表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第3章 青少年期 九龍城砦黒議会 指輪争奪戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/276

03「巫蠱の牢獄」

 

 九龍城砦に存在する壱龍棟巫蠱(ふこ)の牢獄第三回廊。

 そこには朽ちた試合参加者の亡骸や兵馬俑、アンデットの最上級魔物、吸血の究極のヴァンパイア・ノーライフキング等が回廊を飛び回っていた。

 

 試合参加者が朽ち果ててしまった原因は、魔力に呼応して動き出す幾百もの兵馬俑(へいばよう)という石像による攻撃だった。彼らは体内に存在する水銀を動力源にして動いており、周囲に漂う魔力を察知して剣を振るう亡者であった。

 

 命を持たずして生まれた兵馬俑(へいばよう)は、回廊に立ち入った魔力を保持する存在へと剣を振るっていく。どの兵馬俑も一撃で頭部を吹っ飛ばさなければ機能を停止せず、運良く頭を吹っ飛ばしたとしても動く個体もいた。


 彼らが敵意を向ける存在は、体内の何処かに魔力核を保持していた。


「【丸太小屋】を持ってきて正解だったぜ。このホームランバットが無きゃあ、敵さんを纏めてぶっ飛ばせなかったからな」

「勘違いするな、クラックヘッド。兵馬俑が私たちを襲って来なかったのは、私たちの体に魔力核が存在しないからだ。ノーライフキングやアンデットたちは容赦なく私たちを襲ってくる」


「それぐらい分かってるけどよ……その魔力核? それが兵馬俑の目的なのか?」

「お前は何も考えずに戦っていたんだな。私とお前が同時に回廊に転移呪術で転移した時、咄嗟に指輪の呪具を捨てたのを覚えているか?」


 ビショップは呆れながらもクラックヘッドに当時の事を訊ねる。するとクラックヘッドは額に指をおきながらも亡骸とアンデットの上を歩き始め、一ヶ所に集めた指輪の呪具を見つめて彼の言葉を思い出した。


「確かにそんなことを言っていた気がするな。咄嗟に言われたから俺も取り合えず捨てたけどよ、あれってやっぱり意味があったのか?」

「大有りだ。我々のような機甲骸(ボット)は魔力や霊力、呪力を内蔵して作られてはいない存在だ。その私たちが強力な呪具を持っていれば、兵馬俑やアンデットの標的にされていただろう。だから私はお前に指輪を捨てさせたんだ」

 

 変形機構式機械鞄を持った機甲骸(ボット)と、木製のホームランバット【丸太小屋】を床に引き摺る機甲骸(ボット)。彼らは自分達が試合参加者たちから集めた十数個の指輪を置いた箇所に集まり、変形機構式機械鞄を持っていた機甲骸(ボット)は機械鞄を床に置いた。


「なあ、ビショップ。アクセル様と連絡は取れたか?」


 試合参加者やノーライフキングの肉片がこびり付いたホームランバットを肩に担ぎ、紙袋の覆面で顔を覆った機甲骸(ボット)は相方に尋ねる。

 

 紙袋で顔を覆った機甲骸(ボット)の名は、中毒者(クラックヘッド)。彼は自身が機甲手首(ハンズマン)という機械である頃から自我を持ったAIであり、アクセルが【七つの機甲骸(セブンス・ボット)】を作る際に機甲手首(ハンズマン)の中から選び抜かれて機甲骸(ボット)の肉体を与えられた。


「おい。無視すんなよ、ビショッ――」

「黙れってくれ。もう一度アームウォーマーで連絡が取れないか確かめてみる。お前は回廊の死体の中から指輪が落ちていないか確かめていろ」


 クラックヘッドは、その場でしゃがみ込んだ相方に「そんなに怒鳴らなくても良いだろ……」と呟き、回廊に転がり果てた試合参加者の死体から指輪を拾い上げる。


 変形機構式機械鞄を回廊に置き、アームウォーマーを何度も操作して連絡を試みるのは、アクセルから指導者(ビショップ)と名付けられた機甲骸(ボット)

