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そして始まるあなたとの物語

レガルドとハルジオが魔法省に入省してひと月が経った。



ハルジオは検務部捜査一課、そしてレガルドは言うまでもなく検務部特務課だ。

そう。菫と同じ。


長身でイケメン、しかも高官候補。

そんな二人が魔法省の女性たちの注目を掻っ攫うのはあっという間であった。



「それでどうなのスミレ、結婚生活は順調?」


“経理部の良心”と呼ばれるシンディ=ロミス改めシンディ=ルワンが菫に訊いてきた。

菫はふんわりと笑顔で答える。


「はいおかげさまで。私が元々借りていたアパートの一室でそのまま一緒に住む事になったので、劇的に何かが変わった気はしないのですけど」


特務課の皆から預かった領収書を経理に持って来た菫がそう答えた。


以前、緑色の髪の女性職員に嫌味を言われた時にこのシンディが追い払ってくれて以来、菫は魔法省で出来た最初の友人としてこのシンディと仲良くして貰っている。


レガルドが来る前は一緒にランチしたり、仕事帰りにカフェに立ち寄ったり。


シンディ自身も最近、総務の男性職員と結婚したばかりで新婚仲間ともなった。



「でも結婚式はホントに挙げないの?故郷に帰ってとかさ。そのくらいの休暇なら取れるはずよ?」


「お式を挙げるつもりはないんです。ちょっと互いの家が複雑で……でも、アパートの大家さんがお祝いパーティーを開いてくれて、もうそれで充分なんです」


菫にもレガルドにも式を挙げて晴れ姿を見せたい親はもういない。

(レガルドの父は健在だが、心を病んで入院治療中だ)


それに今はまだお家の再興に奔走している兄達をわざわざアデリオールまで呼び付けるのも気が引ける。


ならば無理して挙式する必要もないと、レガルドと二人でそう決めたのだ。


大切なのは新たな人生を共に踏み出す事。


互いに相手を想う気持ちがあるならばそれでいいのだ。


まぁレガルドは、

「でも菫の白無垢姿は見たいな。白無垢だけは買って菫に着て貰うか♪」と言ったが。

一度しか着ないものに、しかもそんな高価なものにお金を使うのは勿体無いと菫は丁寧にお断りしておいた。


という訳で式は挙げずに入籍届けのみを役所に提出し、二人はすんなりと夫婦になった。


そんな簡単な手続きで済んだのもレガルドが母親の出身国であるアデリオール国籍も持っていたおかげだろう。

東和でもアデリオールでも、他国間同士の婚姻で生まれた子はそれぞれの国籍を持つ事を許されている。

なので菫も今やアデリオールの国籍を持つ身だ。


だが籍を入れて人妻となった菫が魔法省で働き続ける事をレガルドは最初は良しとしなかった。


「ただでさえ菫は可愛いのに、更に“人妻”というオプションが付くんだぞっ?そ、そんな菫が男が多く棲息する魔法省で働くなんてっ……危険だっ!」


とレガルドは人目も憚らず喚いた。

そして、


「菫、お前はお(うち)に居なさい。そして三食昼寝付きで贅沢三昧の暮らしをしなさい。今まで散々苦労を掛けたんだ、お前にはその権利がある!そして俺の事だけを考えて俺の事だけを見てくれ!!」


と言って、菫をぎゅうぎゅうとその腕の中に閉じ込めた。

ハルジオやミス・ポワンフルの前で。


「まぁレガルド様ってば困った旦那さまですねぇ……」


と菫がのんびりと困っていると意外な援護射撃が横から入った。


「若、またそんな我儘を言って……菫様がお困りですよ」


その声の主は幼い頃からレガルドの従者である桐生主水之介だ。

除籍された訳ではないが州主の継承権を放棄して家を出たレガルドを追って、アデリオールに移住して来たのだ。


そして菫と同じく臨時準職員採用試験を受け合格し、こうやってレガルドの側にいるという訳だ。


「主水之介、俺はもう若じゃないぞ。その呼び方はやめろ」


「じゃあ何ですか?若じゃないならバカですか?そうですねバカですよね、でも私にとっては若は永遠に若なので好き勝手に呼ばせてもらいます。ええ、爺さんになっても若と呼んでやりますよ、ザマァみろ」


