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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第3章 青少年期 九龍城砦黒議会 指輪争奪戦編

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02「両部鳥居厳浄心門」


 九龍棟の闘技会場に集められた試合参加者は、(リウ)峻宇(ジュンユ)が用意した指輪の呪具に込められた術式の効果により、城砦の各階層に存在する巫蠱(ふこ)の牢獄と呼ばれる回廊へと転移された。

 試合参加者が転移された回廊には九龍城砦に潜む呪術師や霊術師、錬金術師が設置した罠が惜しげもなく仕掛けられてあり、罠には魔力に呼応して作動する下位術式から上位術式といった殺傷能力の高い物が選ばれていた。

 更に回廊には、九龍城砦の近辺に存在する炭鉱や鉱山を住処としていたガーゴイルやスケルトン、グール等のアンデットに併せ、死者の肉体を基に作り出した僵尸(キョンシー)と呼ばれる妖怪が呪術師や霊術師によって集められ、巫蠱(ふこ)の牢獄内に解き放たれている。


 そんなアンデット達がひしめく四龍棟の路地裏に、転移呪術の術式効果によって突如亀裂が入る。蠱毒と然程変わりもない空間に入った亀裂は、裂け目を生み出して一人の女性を吐き出した。


 空間の裂け目から吐き出された女性は、霊術や呪術に対する耐性のある焦げ茶色の外套を羽織っており、彼女は(むくろ)の教団が支給する特殊な戦闘用の黒い修道服を着用していた。

 その女の腰下まで伸びた頭髪は、柚子の果実を彷彿とさせる様に黄色く輝いている。瞳は青みがかった潤いのある水色に澄んでいて、清澄(せいちょう)さを感じさせるほど瑞々しい透明感があった。


「酷い霊力と呪力の濃さだ。今のは転移呪術だな。転移呪術は通常、転移魔術とは違って複雑な拡張操術を併用しなければ効果が発揮できない。強制転移が可能なのは九龍城砦の外郭に多重結界が存在するからか。空間の主導権は(リウ)峻宇(ジュンユ)にある。それにしても魔物が多いな……いや、魔物だけじゃない。妖怪や怪異、呪霊の気配もするな……」


 路地裏の天井から床に着地したと同時に、その女は通路の角から回廊の様子を見る。彼女はこれまでの経験から自身が置かれた状況を一瞬で理解した。


 空間の裂け目から吐き出されたのは、(むくろ)の教団の転生の境界者の派閥に所属する上級管理者の一人、ユズハ・クラシキだった。

 ユズハは蛍光灯が点滅する薄暗い回廊に目をやり、即座に掌印を組み合わせて【臨界操術・甲冑(かっちゅう)双腕(そうわん)】の術式を発動する。彼女が詠唱を唱えながら掌印を組んで術式を発動すると、彼女の両肺に存在していた二つの霊力核から霊力が体外に溢れ出した。


 体から溢れ出た霊力は空中に漂っていた霊力と結び付いて具現化していき、戦国甲冑を装備した二本の腕へと変化していく。


「スケルトン・ウォーリアーまでいるのか。それにデンパ君が言っていた個性を使う便利屋もいるようだ。臨界操術で腕を二本追加したところで何とかなる数ではないな。さてはて……アクセル達の身も心配だが、まずは近くの敵を一掃しなければな……」


 ユズハは路地の角から通路に目をやる。路地に吐き出された闘技大会の参加者の中には、カイレンに後天性個性を与えられた者がいた。

 通路にはスケルトン・ウォーリアーと呼ばれる剣や盾を持った中位アンデッドが数十体ほど蠢いており、彼らは彼女と同様に路地に吐き出された闘技大会の参加者を相手に容赦なく剣を振るっている。

 中位アンデット一体の強さは、殺傷能力のある蒸気機関銃を携帯した蒸気機甲骸(スチームボット)と同等の強さをしている。単体で襲われれば恐るるに足りない存在だが、群れで襲われれば一溜りもない相手であった。


 しかし、試合参加者がスケルトン・ウォーリアーやガーゴイルに対して上位呪術を発動したのを見てしまい、ユズハは肝を冷やす。


「『上位呪術【一字金輪・断壊の調伏】』か。良い術式を使いおるではないか。呪言や印を結ばなかったのは、この回廊に十分な呪力や霊力が漂っているからだろうな」


 試合参加者の男が合掌後に発動したのは、『上位呪術【一字金輪・断壊の調伏】』と呼ばれる調伏呪法。呪言を唱えて印を結ぶことで、呪力や魔力量に応じて触れた対象を調伏する高等術式であった。


 断壊の調伏を発動した男たちは、次々とアンデット達の死角に回り込んで威力のある打撃を繰り返す。すると断壊の調伏の呪法効果がアンデットの体に駆け巡り、アンデットたちは彼らの支配下に置かれた。