 

 彼はダスト軍の治安維持部隊が装備する軍服に身を包んでおり、プレートキャリアにはマガジンや無線機、錬成鉱石で作られたサバイバルナイフが収められている。ベルトにはホルスターやポーチ類などが装備されており、アクセルが愛用していた紫外線照射装置を圧縮した手投げ弾や閃光弾、戦況に合わせたあらゆる武具等の姿もあった。


 そんな中、ビショップはあらゆる手段を用いて、アクセルに通信を試みる。彼から支給されたプロトタイプのアームウォーマーやベルトに装備された無線機、ビショップの体内に存在する無線機能を用いて彼に連絡を取ったが、そのどれもが失敗に終わった。


「クラックヘッド。指輪の回収はどうでもいい。お前に試して欲しいことがある」

「なんだよ。結局アクセル様とは連絡が取れなかったのか?」


「アームウォーマーの通信機能や無線機、機甲骸(ボット)の通信機能を使っても連絡が取れなかった。だけどまだ試していない事がひとつだけある」

「あー。指輪の通信機能か。それをやってくれって事か?」


 クラックヘッドは着ていたMAジャケットのポケットに指先を忍び込ませ、ポケットの中から自分の指輪を取り出して指にはめる。しかしその直後、砂と化していたはずの兵馬俑が息を吹き返し、次々と姿形を兵馬俑に変えて二人を睨み付けた。


「おい、ビショップ。さっきの推測だと、兵馬俑は魔力を持った者にしか襲い掛からないはずじゃあねえのか?」

「申し訳ないな、クラックヘッド。恐らく()()()()というヤツなのだろう。先ほど兵馬俑が試合参加者を狙っていたのは、試合参加者に魔力があって彼らが兵馬俑を相手にしていたからだ。しかし試合参加者や魔物を殺し尽くした今、彼らの狙いは指輪を嵌めた私たちに変わってしまったのだろう」


(全く面倒な相手だ。兵馬俑は命を持たない亡者だ。強靭な砂と屈強な鎧を纏っている以上、変形機構式機械鞄を特殊包丁に変化させたとしてもあまり効果がない。バスターガンを使って一体ずつ頭部を弾き飛ばしたとしても、時間が掛かりすぎる。試合本戦まで温存しておきたかったが、ここでリミッター解除をするべきなのか?)


 等とビショップが考えていると、彼とクラックヘッドの真上に空間の亀裂が入り、一人の女性が回廊に吐き出された。

 

 女性は黒い革製のジャケットを着ていて、腕には六芒星の腕章と水上都市メッシーナ帝国の帝国錬金術師である証の腕章が掛けられてある。彼女の色褪せた朱色のポニーテールは、戦闘の邪魔にならないよう纏められてあった。

 

 そして革製の黒ジャケットの内側に秘められた蒸気機関義手は、骸の教団で活躍するイザベラの機関義手と同等の仕組みが施されてあり、彼女の右腕には魔術や錬金術、霊術や呪術に対する耐性が施されていた。


「リリス様! どうして貴女がここに?」


 と叫んだのは、変形機構式鞄をバスターガンに変化させたビショップだった。彼はリリスに迫り来る兵馬俑に向けて、機械鞄に内蔵された【聖赤結晶238】をエネルギー弾として抽出して発射する。その直後、エネルギー弾に付与された聖赤結晶238の効果により、兵馬俑は跡形もなく回廊の壁面に砂として飛び散った。


「ちょっと待ちなさい。息のあるノーライフキングに止めを刺しにいくわ。貴方たちは援護をして!」


 ビショップは小さく頷き、復活した兵馬俑に向けてバスターガンを発射する。クラックヘッドはリリスがノーライフキングに近づけるよう、迫り来る兵馬俑の頭をホームランバットで無茶苦茶に殴り倒し、彼女が進むべき道を切り開いた。


