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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第3章 青少年期 九龍城砦黒議会 指輪争奪戦編

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16「三人の掌握者」


「パンプキン。脚部に備えられた飛行装置の放出力を利用して蹴りを入れる。錬成反応を利用したエネルギーと聖赤結晶のエネルギーを脚部の装甲に回せ!」

「了解しました。機械鎧に内蔵された聖赤結晶238のエネルギー、焦土石と浄化石の錬成反応を利用して脚力の向上に充てます」


 ガントレットの一部と化したパンプキンが指示を受け取った直後、黒い機械鎧の各所に備わったオレンジ色の配管から聖赤結晶238のエネルギーが流れていき、アクセルが装備した機械鎧の配管はオレンジ色に発光した。脚部へと充填された聖赤結晶238のエネルギーは、彼の指示を待つように明滅を繰り返している。


 アクセルはエイダとグレースをショッピングモールの回廊へと向かわせた後、襲いかかってくる碧血衛(へきけつえい)の勢力を相手に特殊包丁の峰打ちで次々と気絶させていく。彼が一人で戦い続けたのは、グレースやエイダに戦うことを強制させたくなかったからであった。


(二人とも無事に合流してショッピングモールの回廊に向かった頃かな。騙して悪いけど、二人と一緒に行動するとなると『ウォーカー氏』や『アイツ』との戦いに集中できない。エイダさんやグレースなら『二人』を簡単に殺せるだろうが、今回ばかりは殺すつもりはない。特にウォーカー氏に限っては殺すことの方が危険だと感じる。ヤツを殺してしまえばウォーカー氏が知り得た情報や『例の写真』が事実であると新聞記者に認めてしまうようなものだ。なんとかしてウォーカー氏を説得して写真の公表を控えさせないとマズイ――)


 等と考えながら、アクセルは上級霊術『太極図』の適応範囲を更に0.5倍の1.5メートルに引き下げ、出力効果を2倍に引き上げるようパンプキンに指示を送る。その直後、彼の元へと改良型のパワードスーツの機能を過信した碧血衛(へきけつえい)が駆け抜けた。


「アクセルさん。よくも私の同僚を全滅させましたね!」

「あー誰だっけ、お前……」


 彼の元へと駆け抜けた同年代の青年は、アクセルが知る(ワン)小龍(ショウロン)と同様に九龍城砦で別の棟の副リーダーを務める呪術師であった。が、アクセルが倒した他の碧血衛(へきけつえい)の様に、彼はベアリング王都から流用されて九龍城砦の技術開発部門によって改良が施された『外骨格型パワードスーツ』を身に纏っている。


 胸には強力な衝撃を吸収するタクティカルベストが装備されており、脚部には接近戦を想定した呪力や霊力を溜め込む機械的なブーツを履かれてある。青年が体表に装備していた外骨格パワードスーツ自体は、ベアリング王都の兵士が何世代も前に利用していた物であったが、対魔導骸(アーカム)用に作られた大作でもあった。


 しかし、アクセルはそれらに関心を抱かず、青年が背負っていた『小型のバッグパック』に意識を向けて青年の攻撃を避け続ける。本来ならば霊術師と呪術師という立場では、接近戦に長けた能力を持つ呪術師の方が圧倒的に有利であった。だが、アクセルは式神を多用して遠距離を保ちながら戦うような並の霊術師ではない。彼は接近戦を得意とした呪術師と錬金術師に寄りがちな霊術師でありながら、式神術式の代わりに召喚術式が行える中距離型の霊術師。


 それ故、外骨格パワードスーツを装備した青年はアクセルの凄まじい機動力に追いつけず、逆に外骨格パワードスーツが足手纏いになって本来の戦い方を発揮できないでいた。


 それから数秒ほど経った頃、アクセルはようやく目の前の青年の名前を思い出し――。


「ああ、思い出した。お前、三龍棟を管轄している碧血衛(へきけつえい)の副リーダーだよな。名前は確か……」

「はぁっ……はぁっ……やっと思い出してくれたのか……そうだ。私の名前は――」

 

