閑話「サブコンシャス」
「――さてと。次はセラちゃんが着てくれた深紅のドレスに似合うジュエリーやパンプス、クラッチバックやハンカチを選ばなきゃね。あっそれと、テイクオーバー×ライフにはメイクスタジオもあるのよ? 貴女が昔から手の焼ける娘なのは知ってるから、全部ママが見繕ってもいいかしら?」
等と口元を綻ばせながら眦を下げ、ブルームママさんは意気揚々と店内を駆け回っている。ロゴの刺繍が施されたハンカチや五番街では手に入らない化粧道具、高価なジュエリーが飾られた小箱を持ち歩く彼女の姿は、まるでお洒落に無頓着な娘に御節介を焼く母親に見えた。
「えっと……ブルームママさん! 貴女も解離者という存在なら色々と詳しいんですよね? 尋ねたいことが沢山あるんですけど!」
「気になるのなら何でも答えてあげるわ。だけど、まずは私が持ってきた黒いパンプスに履き替えてちょうだい。厚底のスニーカーとパーティードレスは水と油みたいなモノなのよ? 絶対に似合わないわ」
ブルームママさんが選んでくれたハイヒールな黒いパンプスを履き、二杯目のシャンパンを飲み干してエルフ族の従業員にグラスを差し出す。
宮廷の客間に置かれているような金の刺繍が入れられた黒いソファから立ち上がった瞬間、パンプスのヒールが高すぎたせいで体勢を崩して転びかけた。が、僕は咄嗟に後天性個性の磁力操作と電気操作を併用して【電磁浮遊】を行い、異能の効果を調整したまま空中で浮かび続ける。
「危っぶねぇ……やっぱりヒールの高いパンプスなんて履くもんじゃねえな」
「ジャックオー様! お怪我はありませんか?」
後天性個性を利用して空中を漂い続けていると、先ほどグラスを受け取ってくれたエルフ族の女性が血相を変えて駆け寄ってきた。しかし、彼女は宙に浮かんだ僕の姿を目の当たりにした途端、見ては不味い物を見てしまったように頬を赤く染めて目を伏せる。その後、エルフ族の従業員は目の遣り場に困ったように掌で顔を覆うと、浮かび続ける僕に震えた指を向けるや否や小さな声で呟いた。
「あ、あの……ジャックオー様。ド、ドレスが……御召し物が乱れて肌が出ています」
「あぁ、しょうがないよね。転びかけたからドレスが乱れても当然だよ。それに布の面積が少ないドレスなんだし、肌が出るのは当たり前じゃないの?」
「セラちゃーん! アクセサリーやジュエリーを用意してあげたから、こっちに来てちょうだい!」
どうやらブルームママさん側の準備は整ったらしい。僕が更衣室の近くに設置された巨大な姿見鏡を眺めていると、彼女の声が店内に響き渡った。
異能を解除して床に降り立った後、ブルームママさんの呼び声のする方へと足を運ぶ。が、慌てた様子で何かを伝えようとしていたエルフ族の従業員は、吹っ切れたように自分の頬を強く叩くと、潤んだ唇を耳元に寄せて囁いた。
「ジャックオー様。その様子だと気づいていないのでしょうが、転びかけた勢いで御召し物が乱れております。ドレスから胸が丸見えになっていますよ……」
「あ、あはは……全然気づかなかった。汚いものを見せてしまって申し訳ないです――」
入れ込んだように頬を赤らめながら僕の胸を凝視するエルフ族の従業員。彼女の恍惚とした瞳からは思慕の情さえ感じ取れたが、従業員さんが気づいてくれなければ、僕は淫乱な乳房を晒したまま店内をうろついていたのかもしれない。
それにしても、我ながら立派で天晴な巨乳だ。ダストのとっつぁんがエレベーターホールで慌てた理由や、ホテルの総支配人がイヤらしい目つきで胸を凝視していたのも納得できるデカさをしている。