(九龍城砦が霊力と呪力で満ち溢れている理由が理解できたな。この回廊……いや、この城砦は一種の蠱毒で間違いない。もしかすると、九龍城砦の電力は回廊に放たれた魔物や怪異の呪力で賄われているのかもしれない。何処の世界の呪術師や霊術師もロクな事を考えないな――)


 彼女の傍らに巨大な腕が具現化していく最中、ユズハは新たに別の掌印を組んで霊力を練り上げ、最上位霊術の発動を試みる。


「やはり蠱毒の領域という事だけはあるな。霊力は十分に足りている。これなら詠唱を唱える必要もない。地動招魂(ちどうしょうこん)――」


 たが、その瞬間、彼女の視線の先にある回廊の空間に亀裂が入り、裂け目から大勢の男女が滝のように流れ込んできた。


「全員、その場に指を置いていけ。さもなきゃ僕がお前らの指を獲りにいく」


 空間の裂け目から吐き出された男女の中の一人は、持っていた変形機構式機械鞄を花嫁包丁に変化させ、試合参加者の男女を問わず手首を切り落としていく。

 彼は愛する三人の彼女から褒められたナポレオン調の黒ジャケットを着ていて、機甲手首(ハンズマン)と名付けた機械とパンプキンと呼ばれる霊具を組み合わせた防護マスクで口元を覆っていた。


 試合参加者の手首を次々と切り落としたのは、黒髪の青年アクセル・ダルク・ハンドマン。アンクルシティの五番街で便利屋ハンドマンのオーナーを務める人物であり、五番街を掌握する唯一の人物でもあった。


(クソッ垂れ。太極図の術式で知覚しただけでも、敵の数は五十人はいるな。それに魔物も……いや、魔物の気配だけじゃない。僵尸(キョンシー)の気配もする)


 等と考えながら『幸運を祈れ(グッドラック)』と叫び、アクセルは副腎と脳から化学物質を放出させる。彼は試合参加者達の打撃技や剣捌きを最小限の動きで避け切り、強烈な違和感を覚えた。


(コイツらの攻撃速度。妙に速すぎる。僕が遅くなっているのか? いや、そんなはずはない。もしかしたら、敵さんが僕と似た個性を使っている可能性がある。身体機能を向上させる後天性個性なら十分にあり得る。この化学物質を解放させた状態の僕と殆んど同じ速度で動かれるとなると厄介だ。この個性は温存しておきたい。ユズハ先生から教えてもらった()()()()を使うか――)


 アクセルは花嫁包丁の柄を握る指先に力を込め、巻き飛ばしと呼ばれる技で剣を弾き飛ばして、試合参加者の男の喉笛に包丁の切先を突き刺す。彼は花嫁包丁を喉笛から引き抜き、男の血飛沫を浴びて霊術の詠唱を唱えた。


「我は世の道理を遵守する傑物なり。肉叢(ししむら)に秘められし霊力を己が四肢を憑代(よりしろ)にせよ。我は霊力を縛り付ける傑物なり。憑代(よりしろ)と化した四肢を操り、我は白夜を駆ける鬼と姿を重ねよう。『般若の霊操術【霊縛術】』」


 アクセルが術式を発動した直後、彼の周囲に三つの青白い鬼火が漂い始める。鬼火は術式を発動した際に霊力を吸収して発生した霊的存在であり、術者の意思によって動く太極図の符号と似た働きをする。

 

 しかしアクセルは、その事実を知らずに霊縛術を発動した。彼が霊縛術を発動した目的は、身体機能の更なる向上だった。


「お前ら……僕の個性と()()()()を持ってるな。下位互換だろうけど容赦はしないよ――」

「待てアクセル。お主には幾つも借りがある。この場は余が制してやろう」


 アクセルが花嫁包丁を振り上げた瞬間、甲冑を装備した二本の巨大な腕が彼の背後から現れ、試合参加者と魔物を殴り飛ばした。

 見覚えのある巨大な甲冑の剛腕に視線を送り、アクセルは心の緊張を解かずにはいられなかった。


 彼は背後に佇むユズハに視線を送る。


「ユズハ先生! 他の皆んなは――」

「ダメだ。誰とも会っていない。それより余の背後に隠れておれ。術式に巻き込まれたくないのであればな……」


 ユズハが具現化させた二本の巨大な腕には、戦国の世の武士が身に付けていた甲冑が装備されている。腕に装備された甲冑は完全に実体化していて、大袖や籠手と呼ばれる部位には刀傷や術式を防いだ痕跡が残っていた。


 彼女は完全に実体化した甲冑の双腕を前にして、目を丸くして愕然とする。

 