「「……………」」(菫と元若君)


誰だ?桐生を寡黙な男と評したのは。


つらつらと長文を一気に捲し立てた桐生を菫は目をぱちくりさせながら見つめていた。


レガルドが嘆息して桐生に返す。


「お前……まだ菫を国外に出す算段を何も告げずに進めた事を根に持っているのか?大人げないぞ?」


「いやまぁ確かにあの時はよくもこの俺を手の平の上でコロコロしてくれやがりましたね。ですがそんな事ぁもうどうでもいいんですよ。

せっかく菫様が新しい場所で自由に羽ばたこうとしてるのに、また鳥籠に戻そうとしちゃあイカンと言っとるんですっ」


これまたつらつらと言ってのけた桐生にレガルドは目をむいた。


「羽ばたいてっちゃあ駄目なんだよ!菫はずっと俺だけのお花ちゃんなんだからっ!」


「とっくに成人した男子がそんな阿呆な事ばかり言うんじゃありませんっ!!」


「お前!せっかく俺が国を出る前に次の仕官先を用意したのになんでアデリオールに来るんだよっ!もう俺は主家の息子じゃねぇんだから給料は払えないぞっ!」


「金なんざ払って貰わなくても自分の食い扶持くらい自分で稼げますよっ。俺はあんたに一生付いて行くって決めてるんです、勝手に俺の人生を決めんで下さいっ」


ギャーギャーと言い合う元主従を横目で見遣りながら、ハルジオが菫に言った。


「……まぁなんだかんだと仲が良いらしいあの二人は放っといて、俺はいいと思うよ?近頃は結婚後も働く女性が増えている。我儘な旦那(レガルド)の言う事なんて無視してスミレさんのやりたいようにやれば」


