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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第5章 青少年期 九龍城砦黒議会 完結編

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02「黒と朱」


「アクセル。あの女は誰よ。貴方、四人も彼女が居るのに他の女にまで手を出したの?」

「馬鹿言ってんじゃねえよ。僕はロータスさんやリベット、エイダさんやノアの気持ちを裏切るつもりなんて毛頭ない。あの黒髪の貧乳痴女は霊具パンプキンだ」


 等と告げた後、アクセルは深い藍色の下着を着た少女が、霊具パンプキンが霊力の粒子を結合させて作り出した姿であると説明する。しかし、パンプキンは「ジャックオー様の発言に間違いありません。彼は私に下着を着て地下室で待機するよう命令してくださりました」と答え、リリスに誤解を招き、地下室の中央に存在する作業台に備えられた椅子へと座った。


「凄いわね……霊具自身に意識があるのも驚いたけど、貴方が霊具に『下着姿で居ろ』って命令してたのも驚いたわ。貴方っておっぱいがあれば霊具も恋愛対象に入るの?」

「おい、僕を特殊な性癖を持った『対物性愛者』と思うな。それより改造機関義手に差し込んだAIのチップを別のチップに差し替えるぞ。今すぐ用意できるのはビショップの『脳核』から抽出したAIやクラリスっていう女性型のAI、後は感情の起伏が激しいクラックヘッドのチップぐらいだ。オススメはビショップだけど、どれが良い――」


 アクセルが尋ねた途端、リリスは『クラックヘッド!』と即答して、手のひらに挿入されたチップを強引に引き抜き、クラックヘッドという文字が描かれたチップを義手の機関へと挿入した。


「本当にクラックヘッドのチップで良いのか? ビショップの方が優秀だと思うけど……」

「べ、別に優秀じゃなくても良いわよ。人工知能って事は色々と学習させられるんでしょ? それなら誰だって一緒じゃない!」


「リリス。今は朝なんだ。あんまり大声で叫ぶな」

「っと……そうでした。そうでした。ねえアクセル。一生のお願いがあるから聞いてくれない!? 闘技大会にはレイヴンウッド師範も観戦するようなの! だから、有り余っている結晶や石で良いから、今から用意してくれると物凄く助かる!」


 リリスがそう尋ねてきたが、アクセルは一呼吸おいて作業椅子に座り込む。


(悩みどころだ。リリスには申し訳ないけど、僕も今日の試合のために色々と準備をしている途中だ。それに傲慢の加護は体に馴染んできたが、傲慢の魔眼に限っては馴染まないままだ。少しでも休んで右眼の真っ暗な視界を取り戻したい。これからリリスに鉱石や結晶を渡すとなる自分の時間がなくなる……)


 等と考えていたアクセルだったが、リリスが改造機関義手やクラックヘッドのAIを気に入っている姿を見た直後、彼は彼女のために時間を作ることを選んだ。


「まあいいや。今から黒髪の痴女と一緒に色んな鉱石や結晶を用意するから、適当に座って待ってて」

「本当に!? ありがとう!」

「ジャックオー様。私は痴女ではありません……霊具パンプキンです……訂正してください」

 

(リリスはクリスマスプレゼントを受け取った子供のようにはしゃぎ回っている。彼女は少し強引なヤツだが、レンウィルの様に無作法じゃない。それに、クラックヘッドとビショップから送られてきたデータを確認する限り、安全な人物であるのは間違いない。もちろん、そう確証できたのは、ルミエルさんが便利屋ハンドマンにレイヴンウッドさんと彼女だけを連れてやって来たからだ。恐らく僕の予想が当たっていれば、他の時間軸のリリスとレイヴンウッドさんは、ルミエルさんから絶対的な信頼を得ているのだろう。本来ならば敵は身近に置いておく方がいいらしいが、僕の死が関与している明日に関しては、リリスとレイヴンウッドさんは何も関与していないに違いない。つまり……その逆もまた然りだ)