 ノーライフキングは試合参加者やビショップとクラックヘッドとの戦闘により、飛び立つことができない。しかしノーライフキングは純粋な魔族という生き物であり、アンデットの中の王でもある。それ故にノーライフキングは先天性個性の【異常念動力(サイコキネシス)】を扱えた。

 

 ノーライフキングまであと一歩の距離まで近づいたリリスであったが、彼女は彼の念動力により身動きを封じられて床に這いつくばる。が、水上都市メッシーナ帝国の帝国錬金術師リリス・エルヴィアにとって個性による念動力の妨害など、彼女の強い意志と不屈の精神を押さえ込むのに物足りなかった。


「残念だったわね。私は帝国錬金術師リリス・エルヴィア。この程度の念動力なんて地動(ちどう)術を身に付けていれば、すぐに解除できるわよ」


 リリスは首にぶら下げていたタリスマンを握り締め、タリスマンに内蔵された聖力結晶の力を発動する。すると聖力結晶が媒介となって地殻エネルギーが集まり始めた。聖力結晶に地殻エネルギーが集まり始め、地殻エネルギーはリリスの体表を覆っていき、ノーライフキングが発動していた念動力を無効化していく。

 

 ノーライフキングは最大限の魔力の圧力をリリスに浴びせ、先天性個性の念動力を際限なく仕向けた。しかし地殻エネルギーを借りた聖力結晶を身に付けたリリスの前では、彼の念動力の効果は全くなかった。


「私に個性の攻撃は通じない。この回廊に来るまでにお前のような魔物や試合参加者を何十人も葬ってきたからな。そのお陰で【緑化】の後天性個性を昇華させることもできた。お前らには感謝しているよ」


 彼女は腰に備え付けられた【Z555B型魔導ショットガン】を引き抜き、ノーライフキングの心臓にめがけて引き金を引く。すると薬莢に内蔵された小型の魔石がノーライフキングの心臓を引き裂き、彼を魔力の粒子へと変化させた。

 

 クラックヘッドとビショップはリリスの元に駆け付け、現在の状況やリリスがどうしてこのタイミングで転移されたのかを訊ねる。


「こんにちは、ビショップ。クラックヘッド」

「うっす。リリスさん。お怪我はないですか?」

「リリス様。どうしてこのタイミングで転移してきたんですか? 私たちは数時間前からこの回廊で戦っていたのですが……」


 二人が訊ねると、リリスは「もしかして貴方たち。指輪の呪具を着けてないの?」と聞き返した。


「今から一、二時間前、指輪の呪具に案内秘書から連絡があったの。この階層にいる兵馬俑の相手は私がしておくから、二人は指輪の呪具に着たメッセージに目を通しなさい」


 リリスはそう言うと、錬成鉱石が嵌められた革製の穴空きグローブを回廊に着け、六芒星を主軸とした錬成陣を展開した。武器や防具を産み出す六芒星の錬成陣は、中央にいた錬金術師の元に回廊の素材から作られた屈強な槍を作り出す。

 

 その場で立ち上がったリリスは後天性個性の【緑化】を屈強な槍に付与させ、槍の先端に【緑化】の個性の力を付与して兵馬俑に向けていく。

 

 彼女は急所に限らず次々と兵馬俑の体に槍を刺していき、立ち止まることなく回廊を駆け抜けていく。ユズハと修行を積み重ねた彼女にとって、兵馬俑という存在は武器を持った棒立ちの人形でしかなかった。

 

(1、2、3……そろそろ緑化の個性が発動するだろうな)


 等とリリスが心の内側でカウントすると、回廊の全てにいた兵馬俑の内側から、数十本もの茨が突き出て兵馬俑の体を包み込んだ。突き出た茨は兵馬俑の体を縛り上げていき、身動きの一切を封じていく。兵馬俑に絡み付いた茨は、彼らの動力源であった水銀を吸収し尽くして、兵馬俑が二度と復活できないよう更なる効果を与えた。