それをちゃっかり聞いていたらしいレガルドが今度はハルジオに噛み付く。


「ハルジ!お前、女の趣味が悪いからって菫に余計な事を吹き込むなっ」


「俺の女の趣味は関係ないだろうっ、学生時代(ガキの時)の話でも、付き合うって決めたからには誠意をもって付き合ってるだけだよっ」


「ハルジオさん、あんた、女は顔だけで選んだらいかんですよ。ちゃんと胸と尻も見なくては」


「何の話ですっ?」


「菫は顔だけのリッカとは違って完璧な女の子だっていう話だよ」


「「無理やり惚気に持って行くのはヤメロ」」




「……スミレ、こっちにおいで。バカが感染(うつ)るよ」


ミス・ポワンフルが呆れた顔をして菫を引き寄せた。


「ふふふ」


結局その場は、菫自身が働けるうちは働きたいのだと宣言して収拾したのだった。




こうして菫は李亥菫(りぃすみれ)としてまた新たな気持ちで働いている。



菫はその時の事を思い出しながら、笑顔でシンディにこう告げた。


「旦那さまも家事は手伝ってくれるし、充実した日々を過ごしていますよ」



「あら?アレ、あなたのダーリンじゃない?」


シンディが開放状態になっている扉から見える廊下に視線を向けて言った。


するとそこには捜査で外に出ていたレガルドが、緑の髪色をした女性職員に声を掛けられている最中だった。


「新しく特務課に入ったリー君よね?良かったら今夜一緒に食事でもどう?魔法省のコト色々と教えてあげるわよ?」


その女性職員が目線に色気を絡ませながらレガルドに言う。


それを見てシンディがある事を思い出した。


「あっあの女、以前スミレにわざわざ東方から男漁りに来るなって言った女よ。なによ、自分が男漁りに来てるんじゃないのっ」


それを聞き菫の記憶も蘇る。


「あぁ、あの時の女性職員さん」


東和でもレガルドはとにかくモテた。

あの見目の良さと李亥家の若君という立場であった彼は、それはもう色んな女性から常に秋波を送られていたのだ。


それは遠い異国の地でも変わらないのだなぁと菫が感心していると、シンディが声を張り上げて緑の髪色の職員に言い放った。


「ちょっとぉーー?経理部の前で男漁りはやめてくれるー?それにあなた、東方人の男なんてしょぼいって言ってたじゃなーーいっ」


廊下に居たレガルドとその女性職員がシンディの方へ顔を向けた。


女性職員は言われた意味を理解し、顔を怒りで顰めた。


「なっ、なによっ!…「菫っ!!」……え?ちょっと待ってっ……」


シンディの隣に菫がいるのを見つけ、レガルドが嬉しそうに破顔してこちらに向かってくる。


置いてけぼりを食らった女性職員が目を見張ってレガルドを見ていた。



「菫、ここにいたのか」


「うん。領収証を届けに。でもまた課長が日付の記入をしてないの」


「あのオッサンはホントにアバウトだからな」


「レガルド様は外回りだったのね、お疲れ様」


そのやり取りを側で見ていたシンディが言った。


「なぁにスミレ。あなた夫の事を様付け?」


だが菫がそれに答える前にまだそこに居た女性職員が素っ頓狂な声を上げた。


「はぁっ!?夫っ!?」


そしてショックを隠せない様子で菫とレガルドを交互に見る。


シンディがそれに答える。


「そうよ?あなた知らなかったの?あなたが今ナンパした男性は以前嫌味を言って絡んだ彼女の旦那様よ?残念だったわね?」


「なっ!!……っヒッ!?」


「嫌味を言って絡んだ……?俺の菫に……?」


途端に冷たい空気を放つレガルドに女性職員は慄いた。

そして「わ、私は知らないわっ……!」と言い逃れをして這うようにその場を走り去った。


「ったく、ろくな女じゃないわね」


シンディが呆れた口調で言う。


「それで?どうして“様”を付けて呼んでるの?」


先程の質問の続きを問われ、菫は少したじろいだ。


「えっと……だって……もう癖になっていて……」


「まぁなんだって良いんだよ。名前で呼んでくれるなら、なんだったら“ダンナサマ”でもいいんだけどな」


「ヒュ~~♡ごちそうさまっ♡」


「もう、二人とも……」


「恥ずかしがる菫も可愛いなっ!!」



このやり取りをその場にいた多くの職員に見られていた事により、特務課のレガルド=リーは愛妻家であるという事実があっという間に魔法省に広く周知される事となった。



それでも我こそはと自らの容姿に自信のある女性職員が数名レガルドにモーションを掛けたが、

まるで汚物を見るかのような視線を向けて冷たくあしらわれ、全員撃沈したという。


そして反対に隙あらば菫を口説こうとする男性職員も数名いたが、

彼らの哀れな末路を敢えてこの場で晒すのはやめにしておこう……。



こんな調子で今やおしどり夫婦として有名な菫とレガルド。



騒々しくも幸せな二人の新たな物語が始まった。






             新章につづく







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





以前、アルファポリスさんの方で読者アンケートを取らせて頂きました。

その時の結果、続投すると決まっていなかったら、ここで完結となっておりました。


皆様のご要望にお応えし(嬉しい)、この後も菫と元若君のお話を続けさせて頂きます。



今後の展開としまして、


魔法省でのお話とそしてミルルとハルジの一件を菫たち夫婦から見た場合で描いてみようと思います。


そしてあちらのお話で是非と言って頂きました番外編をこちらで書けたらと企んでいる所存です。


ん?ミルルって誰?と思われた読者様、

是非「その温かな手を離す日は近い」を呼んで頂けますと、今後のお話が分かりやすいと存じます。

よろしくお願いします♡


では皆さま、引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。


夜露乳首~(^з^)-♡



……でも新しいお話を書きたい病も症状が出始めておりますので、きっと近々朝と夜で違うお話をそれぞれ投稿すると思います。


その時はどうぞよろしくお願いします!



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― 新着の感想 ―
[一言] 前半シリアスだったけど、ヒーローが出てきてからいつも通りになりましたね⭐ この話にはメロディ姐さんとか出たりするのかなぁ?
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