 その後、アクセルと深い藍色の下着を身に着けたパンプキンは、別の部屋に保管していた鉱石や結晶が入った木箱を部屋へと運び作業台の上に並べ始めた。


「この青く光っているのが浄化石。そして液体が入った容器に入れられた石が焦土石。そんでこっちが――」

「ああ、もう! 石なんかどれも一緒で見分けがつかないわ! とにかく明日の闘技大会では優秀な成績を残したいの! もっと簡単に石を見分ける方法ってないの!?」


(先ほどの考えを撤回する。コイツは石の区別もつかない大馬鹿野郎だ。が、水上都市メッシーナ帝国は、常に新鮮な空気が吸えていて水質が良い場所なんだろう。石の区別がつかなくても仕方がない。一度は行ってみたいが、アンクルシティを離れるわけにはいかない)


「簡単に見分けがつく方法なら幾らでもあるよ……」

「それがあるなら早く言いなさいよ! こっちはお客様よ! 丁重にもてなしなさい!」


「……ったく、これだから地上の人間は嫌いなんだよ。どうせバッグパックの中に入った物だって金貨なんだろ?」

「中身も見てないのに良く分かったわね。あっそ……私はアンクルシティの住人の事が好きになったけど?」


 彼女がそう告げた直後、アクセルは彼女が告げた言葉が信じられず、リリスが鉱石や結晶に注目している間にパンプキンの背後に忍び寄り、彼女の尻を何度も撫で回して鷲掴みにする。するとパンプキンはアクセルの耳に唇を近づけ『ジャックオー様。目の前にリリス様が居ます。それでも構わないのであれば、貴方様の腐りきった性欲を満たすために最大限の努力をします。どうなさいますか?』と囁き、自身の尻を鷲掴みした彼の手のひらに指を絡めた。


(は? 今なんつった? 地上の人間がアンクルシティの事を好きになっただと? そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ない。というより……この痴女パンプキン。本当に霊力の粒子で肉体を作ったんだな。触り心地が本物そっくりだ)


「もういい。とにかく見分けがつく方法を教えてやる。これらの石は全て『錬成された物』なんだ」

「それぐらい分かってるわよ。さっき説明してくれたじゃない。どうやって見分けがつくのか教えなさいよ!」


(ダメだ。気持ちを抑えろアクセル。相手は同年代の女の子だ。ぶん殴っちゃダメ。腹パンや肩パン、顔面に拳を叩きつけてもダメだ。ここは便利屋ハンドマンのオーナーとしての余裕を見せる必要がある。深呼吸だ深呼吸。頭の中でアルファベットを数えるんだ)


「リリス。お前はレイヴンウッドさんが認める帝国錬金術師なんだよな? それって水上都市メッシーナ帝国では凄いことなんだろ?」

「ま、まあね。師範は才能のある人しか弟子にしない人物だし、彼女は水上都市メッシーナ帝国に存在する賢者の錬金術師だから。それがどうしたっていうのよ」


「じゃあ、賢者の錬金術師に育てられたお前は、いずれレイヴンウッドさんと肩を並べるほどの存在になるはずだ」

「何言ってんのよ!? そんなの無理に決まってるわ。師範は水上都市メッシーナ帝国の帝国錬金術師の中でも三本指に入る程の実力を持った聡明な方よ! そんな存在に私がなれると思ってんの?」


「今のままならなれるとは思えない。数年前の僕がベネディクトさんの背中を追っていたように、今のリリスはレイヴンウッドさんの背中を追い続けてる。だけど、お前は巫蠱(ふこ)の牢獄を生き残った錬金術師だ。違うか?」

「……確かに生き残ったわよ。だけど、それはクラックヘッドが助けてくれたお陰だから」


(今のリリスの姿は、ベネディクトさんを追っかけていた頃の僕と良く似ている。僕はいつだってベネディクトさんに憧れていた。だけど、憧れるだけじゃいつになっても追いつけない)


「話が逸れたな。錬成鉱石を見分ける方法は簡単だよ」


 と告げた後、彼は作業台に設置された錬金術の陣が描かれた卓上へと鉱石を持っていく。錬成陣の上に鉱石を置くと、錬成鉱石は色鮮やかに輝き始めた途端、それぞれの鉱石が宿したエネルギーを纏い始めた。


「僕は錬金術がマトモに使えない技術者(エンジニア)だ。だけど、この簡単な術式が描かれた錬成陣の上に鉱石を置くと、鉱石は勝手にエネルギーを纏ってくれる。浄化石はガスを放出したり、焦土石は燃え盛ったりする。そして浮遊石は浮かんだりするし、翡翠(ひすい)石は草の香りを漂わせるんだ」