 帝国錬金術師リリス・エルヴィアは、この数時間の戦いで後天性個性の緑化を第二段階の【茨化】へと急成長させていた。茨化には緑化と同様に、五指で触れた場所から草木を生やす能力がある。彼女が手に入れた茨化という後天性個性は、五指に触れた場所から茨を生やし急成長させる能力と、武器で切り着けた傷口から茨を生やす効果があった。


(後天性個性はアクセルが言った通り、個性は今際の際や生死の境を彷徨うことでしか能力を昇華させられない。最初は緑化を最低な個性だと思っていたけど、茨化に昇華させたら十分に戦える個性に昇華した。だけどカイレンの意図が全くわからない。アイツはどうして私たちが強くなるかもしれない個性を与えたんだ?)


 等とリリスが考えていると、ビショップが彼女を呼び出した。


「リリス様。案内秘書から送られた全てのメッセージを読みました。まさかこんな事態になっているとは――」

「じゃあ()()()()が理解できたようね。まずは指輪に呪力を溜め込みましょう。私も何度か転移呪術をしたから、指輪に呪力を溜めなきゃいけないの」


 三人はしゃがみながら回廊で集めた指輪をひとつずつ拾い上げ、指輪に留められた錬成鉱石を自身の指輪に当てていく。すると嵌めていた指輪が黄色く輝き始め、持っていた指輪の錬成鉱石を吸収した。


「クラックヘッド。一応聞いておくが、今の状況は理解できているか?」

「いや、サッパリだ。取り敢えず別のフロアに転移する為には、試合参加者から指輪を奪って、その指輪の錬成鉱石を俺たちの指輪の錬成鉱石に吸収させりゃあ良いんだよな?」


 クラックヘッドは、リリスとビショップが指輪に呪力を溜めているのを見て、何も考えずに同じ動作を繰り返していた。


「分かった。今の状況が分かっていないようだから簡単に説明してやる」

「おっ有り難えな。一応俺も呪具に送られたメッセージを確認したんだけどよ、話が難しくて途中で読むのをやめたんだわ」


 ビショップは床に落ちていたホームランバットを拾い上げ、クラックヘッドに喝を入れるために頭部へ振り下ろす。しかしクラックヘッドは「真剣白刃取り」と言い、ホームランバットを両手で挟み込んだ。


「まあいい。馬鹿なお前に分かるように簡単に説明してやる。俺たちは現在【巫蠱(ふこ)の牢獄】というゲームに参加させられているらしい。その巫蠱の牢獄をクリアできた者だけが、本戦に参加できる仕組みだ」

「あーそれそれ巫蠱(ふこ)って読むのか。文字が読めなくてルールが頭に入ってこなかったわ」


「話を続けるぞ。巫蠱の牢獄というゲームは、九龍城砦の何処かに隠された十六個の芻霊(すうれい)を見つけるゲームであるらしい」

「おい、ビショップ。芻霊(すうれい)って人形の事だよな? それを見つけるゲームをやるのは構わねえけどよ、案内秘書が言ってた『指輪争奪戦』はどうなるんだ?」


「勿論、指輪争奪戦は継続中だ。更に言えば、巫蠱の牢獄というゲームには、指輪の呪具がかなり関係してくる」

「なんか面倒な話になりそうだな。もっと簡単に話せよ。俺は馬鹿な人工知能だからな」


 ビショップは溜め息をついた後、苛立ちを隠しながら説明を始めた。


・巫蠱の牢獄というゲームは、十六体の芻霊(すうれい)を集めるゲームである。

芻霊(すうれい)は九龍城砦に存在する巫蠱の牢獄の何処かに隠されており、一定の条件を満たすと現れる仕組みになっている。

・指輪の呪具には芻霊(すうれい)との距離や、芻霊(すうれい)を得るための情報が映し出される。

芻霊(すうれい)を探し出すためや指輪の呪具の効果を最大限に発揮するには、他の試合参加者が持つ呪具の指輪に留められた錬成鉱石から力を吸収しなければならない。


 他にも細かいルールが存在したが、ビショップはクラックヘッドが理解できる範囲内で今の状況を説明した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