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明かされた結末、月明かりの下で


作中、少々残酷な表現をした部分があります。

苦手な方はご自衛ください。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



魔法省敷地内の訓練場でレガルドに捕獲され、転移魔法にて連れて来られた場所は菫の部屋の前であった。


「私の部屋……?」


「うんごめんな?そのまま部屋の中まで転移出来ればいいんだけど、菫の部屋には転移を防ぐ魔術を掛けてあるから」


「そうなのね。さすがはポワンフルさんのアパートだわ」


「いや菫の部屋だけだよ?」


「え?」


「菫の入居前に転移防止と外部からの魔術干渉を防止する術を施してあるんだ」


「……そ、そう……」


いつの間に……と思ったがとりあえずは中に入ろうと菫は鍵を開けた。



「へぇ部屋はこんな感じになったんだな」


レガルドが感心して部屋を見渡している。


「あ、俺がハルジに渡した畳だ。西方(こっち)には和室が無いからな、布団が敷けずに困ってるだろうと思ったんだよ」


「うん。ありがとうレガルド様」


菫は紅茶を淹れて元々この部屋に置いてあったソファーに腰掛けるレガルドに渡した。


「はいどうぞ」


「!……す、菫が淹れたのか……?」


「うん、ここでは自分の事は自分でしなくてはならないから。紅茶の淹れ方はポワンフルさんに教えて貰ったの。だから味は大丈夫だと思うんだけど…「旨いっ!」


菫が淹れた紅茶を一口飲んで、レガルドは感動に打ち震えていた。


「す、菫が手ずから淹れてくれた茶を飲める日がくるなんて……味も香りも申し分ない、本当に旨い茶だよ」


「そんな、大袈裟よ」


「大袈裟なもんか!よし今日は紅茶記念日にして毎年祝おう」


間違いなく大袈裟である。



そうして落ち着いたところで東和で起きた出来事の顛末を話して聞かせてくれる事になった。


が、



「……ねぇ……これではお話が聞き辛いわ?」


「そんな事はない。近くに寄れば大きな声を出さずに済むだろ?」


「でも……」



何故か今、菫はソファーに座るレガルドの膝の上に乗せられている。横向きに。腰をがっちりホールドされながら。


「重くない?」


「重くない。菫は花だから重さなんて感じない。はぁぁ……ようやくこの手に取り戻せたぁぁ……」


そう言ってレガルドは菫をぎゅっと抱き寄せた。

そのまま動かなくなったレガルドの頭を昔のように撫でてみる。


レガルドは一瞬ピクリとしたが、

そのまま大人しく撫でられている。


少し痩せただろうか。

精悍さの中に疲れが垣間見られる気がした。


レガルドは菫から少し身を離して言った。


「もっと撫でてくれ……」


「ふふ。はい」


レガルドは昔からこうやって菫に頭を撫でて貰いたがる。


幼い頃に母を亡くし、その所為で人を寄せ付けなくなった父親には頭を撫でて貰ったどころか抱いて貰った記憶もない。


常に側には従者である桐生がいてくれたが、当然頭を撫でて貰えるような関係性ではなかった。


勉強も剣術も体術も異能の術も、全て人並み以上に頑張ってきたレガルドを褒めてくれる人間はどこにもいなかった。


だけど許嫁になった菫は事ある毎にこうやって頭を撫でてくれたり、努力を認めて労ってくれる。

そして凄い事だといつも口にしてくれたのだ。


そんな菫がいてくれたから、レガルドは東和一の異能の力と剣の腕を持つと謳われるようになった。


菫が居なければ今の自分は居なかった。

レガルドは心からそう思っていた。



頭を撫でながら菫が呟くように言う。



「……どうして継承権を放棄したの?どうして婚約者を三の若君に譲ったの?どうして……どうしてここに来たの……?」


菫は訊きたかった事を全て口にした。

レガルドの答えが、菫が望むものであればいいと願ってしまう。



頭を撫でる菫の手を取り、レガルドはその手の平に口づけをし、同じく呟くように言った。



「他は要らない。菫しか要らない。だから全部捨ててきた。俺には……お前だけだ……」


「……っレガルド様……!」


どちらからともなく唇が重なる。


最後に口づけを交わした日から、どれだけ時が流れたのだろう。



告げたい言葉は互いに沢山あれど、

結局はこの言葉に全てが込められる。


「菫、愛してる……」

「私も……あなただけ、あなただけを愛してる」



まさかこうやってまた、


彼の温もりに包まれる日がくるなんて……



それだけで菫は泣きたくなる。


諦めなければ、忘れなければ、彼の人生から消えなければ、自分にそう言い聞かせ気持ちを封じ込めて蓋をした。

その想いが涙と共に溢れ出す。



ーー好き。ほんとうに、すき……



そして離れていた時間を取り戻そうとするかのように、

二人は互いを強く求め合った。





結局、菫が事の顛末を聞いたのは夜の帳が降りた、

月明かりが部屋の中を青白く染める頃だった。


まだ熱を孕む体を寝具の中で寄せ合いながら、