 息も絶え絶えな青年が立ち止まった瞬間、アクセルは浮遊装置と飛行装置の緩急を利用して青年の背後に回り込み上段蹴りを行う。すると、脚部へと充填された聖赤結晶238のエネルギーが光り輝き出した後、衝撃波を生んで青年の後頭部に高威力の上段蹴りを放った。


「騙して悪いが、本当は思い出せなかった! それよりちょっとそのバッグパックが気になる。パワードスーツの動力源が積まれているんだろうけど妙に小型過ぎるんだよな。九龍城砦の技術開発部門が開発した最新技術なんだろうけど、パワードスーツの大きさに全く釣り合ってないと僕は思う。バッグパックに積まれた動力源は何なんだ?」


 彼は青年の名前を思い出せなかった。


 青年をひと蹴りで気絶させた後、アクセルは小型の特殊包丁を器用に用いて青年からバッグパックを剥ぎ取る。その後、彼はガントレットから工具を取り出し、バッグパックの中身を見るため、その場でバッグパックを分解して構造を確かめ始めた。


 バッグパックに積まれた旧型と互換性のある浮遊装置と飛行装置といった外装をバラすと、電子制御装置を取り外してパワードスーツの動力源である錬成鉱石を取り外す。それから、アクセルは自身の予測が正しいのか確かめるため、ガントレットに備えられた分析装置で鉱石に蓄えられた物質が何であるのか分析した。


 細かく砕かれた錬成鉱石がガントレットに備えられた分析装置に格納された直後、パンプキンは「ジャックオー様。鉱石の分析が終わりました。データをホログラムにて投影します」と告げ、鉱石に含まれた物質をホログラムで映し出す。


「なるほど。僕たちが嵌めた指輪の鉱石より大きい鉱石をバッグパックに積載して、その錬成鉱石に呪力と霊力を溜め込んでいたのか。にしても……随分と品質の悪い鉱石だな。かなり不純物が入り混じってやがる。錬成鉱石を再錬成したのは誰なんだ? 動力源がこれじゃあ、碧血衛(へきけつえい)がパワードスーツをマトモに動かせるワケがないじゃん。峻宇(ジュンユ)爺さん、パトロンやベアリング王都に住む貴族に技術を披露したいからってセコい真似ばかりしやがって。もうちょっとマシな錬成鉱石を使わせてやれよ。それとも九龍城砦の技術開発部門の技術力がこの程度だったって事なのか?」


 杜撰な改良を施された碧血衛の装備に落胆しつつも、アクセルはバッグパックを更に分解し続けて錬成鉱石の品質の悪さを愚痴る。そして、彼は石ころサイズの錬成鉱石を上空に投げた後、落ちてくる鉱石に向けて霊爆乱舞を放った。だが、霊力乱舞は一撃しか当たらず霊力の粒子へと霧散してしまう。しかし、その直後、彼の近くへ落ちてきた石ころサイズの錬成鉱石が不穏な明滅を繰り返した。


(やべっ……何か嫌な予感がするな。指輪の呪具で50人分の呪力と霊力が溜められるんだよな。だとすると、石ころサイズの呪力量と霊力量は相当な量じゃあねえのか?)


 彼は万が一の事を思って錬成鉱石に後天性個性の磁力操作で磁力を付与させ、空中に浮かんだ鉱石を斥力と引力の結界で封じ込める。その後、彼は蘇った古代生物に危険が及ばぬよう錬成鉱石を上空に押し飛ばした。


「あの輝き方は相当マズイな。もしかしら――」


 様子を伺いつつも錬成鉱石の行く末を確かめていた瞬間、上空に押し飛ばした鉱石は高威力の呪力と霊力の拡散爆発を繰り返し、古代生物の回廊に衝撃波を行き渡らせた。


「斥力の結界と引力の結界で包み込んだのに、それでもあんな威力の爆発が起こるのか!? だとすると、他の碧血衛(へきけつえい)が背負ったバッグパックにも同じものが搭載されているはずだよな。こりゃあ予選通過試合どころじゃあねえぞ」


