した時はミーガン女史に叩き落とされそうになったという逸話付きである。
ではその、今まで特務課の紅一点であった
ミーガン=アダムス(30)
暗号解読や古代文字翻訳のスペシャリスト。
男が大嫌いで喋るのも嫌らしい。
いつもスケッチブックを持ち歩き、魔術で文字を一瞬で浮かび上がらせ、筆談で会話する。
でも菫が特務課に来てからは、菫を介して話をするようにもなった。
サラサラの直毛のおかっぱ頭がトレードマーク。
それから荒事担当の戦闘職員、
フランキー=リュドヴィック(27)
ムキムキマッチョなパワータイプ……だが、繊細で可愛いもの好き。
待機中や休憩時間中はレース編みをしている。
オネェではないが乙女系男子だ。
菫の手芸仲間でもある。
魔術や魔法薬の分析のスペシャリスト、
アンセル=ビゴー(35)
ちょっと発言がヤバいマッドサイエンティストタイプの人間。
毒物関連の魔法薬となると目の色を変える。
笑い方が「オヒョ、オヒョ」と不気味。
ご存知準職員だが正規職員並みにこき使われる、桐生主水之介(25)
気配を消す能力に特化しているため追尾要員として重宝される。
必要以上には喋らないが、口を開くと辛辣な言葉がつらつらと出てくる。
そしてレガルド=リー(20)
魔術騎士と同等のオールマイティタイプ。
愛刀の露一文字を腰に差し、主にフランキーや桐生と共に戦闘職員として任務に就く。
以上、その彼らのサポートや細々とした雑務や事務。そして主に課長であるウォーレンの世話係を勤める菫を合わせ、特務課は計八名で構成されている。
◇
◇
◇
◇
「え?ハルジオさんが地方局に異動になるの?」
レガルドから知らされた突然の異動に菫は驚いた。
「そうなんだよ。地方局で退職者が重なって、ハルジやリッカやその他数名の職員が異動になった」
夕食後に食器の片付けを二人でしている時にレガルドが言った。
「リッカさんって、学生時代からお付き合いしているというハルジオさんの恋人よね?」
「そうそう。まぁこの頃はあんまり会ってないようだけどな。でもどっちも忙しそうだから、決着を付けねえで形だけずるずるといきそうなんだよなぁ」
「そうなのね……でも寂しいわ、ハルジオさんが本省からもこのアパートからも居なくなるのなんて」
「同じ国内なんだから転移魔法で一瞬だよ」
「そうなんだけど……随分とお世話になったし、やっぱり寂しいわ……きゃっ!?」
菫はいきなり横抱きにされ驚いた。
「レガルド様っ?」
「いくらハルジが相手でも気に入らねぇな、菫が他の男の事を考えるのは。罰として一緒に風呂に入ろう」
「ええっ?嫌よ、なかなか上がらせて貰えないんだもの、逆上せてしまうわ」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないわ?明日もお仕事なのよ?」
「大丈夫大丈夫一回だけ一回だけ」
「何が一回だけなの?レガルド様?」
「大丈夫大丈夫二回だけ二回だけ」
「大変レガルド様、数が増えてるわ」
「大丈夫大丈夫」
結局この日菫は愛しの旦那様にお風呂で散々翻弄されましたとさ☆
そしてハルジオはその明くる月に、魔法省の地方局へと異動していった。
その地で数年後ハルジオに運命の出会いがあるとは、この時の菫やレガルドには知る由もなかった。