「エイダさんとノアは興味が無さそうだから安心できるけど、ロータスさんやリベットは僕が油断してると幾らでも揉んでくるからな。胸は揉めば揉むほど大きく育つようだけど、アイツ等のせいで着られる服が無くなったら文句でも言ってやろう……」
傲慢の魔眼の『魅了』を発動して、上級スライムの柔らかさと弾力を兼ね備えたコイツを駆使すれば、イチモツをおっ勃てた大抵の男なんてイチコロなんだろう。いや、もしかするとリベットのようなストレートな気質の女性さえ堕とせるかもしれない。
但しその場合、百合百合しい展開が待ち受けているだろう。
等と自惚れながら誇大妄想を抱き、息を荒くして頬を赤らめながらハミ出た乳房を揉みほぐす。しかし、自分で揉むのと彼女たちから揉まれるのとでは何かが異なり、乳頭をイジっても両胸を鷲掴みしても何も感じなかった。
「やっぱり自分で揉むより他人に揉んでもらった方が気持ちいいな……」
等とロータスさんやリベットとの百合百合しいプレイを妄想しながら両胸をこねくり回していると、ブルームママさんが何の前触れもなくやって来て白い目で見てきた。
「え、えっと……これは――」
「あらあら。お邪魔しちゃったわね。セラちゃんがそんなにエッチな娘だったなんて知らなかったわ。だけど、そんな一面を見れたのも物凄く嬉しいな。だって貴女、私たちとダウンビレッジで過ごしていた時は、人生の全てに絶望していて何度も自殺未遂を繰り返していたじゃないの……」
「ご、誤解しないで下さい! 青少年の肉体から成人女性の肉体に変化して二週間しか経ってないんです。それなのに、胸が大きくなり続けたり尻に脂肪が蓄え続けて驚いているだけです! それに、僕が禁足地で自殺未遂を繰り返していたって本当なんですか!?」
「ふーん。その様子だと本当に前世の記憶が思い出せないのね。いや、思い出せないのじゃなく、徐々に記憶が蘇りつつあるんじゃないのかしら……」
ダウンビレッジで過ごした転生前の人生を彼女が語る度、僕の脳裏にインヴィオレイト家と過ごした家族の温もりを感じる幸せな光景が断片的に浮かび上がる。
ヴァイオレット姉さんやブルームママさん、彼女の祖母や曾祖母と娘たちを含めた七人の龍人族。
巨大な古龍に姿を変えることができた龍人族の彼女たちは、この滅びゆく世界で育ち始めた腐乱覇王大花の成長を遅らせるのに躍起になっていたそうだ。
しかし、断片的に蘇りつつある過去の記憶によると、呪われた宿命を持つインヴィオレイト家に拾われた当時の僕は、飛行専用の小型機甲骸に搭乗しなければ、腐乱覇王大花の成長を遅らせる空中演舞の儀に参加できなかったとのこと。
「セラ……いや、アクセルちゃん。そんなに落ち込んじゃってどうしたの?」
「ああ、ブルームママさん。さっきから貴女と会話をする度、禁足地で過ごした記憶が少しずつ蘇りつつあるんです」
「そうだったんだ。全部の記憶は思い出せなかったのね。取り敢えずメイクスタジオに向かわない? そこで貴女が抱いている疑問を解いてあげるから」
「――ありがとうございます。ブルームママさん」
それから、エルフ族の従業員や彼女に背中を押されて腕を引っ張られると、僕らは仕立て屋の店舗内に設置されたメイクスタジオへと足を運んだ。照明付きのドレッサーの前に置かれた椅子に座って暫く経った頃、僕は瞳を閉じて記憶の海底に眠る様々な潜在意識へ意識を注ぎ込む。
何度も感覚を研ぎ澄ませて目を瞑ったが、脳の何処かに宿る記憶の潜在意識には接続できず、解離者と化した数万倍の感度で感覚を研ぎ澄ませても潜在意識下に封じ込まれた記憶は思い出せなかった。
「とても素敵な首飾りのネックレスね。今の貴女には物凄く似合ってるわ!」
背後に立ったブルームママさんは、僕の首元にペンダント型のタッセルロングネックレスと呼ばれる首飾りを掛ける。