 アクセルは気絶させた碧血衛(へきけつえい)の一人一人からバッグパックを奪い取り、一箇所に置いて結界の出力を増加させた引力と斥力の結界を張る。その後、彼は聖力核と化した副腎と脳内から化学物質を放出させ、気絶した碧血衛(へきけつえい)の集団を一人ずつショッピングモールの回廊へと運び始めた。


 気絶させた碧血衛の勢力を運ぶ道中、彼は偶然にもマクスウェルやセリナと出会う。が、事態を重く見たアクセルは二人を無視してショッピングモールの回廊と古代生物の回廊を往復し続けた。すると、彼のただならぬ様子を不思議に思ったセリナとマクスウェルは、アクセルの機動力に及ばないまでにもショッピングモールの回廊へと戻り始める。


「エイダさん、グレース。緊急事態だ!」

「お帰りなさい、アクセル先輩! 遅いんで心配……え? どうして碧血衛(へきけつえい)の方々を運んできたのですか!? それにこんなにも多くの……」

「アクセルさん! セリナさんが部下の方々にアクセルさん宛てに伝言を残していきましたよ!」


「えーっと。エイダさん。碧血衛(へきけつえい)の人を運んできたのは、彼らが装備していたパワードスーツに重大な欠陥、いや、もういいや。ハッキリ言わせてもらう。彼らが背負ったバッグパックには爆発物が仕込まれてあった。峻宇(ジュンユ)爺さんはこの事を知らないと思っている……多分だけどね。それとグレースさん、セリナさんが残した伝言って何なの?」

「ば、爆弾ですか!?」

「えーっと。とても言いにくいんですが……セリナさんが『マクスウェル』という方と一緒に貴方を探しているらしいです。その『理由』が『理由』で……」


 アクセルはエイダに「ちょっと厄介な爆弾だ。威力は直径数十メートルと考えた方が良い」と告げ、グレースには「さっきマクスウェルさんとセリナさんを見かけたよ。それで、その理由って何なの?」と尋ねる。すると、グレースが話を続けようとした途端、彼の元に追いついたマクスウェルとセリナが彼女の代わりに答えた。


「さっきから何を慌てて走り回っているんだ、ジャックオー」

「っはぁ……っはぁ……待ってくれ、マクスウェル、ジャックオー。お主らの走る速度は速すぎる。そんなに生き急いでも良いことなんて何もないぞ……」

「やっと会えましたね、マクスウェルさん。それと元気になって良かったです、セリナさん」


「挨拶はどうでもいい。それより何で碧血衛(へきけつえい)を運んできているんだ。こいつらは(リウ)峻宇(ジュンユ)が用意した回廊の敵勢力だろ?」

「そうじゃぞ、ジャックオー。貴奴らは(わらわ)の部下を重症に追い込んだ敵勢力だ。何か訳ありなのか?」

「かなり訳アリです。一度しか話さないので、ここに居る方々はよく聞いてください。そしてここに居ない方々に伝えて下さい。碧血衛(へきけつえい)が背負った『バッグパック』の中には不純物が入り混じった錬成鉱石が積んであります。その錬成鉱石は僕らが指に嵌めた『指輪の呪具の錬成鉱石の劣化版』だと考えてください。そして、その劣化版の錬成鉱石は石ころサイズ程の大きさで、強い衝撃を与えると鉱石に溜められた膨大な呪力と霊力を解き放って爆発を引き起こします」


 アクセルが淡々と説明を続けると、セリナや彼女の部下たちの女性、マクスウェルの部下たちは額から汗を流し始めて『それって本当なの?』『爆発の威力は?』『残りの碧血衛(へきけつえい)の人数は?』『この事を他の勢力は知っているのか?』等と尋ね、事態が最悪である事を認識する。