 アクセルが石や結晶を並び替えて説明をしていると、リリスはバツが悪そうにして「ごめんね、さっきの発言は取り消すわ」と呟いた。


「別に気にしてないよ。それに僕も言い過ぎた。僕はレイヴンウッドさんの事をよく知らない。リリスやシルヴァルト、そしてレンウィルがどんな努力をしてきたのかも知らないし、僕は水上都市メッシーナ帝国がどんな場所だかもよく分かっていない」

「そうよね。でも、どうして私がレイヴンウッド師範と肩を並べられる存在になれると思ったの?」


「ただの勘だよ。リリスが賢者の錬金術師に育てられたように、僕も最高の師匠の元で仕事をしてきた。その人の仕事ぶりを見ていると『人の才能を見抜く感覚』を培うことができたんだ」

「その師匠ってイザベラさんの事よね? 多分、彼女は今頃地上で……」


「何も言わなくていいよ。イザベラ師匠が(むくろ)の教団に所属してようとしてなかろうと、僕は師匠の活動を全面的に応援する。何せ、彼女にはヤバい量の借金をしてるからね」

「え!? 貴方って債務者だったの!? 私はてっきり、貴方が便利屋ハンドマンのオーナーをしているから、お金持ちだと思ってたのに……」


「お金持ちには変わらないよ。だけど、僕は未だに師匠に借金の全額を払い切れてない。だから、僕はコツコツと師匠に借金を返すためのお金を貯めてるんだ。意外だったか?」


 と彼が尋ねると、リリスは腹を抱えて笑った。


「あんたは馬鹿を通り越した大馬鹿者よ。私は馬鹿が大嫌いなの。だけど、大馬鹿者は嫌いじゃないわ」

「大馬鹿者で悪かったな。これでも僕は今日、死を迎える予定なんだ。錬成鉱石はタダで……いや、今回は少しだけ割引きして売らせてもらうよ。お前は将来、必ずレイヴンウッドさんと肩を並べる錬金術師になる。少しでも恩を売っておけば良いことがあるかもしれないからな」


 等と言いつつも、アクセルはリリスから鉱石と同じ価値の分だけ金貨を頂き彼女を屋敷の外まで見送る。すると、屋敷の前に賢者の錬金術師ヴァレリア・レイヴンウッドがレンウィルとシルヴァルトを引き連れ現れた。


 リリスがシルヴァルトやレンウィルの元へと駆け寄っていくと、アクセルが改造機関義手に施した機能を二人に見せつけ、誇らしげに笑みを浮かべた。


「ジャックオーさん。こんな明け方まで私の部下の面倒を見てくれてありがとうございます」

「ああ、レイヴンウッドさん。気にしなくて良いですよ」


 リリスがレンウィルとシルヴァルトに改造機関義手、石や結晶が詰まったバッグパックを見せつけていると、レイヴンウッドがアクセルの元にやって来た。


「九龍城砦で闘技大会が行われるまで時間がありません。リリスが長話をしていたようで、貴方も準備が整っていないでしょう。ここには私を含めた四人の錬金術師がいます。何か手伝える事はありませんか?」

「レイヴンウッドさん、心配してくださってありがとうございます。試合の開始時間は正午からです。それまでには準備を終えてみせるので、貴女方の手伝いは必要ありませんよ」


 とアクセルが答えると、彼女は身に纏ったローブを腕で払い除けた後、特殊な錬成陣が描かれた錬成工芸品(アーティファクト)を胸ポケットから取り出し彼に差し出した。


「ジャックオーさん。この錬成陣が彫られた錬成工芸品(アーティファクト)は、賢者の錬金術師である私がアンクルシティで購入した素材で作ったバッジ型のタリスマンです。貴方にはパンプキンという心強い霊具があるので必要ないと思いますが、是非とも受け取ってください」


 アクセルが受け取ったバッジ型のタリスマンには、錬金術の術式効果を高める錬成陣が描かれており、彼女はアクセルが臨界操術を発動できる程の存在であると確信したと同時に闘技大会でタリスマンが役に立つだろうと告げた。