彼女や仕立て屋の従業員が用意した魔導具や化粧道具は随分と値が張る物であったらしく、化粧やヘアメイク自体は数分も経たないうちに終わった。が、僕はそのまま照明付きドレッサーの前で座り続ける。
「ブルームママさん。聞きたい事が山ほどあります。答えられる範囲で構わないので色々と教えてくれませんか?」
「もちろんよ! 貴女が望むのならなんでも答えてあげるわ。だけど、その前に――」
指をバチンッと鳴らしたブルームママさんは、『顕在意識の限界』『自己防衛の臨界点』『補綴の悠久』と呟き、掌からベンゼン環のように正六角形が連なった物質を作り上げ、それらを次々と紡いで結界と思われる空間を創造した。
「急にごめんね。私たちを包みこんだ空間は『世界の真と理から逸脱した領域』と思ってくれて構わないわ。私は結界の名前を『顕在の安息地』って呼んでるけど、名前に意味なんてないからな気にしないでちょうだい」
「『顕在の安息地』ですか。これから質問を尋ねるのに結界が必要なんですか?」
「……残念だけどその通りよ。この顕在の安息地に囲まれていなければ、私の逸脱した行動は『彼という存在』から丸見えなの」
「逸脱した行動ですか。ブルームママさん、貴女の言う『彼』って存在が誰なのか思い出そうとしたんですが、目を瞑って感覚を幾ら研ぎ澄ましても思い出せませんでした。それに、僕が『世界を創り続けた』っていうのはどういう意味なんですか?」
薔薇の彫刻が刻印されたロケットペンダントを開き、ロケットに内蔵された光り輝く水晶を俯きながら見つめる。ブルームママさんに『世界を創り続けた理由』を尋ねた後、『何度も転生を繰り返して何かを必死に救い出そうと足掻いた記憶が朧気に残っている』と伝えた。
「そうね。まずは私たちを見捨てた『彼』という存在について語らなきゃいけないんだけど、その『彼』と直接対話を交えたのは貴女だけなの」
「僕だけが『彼という存在』と対話を交えたんですか? 戦ったとかじゃなくて?」
「戦う? そんなのは無理に決まってるわ。相手はこの世界を見捨てようとした人物なのよ? それに、彼は私たちをただの数字としか見てないから……」
「ただの数字ですか。じゃあ、僕が世界を創り続けた理由っていうのは――」
等と『彼』と対話を交えた記憶が断片的に蘇りつつも、ブルームママさんに世界を創った理由を尋ねる。が、僕は彼女が語りだした『僕が世界を創った理由』の真実が信じられず、自分自身が『彼という存在』によって創られた『数字の一つ』でしかない事を知って腸が煮えくり返った。
「セラちゃん、そんなに気を落とさないでちょうだい。この世界は彼が選んだ世界を基に創られた別の世界なの。だから、彼が変な気を起こさない限り、監視されている間は滅びたりしないわ」
「……なんだか物凄く最悪な気分です。こんなにも知らなくてよかった事があるなんて思いもしませんでした」
ブルームママさんから世界の真実を伝えられた直後、どうして僕が転生した世界に別の世界から異世界人がやって来るのか納得できた。そして、全ての問題の根源は自身にあると思い出せた瞬間、何もかもに嫌気が差して記憶を消したくなるほど全てがどうでもよく思えた。
「ブルームママさん。色々と見繕ってくれてありがとうございます。最後に一つだけ教えてください」
「何でも聞いてちょうだい! 私たちインヴィオレイト家は貴女に救われて『過去の記憶を引き継ぐ事ができた存在』なのよ? 教えられる事は何だって教えてあげるわ!」
顔を綻ばせて髪を結ってくれたブルームママさん。僕は最後に彼女へ『この世界の寿命はいつ尽きるのか?』と尋ねる。
