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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第2章 青少年期 九龍城砦黒議会編

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25「霊爆」

 

 それから僕とシオン、ラプラスママと褐色の爆乳ダークエルフは、明け方になるまで『ギリギリアウト』なゲームに勤しんでいた。

 褐色の爆乳ダークエルフ改め『ロビンさん』という女性は、僕が別の意味で最速の男であるのを理解してしまったらしく、彼女なりに精一杯の協力をしてくれた。


 ライムグリーンのビキニを着直したロビンさんの瞳を見つつも、迫力のある褐色の乳房に目を向けてしまった。するとロビンさんは「はい、また見てましたね?」と言って、僕にテキーラショットを飲むよう言ってきた。

 差し出されたテキーラショットを飲み干し、再びロビンさんの瞳をじっと見つめる。


「本当にごめんなさい」

「良いんですよ、アクセルさん。これはおっぱいを見ない練習なんです。女性は案外、男性が自分のおっぱいを見ている事に気づく生き物ですからね」


 知らなかった。女性はそういう知覚能力に長けた生き物なのか。

 もしかすると、女の第六感(シックスセンス)というヤツが働いているのか?


 それから僕はロビンさんに両手を握られながら正面に座り、爆乳を見ないよう注意しながら彼女と話を続けた。


「ロビンさん。今度彼女の一人と結婚する予定なんです。でも相手がダスト軍に勤めている女性兵士なんですよ」

「それはおめでとうございます! ですがアクセルさんの場合だと結婚式を挙げるのは難しそうですね」


 ロビンさんの言う通りだ。

 僕とロータスさんは裏社会と表の社会で生きる正反対の身。

 籍を入れられても結婚式を挙げられる訳がない。


「僕は三人の彼女を平等に愛しているんです。このままだと他の二人も結婚式を挙げない予定になるのかなって思って」

「なるほど。今のままだと確かに他の二人も結婚式は無理そうですね。でしたら、こういった方法はどうですか?」


 ロビンさんは僕の相談を真剣に悩んでくれて、そして僕が思ったことがなかった発想を口にした。アンクルシティに住んでいれば誰もが考える事だが、思っても口にはできない考えだった。

 

 それからロビンさんは僕の手を持ち上げて胸に持っていき、「この建物には宿泊所が備えられています。私はアクセルさんの事が気に入りました。少し飲み疲れちゃったので()()したいです。一緒に部屋に行きませんか?」と尋ねてきた。


 待てよ。休憩ってアレか?

 僕は誘われてるのか?


「アクセルさん。おっぱいは怖いものではありません。貴女に三人の彼女が居るのは理解しました。彼女たちの為にも、私の体を練習台にして最速の男から成長してみせましょう!」

「えーっと。うーん。ご免なさい。今回はお断りします」


 僕は彼女の胸を何度か揉みながらも、ロビンさんの誘いをハッキリと断る。すると彼女は寂しそうな表情をしながら「アクセルさんは優しい方です。貴方の彼女が羨ましいな――」と言って、僕の首に腕を回して褐色の乳房に顔を埋めさせてきた。


 ロビンさんにエッチを誘われたのは嬉しいが、僕には大切な彼女が三人もいる。

 そのうちの二人は妊娠していて、三人とも僕の事を一番に思ってくれている女性達だ。

 たとえスナックに寄り道して、スナックが風俗店だと分かったとしても、彼女達の気持ちを裏切る訳にはいかない。


 但し、エッチ以外の行為は別だ。

 僕は彼女のキメ細やかな褐色の乳房にできた深淵の谷間に顔を埋めて、ロビン様に向けて返事をする。


「本当はロビンさんと合体したいです! 究極合体して天元突破したぐらいです!」

「天元突破って……合体って……結局アクセルさんの頭の中って煩悩だらけじゃん!」 


 ロビンさんの褐色の爆乳に顔を埋めながら、叫び声を上げて僕は煩悩と戦い続ける。すると後ろの方からシオンの声が聞こえてきた。


「おいアクセル。お前、彼女が三人もいるくせに女遊びもしたことが無いって本当なのか?」


 深淵の谷間に顔を埋めて彼の表情が全く分からないが、恐らく彼は僕が女性を前にして緊張する事を嘲笑っているのだろう。

 僕は褐色のダークエルフが作り上げた深淵から顔を引き抜き、シオンを睨み付けながら言った。


「ああ、そうさ。僕はほんのちょっと前まで童貞の身だったんでね。特に褐色の爆乳ダークエルフには良い思い出がなくて、近寄り難い存在だったんだ。僕はこの機会にそのトラウマを消そうと決心したんだ。シオン、絶対に邪魔するなよ!」

