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李亥レガルド奇譚 ③

「女将、新しい花が入っているそうじゃないか。もう三月ほどになるって?そろそろ突き出ししても良いんじゃないか?であればその後このワシが水揚げをしてやってもいいぞ?どうだ?栄誉な事であろう?」



菫が紫檀楼へ預けられて三ヶ月が経とうとしていた頃、どこで嗅ぎつけて来たのか高級官吏が菫を水揚げしたいと申し出て来た。


紫檀楼の楼主の妻である女将の女郎花(おみなえし)が柔らかに一瞥し、その高級官吏に答えた。


「それは結構なお話ではございますが申し訳ありません。新しい花はもう、その持ち主が決まっているのでございます」


「何?もう?……裏を返せばそれほどまでに美しい花という事になるな。よし、ワシが花代を其奴の倍額払おう。どうせ何処(どこ)ぞの商人であろうが、州主様に仕える名家の長であるワシの方が新花に箔がつくというものだ」


それを聞き女郎花は内心鼻で笑うも当然それを(おくび)にも出さず、笑みを浮かべて告げる。


「まぁ……!それはそれは大変有り難いお申し出ではありますが、生憎それ以上のご縁がございまして……」


「なんだと?我が家門より格上だと申すのかっ!言ってみよ、大した事ない相手であれば突き出しもせずにすぐに床入りさせて貰うからなっ!」


女郎花の脳裏にレガルドが事前に言っていた言葉が蘇る。


『菫に関して何か事が起これば躊躇せずに俺の名を出せ。李亥の次男坊の名をな』


ーー勿論大いに使わせて頂きますわ、若様。



「李亥家の二の若君。新花の持ち主は州主の若様でございます。これだけ言えば、流石にご理解頂けますわね?」


それを聞くや否や直ぐに今まで高慢な態度を取っていた官吏は「えっ?」とか「この事は内密に」とか「ワシは何も知らんぞ!」等、しどろもどろになりながら逃げ帰った。


その様を半目で睨め付けていた女郎花は、側に控えていた店の若い衆(わかいし)達に告げる。


「あの客は今後出禁とするから」


「「「へい」」」



「誰を出禁にするって?」


「若様っ」



転移魔法により突然現れたレガルドに女郎花は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

なんと、間が良いのか悪いのか。


じつに三ヶ月ぶりの訪いである。


「無沙汰してしまって悪かったな。菫はどうだ?落ち着いたか?様子は知らせて貰っていたが」


「はい。穏やかに過ごされていますよ。禿の菊莉と菊香を妹のように可愛がって、まるで姉妹のように楽しくされております」


「そうか、良かった……このまま菫の部屋へ行く」


「承知いたしました」


レガルドは腰から刀を外しながら菫の部屋へと向かった。


部屋の前に着くと中から幼い少女がころころと笑う声が聞こえる。

菫の禿の声だろう。

そこに菫が笑う声も重なり、レガルドは小さく安堵した。


家族を失い、家を失い、そして突然ここへ連れて来られた。

それでも菫はその場所で懸命に生きようとしている。

強い花だ、可憐な花だ。


レガルドの最愛の花。


禿に訪いを告げ、菫に取り次いで貰った後、二人には人払いを頼んだ。


通された部屋で三月ぶりに見る菫は、不思議と妓楼の遊君(さなが)らの色香を纏っていた。


それでいて清らかで瑞々しい。

たった三月で菫はさらに輝くような美しさを増していた。


「若君……」


その涼やかで可愛らしい声が耳腔を通ってレガルドの心の奥深くまで響き渡る。


レガルドは端的に訊ねた。


「ここでの暮らしはどうだ?」


「皆さんに良くして頂いて、穏やかに暮らせています……」


菫の眼差しが問うていた。

何故ここに連れて来たのか、自分はどうすればいいのか、レガルドがどう思っているのかと。


まだ菫に話せる事は何もない。

もし菫が父親が無実の罪を着せられ処刑されたと知れば、必ず仇を取ろうと足掻くだろう。

そしてなりふり構わず踠き続け、命を落としかねない。


これから更に外界は荒れ、

レガルド自身の身にも様々な事が起こり得る。


菫には……ただ静かに暮らして貰いたい。


ーー苦渋も辛酸も、全て俺が舐めてやる。


それならばと、レガルド自身がここに居て貰いたいと願っている事を伝えようと思った。

こちらの都合で勝手をしているとすれば、菫も気兼ねをしないはず。



「……弓削の者を受け入れる家はこの州にはもう無い。だが紫檀楼(ここ)にいれば身の安全は保証され、綺麗な着物を着て旨い飯が食える。そして俺はいつでもお前に会える。俺の都合が良い時に、菫の都合も気にせずにいつでも会いに来れるんだ。お前はそれを、どう思う?」



ーー俺が望んでいるからだと……それだけの理由でお前はここに居てくれるだろうか。


(こいねが)う想いを込めて菫を見る。



すると菫は、少し恥ずかしそうにでも嬉しそうに小さな声でこう言った。


「……素敵……だと、思う……」



その言葉を聞いた途端、


心の(たが)が外れた。


今すぐ自分のものにする。


もとより手放すつもりはない。



出会いから丸六年。


大切に守ってきた花を、その日レガルドは手折った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




思いの外時間のやりくりが出来ず……

_φ( ̄ー ̄ )アレ?イマナンジ?


ゆっくり進行で申し訳ないです。


さくさくテンポよくを信条としてるのにぃぃ……!



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― 新着の感想 ―
[一言] 私、この若君なんとなく気に入らなかったんですよ。 勝手に妓楼に入れおって! なんだ此奴は‼︎って、 このレガルド奇譚がなければ、許せなかったかもしれません。 背景がわかって安心して楽しんでお…
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