「それは……私にも予測できないわ。ダウンビレッジに匿っている怪異や巨大生物は氷漬けにしているから問題ないし、腐乱覇王大花の問題は貴女がセラであった時に解決したのよ? 当時の貴女が腐乱覇王大花を以前の世界に置き去りにしたから、この世界は崩壊しないで成り立っているの。だから、貴女が危惧している疑似天使が幾ら増えようとも何の影響も無いはずだと思うけど……」
「……そうだったんですね。少しだけ安心しました。じゃあ、他に大きな新しい問題が起きたら僕に教えてください。便利屋ハンドマンは何でも請け負う最強の便利屋ですから――」
その後、胸に溢れる悲しみや不安、怨恨といった感情を抑えつつも声を弾ませて無理に笑顔を作って鏡を覗き込んだ。すると目の前には、編み下ろした黒い髪を花飾りのバックカチューシャで留めた淑女が涙を蓄えていた。
何度か目蓋を擦って確かめたが、どうやら鏡に映った淑女は赤の他人ではないらしい。目を丸くして再び目蓋を擦ろうとしたが、ブルームママさんに「化粧が落ちるから止めなさい!」と叱られ、鏡に映った淑女が自分だと思わざるを得なかった。
「どう? ビックリした?」
「は、はい。正直な話、ブルームママさんのメイクだから当てにはしてなかったんですが、これじゃあ全くの別人ですね。もしかして、ブルームママさんの解離者としての能力か何かのお陰ですか?」
「違いますっ! 本当に人を苛立てる才能だけは長けてるわね。貴女の代わりに私が黙り上がれって『彼』に言いに行っても良いのよ?」
「『黙り上がれ』ですか。最近、誰かに向けて言った気がします――」
等と言いながら椅子から立ち上がった直後、彼女が僕のドレスの裾を捲り始める。
「ねえセラちゃん。どうしてパンツなんか穿いてるの? 貴女のドレスは体のラインを極限まで強調してるから、パンツのシルエットなんて丸見えなのよ? さっさと脱ぎなさい……」
「ちょ、ちょっと待ってください! え、このドレスってパンツも脱がなきゃダメなんですか!?」
腕を組んで顔を顰めたブルームママさん。どうやら彼女の真剣な眼差しから察すると、本当にパンツまで脱がないとダメなドレスであるようだ。
それから暫くの間、パンツを穿くか脱ぐのかという押し問答を繰り返したが、結局は僕の方が折れてパンツを脱ぎ捨てる羽目になった。
「じゃあ、セラ……じゃなかった。今はアクセルちゃんなのよね」
「もうどっちでも良いですよ! とっつぁんとの食事が終えたら速攻でパンツを取り返しに行きますからね!」
「あらあら。鏡の前で自分の胸を揉んでた女がパンツ一枚脱がされただけで恥ずかしがるなんて情けないわよ」
「黙り上がれ! これでも僕は元々男の体で転生したんだ! こっちは下着も全部取られてピチピチのドレス一枚なんだぞ!? 下半身がスースーするし、恥ずかしいに決まってるだろ!」
ブルームママさんに向けて中指を立てて叫び声をあげる。が、したり顔の彼女に「そんなに大声を出すと他の人から注目を浴びるわよ? 黙っていれば本当に綺麗な生娘なのに」と煽られ、僕は歯を食いしばりながら仕立て屋を後にした。
「このドレスの前掛け。生地は一級品なのに薄いし歩く度にヒラヒラ浮かぶせいか、横から見られれば太ももが丸見えだな……」
等と呟き、僕はダストのとっつぁんが待つシガーラウンジへ向かう。
絵画が掲げられた薄暗い廊下を進んでいくと、様々な種族の紳士や淑女から注目を浴びたが、僕はブルームママさんが言っていた言葉を思い出して沈黙を貫き淑女を装う。しかし、シガーラウンジの店舗前に少しずつ近づく度、入店を拒まれた時の事が脳裏を過った。
その後、仕立て屋へ案内してくれた死霊族のセキュリティ係の前で立ち止まった僕は、何度か咳払いをして扉を開けてもらうよう頼む。が、どうやらセキュリティ係の男は、淑女に扮した僕が仕立て屋まで案内した女学生と同人物だと気づいていなかったらしく、彼は穏やかな口調と丁寧なお辞儀を披露すると何事もなかったように入店を許可して扉を開けてくれた。