「ソイツはすげえ決断だな。邪魔はしたくねえけど、少しだけ話に付き合ってくれねえか?」


 シオンはビール瓶を僕に渡してきて、カウンターに座るよう促してきた。

 どうせくだらない話かと思っていたが、話してみるとそうではなかった。

 彼はビール瓶の栓を開けて酒を飲んだ直後、開口一番『俺は九龍城砦で便利屋をしているシオンってもんだ。自己紹介が遅れてごめんな』と言い、握手を求めてきた。


「ああ、シオンって同業者なんだね。ガタイが良いから炭鉱夫や呪術師とかと思ってたよ」

「それはよく言われる。まあ、これでも一応便利屋をやってるんだ」


 シオンは建築現場の職人が穿いていそうなニッカズボンと黒い半袖、身体中には使用用途が不明なハーネスが装備されている。彼の髪は藍色で手入れをしていないのか、僕とは真逆で漢らしくてボサボサな髪型だった。


 シオンは九龍城砦の中でのみ活動している便利屋だった。

 僕が彼を知らないのは、シオンが九龍城砦を専門としている便利屋だったからであるようだ。その後、シオンは九龍城砦で何かが起こっている違和感を感じて、僕にその正体が何なのか尋ねてきた。


「シオンは確か黒議会には参加してないよね? この二日間で一回も見たことがなかった気がするし」

「まあな。俺は便利屋をしているといっても、黒議会に参加できるほどの器じゃあねえからな。それよりアクセル。話せる限りで良いから教えてくれ。今年の九龍城砦は何かがおかしい。黒議会や九龍棟で何が起こってるんだ?」


 シオンは瓶ビールを持ち上げ、『自分にも何か出来るはずだ』と呟きながらカウンターの回りを行ったり来たりと動き回っている。

 酒の力を借りて興奮しているのは分かるが、彼に九龍城砦の黒議会で起こっている事を話すべきか迷った。


 迷った挙げ句、僕はひとつの提案を彼に持ちかける。


「じゃあ、シオン。僕と戦って勝てたら教えて上げるよ。一回勝負だけどな」

「戦うって……俺とお前がか?」


「うん。ハンデは無し。見た感じだと、シオンは立派な便利屋だと思えるからハンデは必要ないと思ってね」

「オッシャー! 分かった!」


 僕は身体中に駆け巡るアルコールを化学物質を操る後天性個性で一気に分解させ、シオンの跡を追って店の外へと向かう。その道中、上級例術『陰陽の霊操術・【太極図】』の術式掌印を組ながら、詠唱を読み上げた。


「我は世の道理を遵守する傑物なり。増幅する知覚の享受に伴い知覚空間を拡充せよ。我は相反する両儀を統べる傑物なり。四象と八卦、調和を掻き乱す痴れ者を己が霊力で認知せよ【陰陽の霊操術・太極図】」


 自身の肉体に含まれた霊力核を消費する事によって発動した、陰陽の霊操術・太極図。

 術式の範囲はたったの半径五メートルという狭い空間だった。しかし相手が一人であるという事が分かっていれば、一メートルであろうと五メートルであろうと何も変わらない。


 僕は更に脳と副腎からアドレナリンを放出して、音速を越える早さで動ける肉体にまで反応速度を上げる。その後、僕は人差し指を額に当てて「深く揺らめけ(チルアウト)」と呟き、太極図の内側に、面で出来た磁力による斥力の空間結界を作り上げた。


「何処で戦うとするか?」


 とシオンが言うので、僕は「何処でも構わないよ」と言い返す。

 繁華街に居た三龍棟の住人達は僕たちを見るや否や興奮しだし、僕たちを取り囲み始めた。


「囲まれちまったな……ここでやるしかねえか」

「そうだね、シオン。見物客に怪我をさせたら負けだからな!」


 僕がそう言うと、シオンは「そんなの常識だろ!」と叫びながら僕に突進してきた。が案の定、僕が周囲に張り巡らせていた第一の空間結界【太極図の符号】に触れて、彼は弾き飛ばされた。


「この霊力の符号は……()()()か! 良い術式を使うじゃあねえか! 上級霊術は霊術の才能を持った人物しか発動できない術式だ!」

「褒められ慣れてないから、あんまり褒めるなよ!」


 弾き飛ばされた彼に向けて再び接近を試み、空間内を飛び交う術式効果によって生まれた『符号』をぶつけていく。が、符号が一斉にシオンに衝突した瞬間、爆発的な音と共に霊力の粒子と化して宙に舞い散った。


 符号が弾け飛んだ。何の術式を発動したんだ?