 魔術学校やアンクルシティ、地上に存在する霊力粒子の少ない場では、彼女が発動した【臨界操術・甲冑双腕】は自身の霊力を大量に消費しなければ完全な具現化はできない。


 故にユズハは、【臨界操術】の中でも()()()()()の術式がハッキリと実体化する程の九龍城砦内に漂う霊力と呪力の濃さに驚く他なかった。

 そんな中、彼女は目前の回廊に佇む試合参加者やアンデットたちを睨み付け、空中に浮かんだ二本の甲冑の腕に命令を送る。


()()()()だ。それとアクセル。これから余が発動する術式をよく見ておけ。金を払っても滅多に見られない代物だぞ」


 彼女の意思を汲み取った甲冑の双腕。彼らはユズハの目前に迫った試合参加者に強烈な殴打を浴びせ始め、次第に双腕は殴打の速度を上げて霊力粒子の軌跡を作った。


 アクセルは彼女が作り上げた光景を目にして唖然とする。


(信じられない速さだ。アドレナリンを放出しているのに、それでも目で追いつけない速さで剛腕が動いている。これが最強の霊術師の力なのか……)


「アクセル。霊術師や呪術師の強さはどうやって推し量ると思うか?」

「それは……生まれ持った霊力や呪力量の多さじゃあないんですか?」


 ユズハは腰に差していた七度返りの宝刀を鞘ごと引き抜き、装飾が施された鞘の(こじり)を目前の敵へと向ける。

 

「違う。それらの力は術式を発動するのに必要な力でしかない。霊術師と呪術師を推し量る物差しの代表として挙げられるひとつの例は、その者が調伏又は契約する怪異の強さと考えても良いだろう」

「怪異を調伏する……ですか?」


 彼女が宝刀の柄を握って垂直に保つと、鞘が回廊に落ちていき白刃が顕現していく。鞘の金属音が回廊に鳴り響いた直後、ユズハの周囲に漂っていた霊力の粒子が青白く輝きだし、次第に燃え盛る青白い鬼火へと変化した。


地動招魂(ちどうしょうこん)両部鳥居(リョウブトリイ)厳浄心門(ゴンジョウシンモン)


 青白い鬼火は瞬く間に回廊の両端に燃え移り、佇んでいた試合参加者やアンデットを挟み込むように回廊の奥まで行き渡る。その後、鬼火は幾十もの朽ち果てた両部鳥居に姿を変えて、正中と呼ばれる門から病的な青さに包まれた腕を現し、回廊を支配した。


「ユズハ先生……これは……」

「この術式は地動(ちどう)術と呼ばれる天動(てんどう)術と対を成す術式だ。お主が装備しているパンプキンにも記録されているに違いない。だが、実際に目の当たりにするのは初めてじゃろ?」


 ユズハがそう尋ねると、彼は小さく頷いた。


(ユズハ先生の言う通りだ。パンプキンが残した記録によると、ユズハ先生が発動した地動招魂(ちどうしょうこん)は、招来招魂術式と呼ばれる召喚術式の一種で間違いない――)


 招来招魂術式は通常、異界に存在する怪異と契約、又は調伏しなければ現地に呼び出す事ができない。生物であるなら【一字金輪・断壊の調伏】の様な術式で調伏するか、互いに損のない契約内容を提示して契約を結ぶのが道理に適っている。

 だけど、ユズハ先生が地動招魂で回廊に呼び出したのは、病的な青さの腕ではなく両部鳥居厳浄心門という怪異だ。ただの推測でしかないが、ユズハ先生は至高の霊術師という存在になった今も尚、厳浄心門の中にいる怪異を調伏しきれていないに違いない。


(――地動術は、大地に存在する地殻エネルギーを吸い上げ、体内の聖力核に結び付けて発動する高度な術式だ。厳浄心門の内側にいる怪異が暴れ出さないために、吸い上げた地殻エネルギーは門に注いでいるのだろう)


 厳浄心門から突き出た幾千の青白い腕は、試合参加者を次々と掴み上げ捻り潰していく。逃げ場の無い試合参加者は、断壊の調伏で支配したアンデッドを仕向けたが、厳浄心門が繰り出す幾千の殴打の前では時間稼ぎにすらならなかった。


「まあ、こんなもんだな……」

「凄い。あんなにいたアンデットや参加者が一瞬で――」


「褒めるのは後でで良い。肉片の中から拾えるだけ指輪を拾っておけ」

「えっ……僕が拾うんですか?」


 ユズハは回廊から宝刀の鞘を拾い上げ、刀身を鞘に納める。すると回廊の両脇に存在していた厳浄心門が霊力の粒子に還元され、七度返りの宝刀を鞘に納めた瞬間に、霊力が鞘の中へと吸収された。


 アクセルが肉片の中から指輪を拾い上げようとした瞬間、二人の指輪に施された装飾が輝いた。


「アクセル。これは何だ?」

「指輪の呪具に反応がありましたね。もしかしたら僕たちが参加者を減らした事で、案内秘書からメッセージが送られてきたのかもしれません。手のひらを壁に押し当ててください」


 ユズハはアクセルの指示に従い、手のひらをL字に広げて壁に押し当てる。すると指輪の呪具に留められた錬成鉱石から光が放たれて壁が輝き出し、血塗られた壁にメニュー画面が映し出された。

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