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プロローグ さよならをあなたに
よろしくお願いします!
いつかこんな日がくる事はわかっていた。
私は没落した家の娘で今は華やかな苦界で咲く花。
そして彼はこの州の主の二の若君(次男)。
奈落に沈む前に彼によって手折られ、花器に活けられ愛でられてきたけれど、
それが泡沫のいつかは明ける夜だとわかっていた。
彼は再び、別の花器に私を活けるつもりなのだろうか。
でも、そんな脆く儚い花器で咲き続けるのは無理だ。
いつか必ず私の存在が彼の足枷となる。
私の所為で彼が苦しむのがわかっていて、
何食わぬ顔で与えられた水に浸かって咲き続けるつもりはない。
既に根もなく帰る場所もないわたしだけれど、
それでも、
あなたのために出来る事があるならば、
私は野に咲く花に戻ろう。
もともと、名のつく山に咲いていていた花だもの。
きっとまた根を張り、力強く生きていけるはず。
だから、
さよなら。
わたしが最後にあなたに差し出せるもの、
それが別れなら私は喜んで贈ろう。
さよならの贈り物。
さよならをあなたに。