 太極図は上級霊術だ。符号だってそう簡単に弾け飛ぶ耐久レベルじゃあない。


 等と考えながら、符号が弾け飛んだ際に出来た煙に目を凝らし続け、シオンがどう動くか様子を見た。

 煙が晴れた直後、そこに立っていたのは右腕の包帯を解いて拳に具現化する程の霊力を纏っていたシオンの姿だった。


「痛ッ……流石は上級霊術だな。判断が遅かったら負けていたところだったぜ」

「シオン。その右腕に纏っているのは霊力か?」


「あ? お前、()()()も知らねえのか?」

「霊爆術?」


 何だよ霊爆術って。初めて聞く術式だな。一応パンプキンに聞いてみるか。

 首輪に変化したパンプキンに手を当て、「霊爆術について知っている事を話せ」と彼女に訊ねると、パンプキンは『申し訳ございません。霊爆術という術式は私の術式データには記録されていませんでした』と答えた。


 この世の【(まこと)(ことわり)】を知るパンプキンが知らない術式か。

 だとすると、シオンはもしかしたら――。


 等と考えていると、シオンが「霊爆術も知らねえのなら、俺がお前の体に教えてやるよ!」と言って、先程よりも素早い速度で再び距離を縮めてきた。


 不味い。太極図の空間内に入られた。

 ここからは符号だけじゃあ、さっきの霊爆術とやらは抑えきれないはず。

 それならこっちもアドレナリンを極限まで高めて反応速度を上げるだけだ。


「掛かってきなよ。僕は強いよ!」


 等と言い残し、僕は太極図の空間内に入ってきたシオンの懐に入り込む。彼が顔面を殴ろうとした瞬間、掌から磁力操作の斥力を放ってシオンの拳を跳ね返した。すかさず僕は彼の腹部に膝蹴りを食らわし、シオンの体を一時的に吹き飛ばす。


「これで終わりだと思うなよ!」


 吹き飛ばした際にシオンの体に掌を向けた僕は『掻き乱せ(グッドトリップ)』と叫び、磁力操作のひとつで彼の体を強引に自分の元へと引き寄せた。が、これが間違いだった。

 シオンがどれ程の力量を持った人物なのか分からないが故に、僕は彼に手心を加えて最後の一殴りをしなかった。その結果、僕は意識を失っていたと思っていたシオンに、()()()という術式によって高められたゴリラパンチをモロに腹に喰らい、膝を着いてしまった。


「っはぁ……っはぁ……なあ、アクセル」

「なんだよ。勝って嬉しいなら叫んだらどうだ?」


 こちらを見下ろすシオンに対して、僕は笑みを浮かべながら悔しさ紛れに言葉を吐き捨てる。


「叫ばねえよ。それより答えろよ。どうして太極図の術式が使えるのに、【八卦掌】や【発と勁】を使わないんだ?」


 シオンがそう言ってきたので、僕は自分の才能に失望しながら彼の質問に答えた。


「僕には色んな才能がない。霊術や魔術、錬金術や呪術、それ以上の術式だって扱えるようになったのは最近の事なんだ。それなのに僕は酔っ払った便利屋一人に負けたんだ!」

「なあ、アクセル。お前が何処の誰だか知らねえけどよ。コレだけは分かったわ。お前は()()()()()()()


 何故だか分からない。

 どうしてだか分からないが、シオンの()()()()()()()()という言葉だけは、今の自分の何かを消し去るような言葉な気がした。


 それからシオンは僕の複雑な事情を詮索する事もなく、ただただ僕の話を一方的に聞いてくれた。そのついでに彼は自身が放った『霊爆術』と『霊爆乱舞』という術式について教えてくれた。


「じゃあ、その霊爆術ってのは霊力を腕と拳に()()だけの術式って事? もはや術式でもないじゃん」

「まあ、術式って思わせた方が相手も混乱するだろ、アクセル。とにかく霊爆術は腕と拳に霊力を溜めて、相手をブン殴る瞬間に霊力を発散する技だ」


 僕とシオンはスナック・ラプラスに戻り、ロビンさんや他のダークエルフが案内してくれたビルの屋上で霊爆術の試し撃ちを試みる。


「霊爆術は怖いぞ? 知らない奴が初めて受けたら不意打ちになるし、()()()()なんてマトモに喰らったら即お陀仏だからな……」


 そう言ってシオンは右腕と拳に霊力を纏い始め、アンクルシティの天井に向けて霊爆乱舞とやらを放った。彼が放った霊爆乱舞とやらは、霊爆術を溜めて拡散して相手にぶつける術式であるため、非常に精度が悪くて的に当たる事は無いとのこと。


「つまりだ……霊爆乱舞の弱点は距離。だがその距離さえ縮めればどうなると思う?」

「あーっ……シオン。その顔、ヤバいこと考えてない?」


 僕がそう尋ねると、彼は「ピンポーン! 大正解! 霊爆乱舞を零距離で相手にぶつければ、相手は即お陀仏って話よ!」と、不適な笑みを浮かべながら言った。


 シオンの明るい性格や口調はベネディクトさんと似ている。

 彼が真っ当に生きていたら、こんな風に話せていたのかもしれない。

 等と考えていると、ロビンさんが背後から抱きついてきて、「アクセルさんも霊爆術をやって見せてよ。できなかったら一緒に()()するからね?」と言って、僕の背中に爆乳を押し付けてきた。


 不味い。

 これは不味いぞアクセルJr.。

 勃つんじゃないぞJr.。

 集中しろよ。煩悩に打ち勝てアクセルJr.。


「大丈夫。僕って最強……じゃなくって変態紳士だから――」

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