「ウォーカー氏やデンパ君、劉翔(リウシャン)側の勢力がこの事実を知っているかは不明です」

「待て、ジャックオー。お前、ウォーカー側の勢力に劉翔(リウシャン)劉峻強(リウジュンチャン)が居るのを知っているんだな?」


 マクスウェルが尋ねると、アクセルは首を傾げながら「はい。何か問題でもありますか?」と聞き返した。


 神妙な面持ちのまま彼はセリナに視線を送った後、大きく溜息を吐いて「まあ……あれだ。お前って意外と根に持つタイプだろ?」と尋ねる。すると、アクセルはニヤリと下卑た笑みを浮かべて、「もしかして僕が『敵チームに加勢したデンパ君と劉翔(リウシャン)に復讐するかも』と思っていたんですか?」と言いながら、馬鹿笑いし始めた。


「あり得ませんよ! そんなこと! だってデンパ君は僕の友達ですよ? それに劉翔(リウシャン)はこの数年間で正当な対価を払ったはずです。僕が彼らを敵に回して何のメリットがあるんですか!?」

「……だとよ、セリナ。あんだけ必死こいて『掌握者の義務を――』と言ってた俺らが馬鹿みたいに思えるぜ」

「ジャックオー! 笑うでない! 掌握者というのは名誉ある立場なのだ! お主のように16歳で掌握者になった者は何処にもおらんのじゃ! (わらわ)は成人したばかりのお主が心配だから……」


「セリナさん、マクスウェルさん。二人とも僕を掌握者だと認めてくれて有難うございます。確かに心の中では本の少しだけ魔族に対する差別的な意識があります。それはもしかしたら……ベネディクトさんを憧れてしまった『アクセル』という部分が残っているからなのかもしれません」

「気にするな。俺だってエルフ族や魔術師は嫌いだ。お前ほど魔族嫌いじゃあないがな」

(わらわ)も錬金術師が嫌いじゃ。亜人族は(わらわ)たち魔族とは違って錬金術を学んで人と共存する道を選んでおるからな。勿論、(わらわ)も人間と共存する道を選んだが魔族という誇りを捨てた訳ではない。待て、ジャックオー。お主はこの回廊に転移する際にもう一人の部下が居たはずじゃろ。そいつは何処に行ったのじゃ?」


 セリナはモールの周囲に居ない人物の存在に気づき、アクセルに彼女の所在を尋ねる。すると彼は「多分、ユズハ先生の事ですよね? ユズハ先生なら僕の代わりにデンパ君をシメに行ったんだと思います」と告げる。


 アクセルとユズハは回廊に転移して十字貿易に加勢した直後、既にウォーカー氏の勢力に劉峻強(リウジュンチャン)と似た呪力を肉体に宿した劉翔(リウシャン)が居るのを見抜いていた。しかし、ユズハはその事に一切触れず、劉峻強(リウジュンチャン)に単独での行動を許した。


「まあ寛容なユズハ先生のことですから、そんなに心配しなくても良いですよ。それより僕たちは回廊に散らばった碧血衛(へきけつえい)を探し出しましょう。彼らを見つけたら『バッグパックの中にある錬成鉱石に異常がある』と伝えてください。もしそれでも納得してくれない場合は……気絶させてでもバッグパックを奪ってください」

「待て、ジャックオー。碧血衛(へきけつえい)から奪ったバッグパックはどうするんだ? 衝撃を与えたら爆発するんだろ?」


 アクセルは錬成鉱石が爆発した直前の出来事を思い出し、自身の行動が原因で鉱石が爆発した事を告白する。


「マクスウェルさん。恐らく、強い衝撃だけじゃなく『霊力や呪力』が関係しているんだと思います。あの鉱石は謂わば『霊力や呪力という水が満タンに入ったコップ』のような物です。強い霊力や呪力を与えさえしなければ爆発しません……が、回収したバッグパックの事は考えてませんでした。ごめんなさい」


 等と呟きながら頭を抱え、アクセルは塞ぎ込んでしまう。しかし、それを見た二人の掌握者と二人のホムンクルスは、彼の背中を押す様に『それなら私たちがバッグパックを守る』と告げ、彼をバッグパックの回収係に任せた。

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