「顔パスってマジかよ。本当にドレスコードって面倒だな。ちょっと高そうなドレスを着てるだけで僕の中身は頭が空っぽな清楚ビッチなんだぞ? 僕が殺人の依頼を請け負った暗殺者だったら、どうするんだろうな……」
文句を垂れながらドレスからハミ出た横乳を調整していると、鼻の下を伸ばしたラウンジのボーイが駆け寄ってきて『いらっしゃいませ。お席は決まっておりますか?』と尋ねてきた。
「はい。あ、いいえ。今日は初めての来店で、僕……じゃなくって私の相手が先にラウンジで待っているんです。ペストマスクで顔を覆った体格の良い紳士なんですが……」
「かしこまりました。お相手様は専用のVIPルームで待っているはずです。ご案内いたしますので足元にお気をつけてください」
どうやら身なりが違うだけで本当に対応まで変わってくるらしい。シガーラウンジのボーイの対応は周囲のソファで葉巻を咥える男共よりも紳士らしさを感じさせるし、僕が先の高いヒールを履いている事やドレスの左右にスリットが入れられている事にも気づいているらしく、ドレスが捲れて肌が露出しないよう気遣いながら専用のVIPルームまで案内してくれた。
それからVIPルームに入った僕は、ダストのとっつぁんを再び驚かそうと思って別人を装い、彼が背中を預けてくつろぐソファへと近づく。しかし、赤の他人に扮して彼の真横に座り足を組んだ直後、とっつぁんは僕の背中に腕を回すや否や当然のように尻を撫で回してきた。
「あ、あの……お尻に手が……」
「安心してくれ。貴女のような魅力的で素晴らしい女性を守るためには、こうする方が自然だと思ったのだ。葉巻の煙で周りが見えていないと思うだろうが、目を凝らして周囲を見てみなさい」
どうやらダストのとっつぁんは本気で僕を一般通過淑女だと勘違いしているらしい。彼の周囲から漂う酒の香りからすると、とっつぁんは僕がラウンジに戻るまで何杯も酒を煽っていたようだ。
とっつぁんを揶揄えるのは願ってもない展開だが、このままではガチで女だと勘違いされそうだし、最悪の場合ガルガンチュアの何処かの部屋に連れ込まれて二、三発ほど抜かなきゃならなくなる。
等と頬を赤らめながらボーイが持ってきたシャンパングラスに手を伸ばした直後、部屋に立ち込める煙の奥へと視線を遣ると目を疑うような事が起きていた。
「こ、こんなところで……」
「盛りのついた紳士と淑女だな。奴らの汚らしい喘ぎ声がここまで聞こえてくるわい。このVIPルームは会員の中でも上級会員のみが入室を許される貴族の社交場だ。貴女のような麗しき淑女が独りで居れば、勘違いした紳士が襲い掛かるかもしれん」
視線の先にあるカーテンで遮られた個室のような空間。その空間から漏れ出る聞き慣れた喘ぎ声は、間違いなく盛りのついた男と女が裸でプロレスをしている時に発する獣のような叫び声だった。
個室から漏れ出る喘ぎ声と揺れ続けるカーテンに目を凝らす。が、尻を撫で回した彼の指先が背中を辿って胸を揉み始めた瞬間、僕は鬼気迫りながら彼を睨み付けた。
「変態紳士様。そんなに私の胸が気になりますか?」
「当然だ。これ程までに男を誑かせる女性とは出会った事がないからな」
「あらあら。そんなに素敵な事を言われたのは初めてです。減りもしないので幾らでも揉んで頂いて構いませんよ」
「そうか。それなら――」
決めた。とっつぁんから受け取った小切手には信じられないような金額を記入してやる。そんで、個室に連れて行かれたらコイツの穴にアクセルJrをプラグインしてやらねえとダメだな――。