ぽつりぽつりとレガルドが話し出した。



李亥の嫡男とその外祖父である重臣が、密かに州主殺害の謀反を企てた。

それが露見しそうになって、予め用意してあった偽の証拠品と共に菫の父と他の家臣に罪を(なす)りつけたのだ。


その他にも次期州主の立場を利用しての悪行の数々を、物的証拠品や証人と共に連邦裁判所に提出したらしい。


当然、当時証拠品だけで判断し、ろくに調査もせずに罪状を確定した官吏達も告発する。


そこで正しく捜査され、冤罪及びその他の罪が立証された上で認められたそうだ。


そしてその場を以て嫡男と他の者たちの身柄は連邦裁判所によって拘束され、公正な裁判の下に裁かれる事となった。


そうなれば当然、李亥家は廃嫡という形で嫡男を切る。

その生母である第一夫人も息子や実父の罪を知っていながら隠蔽に加担していた罪で捕らわれ、元嫡男同様幽閉の身となった。


遠く冷たい北の地にて、夫人は一生を過ごす事になるだろう。


元嫡男も別の北の離島にて幽閉となったが、その沙汰が下った際に不服申し立てをしなかったのには理由がある。


本来ならば菫の父の命を奪った罪は万死に値する。

出来る事ならレガルド自身の手で殺してやりたかった。


だがレガルドには他に奴に対して仇を討たせてやりたい人物がいた。



「……約束したんだ、紫檀楼の女将と。轢き殺された息子の無念を晴らさせてやると」


「紫檀楼のお母さま……」



菫はこの時初めて、紫檀楼の楼主夫妻の慟哭を知った。


レガルドからの知らせを受け、楼主はさっそく元嫡男の幽閉地に人を送ったそうだ。


罪人としての元嫡男の()()()として。


その者を使って楼主夫妻がどのような復讐をするつもりなのか……レガルドは敢えて訊かなかったが、恐らくは食事に少しずつ毒を混ぜて弱らせた上で何かしらの制裁を与えて命を奪うのだろう。


ある意味、連邦裁判所の極刑に処される方がひと思いに死ねて楽であったかもしれない。


今この時も、かの地ではそれが現在進行形で行われているはずだ。


そして今まで散々他の者から恨みを買ってきたであろう奴らだ。


皆、流刑先でいつ復讐者によって非業の死を遂げてもおかしくはない。



そして此度(こたび)の事件を受け、レガルドの父親は如何に己が無能であったか、そして州主としての求心力の低下を見せつけられ、家督を譲ると言い出した。


当然、次の後継としてその抜きん出た実力を発揮したレガルドの名が挙がったが、レガルドはそれを鼻で笑い一蹴し、断固拒否した。


「異国の血が入った青い目の州主なんて言語道断と散々言っていたくせに笑わせるな、と思ったよ。だから予め異母弟を抱き込んで押し付けて来たんだ。北の豪族との婚姻付きでな」


俺の嫁は菫だと八年前から決まってる、と言いながらレガルドは寝具の中で菫の体を引き寄せた。


素肌同士が重なる温もりが心地よい。



それらと同時進行でちょくちょくアデリオールに飛び、魔法省の採用試験を受けたりとその他の雑用もこなしていたという。


道理で痩せるはずだ、と菫は思った。



「……レガルド様」


「ん?」


「ありがとうございます……父や、その他の方達の無念を晴らしてくれて……それに、私をずっと守ってくれた……」


菫の瞳からまた涙がぽろりぽろりと零れ出る。


その涙の粒を拾うように拭いながら、レガルドは言った。



「もちろん、全部菫のためにやった事だけど、俺のためでもあるんだ。これからの人生、心から笑ってる菫と共に歩きたいからな。そのためなら何だってやるさ」


「ふっ…うっ……レガルド様ぁ……」


「あーもう、泣いてる菫も堪らなく可愛いなっ」


そう言ってレガルドは唇を当て、菫の涙を掬い取った。


「菫、結婚しよう。一生俺の側にいてくれ、必ず幸せにすると誓うから」


「もう幸せですよ……もちろんです、私をレガルド様のお嫁さんにしてください……」


「喜んでっ!!めちゃくちゃ喜んでっ!!」


「きゃあっ」




喜び勇んだレガルドに組み敷かれた菫がその後どうなったのかは……



窓から覗く十三夜の月だけが知っている。



なんてね。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ピロートークで説明かいっ!



まぁ……若い二人ですから……♡(´ε` )




補足です。


弓削の再興を許された菫の二人の兄は、レガルドの取り計らいで新しく州主になるべく準備中の異母弟に召し抱えられる事と相成りました。


レガルドが事前に保管してあった弓削家の大切な品々も既に渡しているそうです。


一家離散を申し渡された時、菫の兄たちは妹の事だけが心配でならなかったそうです。


だけどレガルドなら絶対に菫を保護してくれると信じてもいたようですね。


そしてレガルドがアデリオールに旅立つ日(入省式の日)、兄たちは見送りに来て「菫を宜しくお願いします」と頭を下げたそうな。


いつか落ち着いて、菫が兄たちと再会出来るといいですね。


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