「ルミエル様の御言葉が真実であれば、今日貴方は死ぬ運命にあります。このタリスマンは運命を退(しりぞ)けるための御守りだと思っていてください。バッジを着けているだけで僅かですが、錬金術の術式効果が高まります」


 レイヴンウッドは続けて彼が製作した改造機関義手の素晴らしさを語った。


「リリスの話によると、貴方が彼女のために製作した改造機関義手とやらは、リリスが予選通過試合で発動した『冥界転術』の凄まじい威力にも耐えうる耐久度を誇っていたようなのです」

「冥界転術……それは確か、魔術と錬金術を組み合わせた術式のことですね? 彼女が発動した術式はそんなに威力が高かったんですか?」


「ジャックオーさん。冥界転術は魔術と錬金術を組み合わせる事で発動できる術式です。が、その術式は錬金術に長けた能力を持つホムンクルスや才能のある錬金術師にしか発動できない術式と思ってくれて構いません。たとえ素人が術式の詠唱や魔術陣、錬成陣を組み合わせた術式の陣を描いて発動を試みたとしても、術式は不発に終わることが多いです」


(どうやらレイヴンウッドさんは冥界転術に詳しいようだ。リリスが発動した『閻魔爆撃(エンマ)』と呼ばれる冥界転術の一種は物凄く危険な術式だったのか。となると便利屋ハンドマンに地上のお客さんがやって来たのも納得できる)


 等とアクセルが考えていると、レイヴンウッドはリリスやシルヴァルト、レンウィルを連れて屋敷から去っていった。


 その後、アクセルは屋敷の地下室へと戻り、ハンニバルから受けた報告を確認する。


「……ありがとう、ハンニバル。キミやブロッサム、闘技大会に出場しない機甲骸(ボット)たちは、引き続き便利屋ハンドマンを襲撃しようとした勢力を秘密裏に潰していけ。反政府組織に属している人間や魔族、年齢や性別は問わないから遠慮なく殺していけ」

「了解しました、我が主アクセル様」


 等と告げた後、アクセルは朝食を摂るために食堂へと出向くが、そこにはピンク色の下着を着たまま食事を摂るロータスの姿や水色の下着に身を包んだエイダ、そして車椅子に黄色いコートを掛けた露出の際どいビキニアーマーを装備したノアの姿があった。


 下着姿のまま自身の魅力をひけらかす彼女たちを一瞥(いちべつ)した後、彼は愕然としたまま手のひらで眼を覆って天を仰いだ。


「ノアは……コートがあるからビキニアーマーでも構わないか。だけど、ローさんとエイダさん。どうして下着姿のまま食事を摂っているんですか?」

「おはよう、アクセル。ここは貴方の屋敷の中よ? 私がどんな格好で居ようと構わないじゃない。それにノアだってビキニアーマーのまま食事を摂っているのよ?」

「アクセル先輩! 聞いてください! あのピンク頭の女、私が下着姿で食事を摂っているからって服を脱ぎ出したんですよ!? ロータスさんは明らかに私に向けて宣戦布告しています!」


(どいつもこいつも厄介な奴ばっかりだな。ここは無視してリベットを起こしに行こう……)


 アクセルはリベットを起こすために、屋敷の中にある談話室へと入室する。そしてリベットを食堂へと連れて行った彼は、下着姿のまま食事を摂るロータスやエイダ、車椅子に黄色いコートを掛けた露出の際どいビキニアーマーを装備したノアが睨み合う姿を目にして、再び愕然としたまま天を仰いだ。


 その後、アクセルはリベットに事情を説明したのだが、藍色の下着を身に付けた黒髪の痴女パンプキンが食堂に現れ、事態は一変した。


「ジャックオー様。お食事中で申し訳ございませんが、ロータス様々やリベット様、エイダ様やノア様に尋ねたい事がございます――」


 と語り出したパンプキンは、アクセルが地下室で言い放った『自身の体を使った下の処理をするべきか?』と彼女たちに尋ねる。すると食堂は一瞬で魔界と化していき、ロータスやリベット、エイダやノアはアクセルに詰め寄った後、彼の瞳を凝視しながら『アクセル、遺言を残しなさい』と告げる。


 そして彼女たちは続けて『お仕置きタイム!』と叫び出し、悪魔たちは彼が下半身に装着した呪いの貞操帯の効果を最大限に高めて、アクセルの睾丸を破壊した。

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